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  • 執筆者の写真松田学

財政のパラダイムチェンジこそが「戦後レジームからの脱却」~日本はいつまで世界一お人好しの国なのか~

いつロシアの侵攻が始まってもおかしくないとされるのが現下のウクライナ情勢ですが、「侵攻」、「侵攻」というニュースが流れる都度、ロシアやウクライナの株式や為替市場は急落し、ヘッジファンドやスイス銀行が「買い増し」に入っているようです。それは米首脳と彼らによる「インサイダー取引」の展開を疑わせるという見方すらあります。


確かに、メディアで流れる情報は少し偏っているかもしれません。これまでロシアの安全保障を死活的なまでに脅かしてきたのはNATO側による包囲網の形成。米国内では共和党系が、世界を同質化しようとする「グローバリスト」たちが支えるバイデン政権による軍事介入路線に強硬に反対し、国論が二分されていることはあまり知られていません。


日本では憲法の論議は9条に焦点が当たりがちですが、前文にはこう書いてあります。「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」岸田総理は1億ドルの借款をウクライナに供与する約束をしましたが、本来、戦争当事国の一方に対してやってはいけないはずの支援よりも大事なのは、この憲法前文にのっとって、中立的な立場にある日本こそが米ロ間の仲裁の労をとることではないでしょうか。


この点で少しはマクロン大統領の努力を見習ってほしいものですが、少なくとも、米国からの一方的な報道に振り回され、米国の言いなりという状況からは脱却したいものです。


米国との関係だけではありません。日本の大手メディアが中国や北朝鮮の影響下に置かれていることは、知る人ぞ知る事実。それが日本の世論を創り、政局を動かしてきました。


不正の実体のない「もりかけさくら」が、専ら安倍総理の人格攻撃を目的としてきたものであり、7年8か月もの長期政権でありながら、これによって国会が憲法改正の議論すらできなかったことを忘れてはなりません。すでに決着がついたはずの過去のスキャンダルが持ち出され、経済安全保障の司令塔である甘利氏は幹事長の座から下ろされました。


どうも、日本は、日本が強くなることを望まない外国勢力によって左右され続けてきた国であるようにもみえます。この構造は経済面でもあてはまるかもしれません。


考えてみれば、「改革」の美名のもと、私たちの国民性に合わない市場原理主義を正義と信じ込まされ、せっせと海外にマネーを流し続けて自らは貧してきた日本経済…。私たち日本人は、その勤勉さに鑑みれば、本来享受できるはずの豊かさまで海外に吸い取られてきた。これが平成時代30年の日本経済停滞の大きな原因の一つといえなくもありません。


そんな思いを改めて強めさせてくれたのが、産経新聞論説委員の田村秀男氏との対談でした。今回は、この田村氏の論を基調としつつ、日本のマクロ経済の問題を論じてみます。


●この四半世紀の間、GDPも軍事費も縮小してきた日本

最初にファクトとして指摘しておかなければならないのは、この25年間(1995年→2020年)、ドル建てでみると、日本はGDP(▲8.8%)も軍事費(▲1.6%)も減少しているのに対し、中国はいずれも20倍になっていることです。日本は経済も軍事も深刻な「デフレ」状態…。そして、主要国の中で唯一、賃金も上がっていない国…。


かたや、日本は対外純資産残高が30年にわたって世界第一位の国ですから、世界に最もマネーを供給し続けてきた国です。自分たちは貧しながら、世界を豊かにし、そのマネーは回りまわって中国をも太らせ、中国の軍事費拡大にも回ってきた…技術面でもそうです。


こんなにお人好しな国はないでしょう。その根本にあるのは、国内投資の不足。人口減少で国内市場が縮小していくという展望のもとでは民間投資が出ないなら、財政が出るしか国内マネーの回転を起こす方途はありません。こうした転換を妨げてきたのが、専守防衛と並ぶもう一つの「戦後レジーム」である財政均衡主義…。足元ではインフレ懸念が台頭していると言いますが、日本経済そのものはデフレです。この点の区別も大事です。


知的財産や人的資本といった無形資産も含め、資産性をきちんと評価して、それに見合う国債発行で力強い財政出動へと転じていかねば、日本は終わってしまいます。以下、これらの点で私と同じ見方をする田村秀男氏が語った内容を私なりにまとめてみます。


●いまもインフレではなくデフレ…この病魔を治す気がない日本の為政者

まず、日本経済の停滞がこんなに長く続いているのは、世界の歴史のなかでも珍しいことでしょう。積極財政を唱える主要な政治家としては高市氏や玉木雄一郎氏がいますが、全体では少数派であり、安倍総理もそうでした。岸田総理の施政方針演説には、ひと言も「デフレ」が出てきませんでしたが、では、日本はデフレでなくなったのでしょうか?


いまインフレだと言われていますが、日本経済についていえば、経済学をわかっていないのか、少し混乱がみられます。デフレとは収縮のこと。人体にたとえれば、代謝機能が低下した結果として体温が下がった状態で何らかの外的ショックで体温が急上昇した場合、それは体力が向上した状態とはいえません。今回のように物価が強制的に上がるのはインフレではなく、むしろデフレが強くなっており、インフレは価格だけを見た現象です。


欧米各国は利上げへ転じつつありますが、日銀だけは異次元緩和を継続するというのは、日本は利上げを選択肢にできないぐらい、経済がデフレ状態にあることを示すもの。振り返れば、平成バブルの崩壊後の95年が経済のデフレ状態が強まったときでした。


「これを劇症にしたのが橋本総理。その後、新自由主義が出てきてデフレを強め、日本経済は死んだ。小泉構造改革もデフレ、リーマンショックで民主党政権の迷走、大震災。そして第二次安倍政権でアベノミクス。いいこと言うな、だったが、脱デフレ政策は初年だけ。異次元の金融緩和と財政出動で経済が上がり始めたのに、とたんに消費増税。財務省の中ですら、3%も上げていいのかとの慎重な意見が出たぐらいだったのに、強行してしまった。野田総理のときの三党合意で財務省に乗せられ、実行役は安倍氏になった。」


「せっかく立ち直りかけた途端にドーンと落ちた。2019年にさらに2%引き上げ、そこにコロナが来た。今のデフレは新型コロナだと政府は逃げているが、とんでもないウソ。慢性デフレという病魔におかされている。そこに新型コロナが来た。財政の緊縮と増税による慢性デフレを治そうとする気がない。」(田村氏)


現在の岸田総理は、経済のパイが縮小しているのに、分配を唱えています。その手段が賃上げだとしていますが、その主役は経済界。経団連は大企業の集まりですが、大企業にしてみれば、賃上げは企業の経営判断というのが本音です。「収益があがっている企業はできるでしょうね」(十倉経団連会長)でごまかしています。むしろ、雇用のほとんどは中小企業であり、中小企業は内需型産業が多いですから、内需が委縮しているときに賃上げなどできない相談でしょう。分配をやるというなら、まずは内需を高めることが先…。


●日本国民は外国人のために働いてきた?

やはり、内需に結び付く、将来に希望を持てるような財政出動が必要です。「家計が現預金で1000兆円、企業で470兆円、これを政府が吸い上げる。内需を高め、防衛、デジタルインフラなど、政府がプログラムを組んでお金を出すと、民間がついてきて循環が始まる。企業は25年以上も押しつぶされて、国内で投資したら儲けられないと思っている。このマインドを払拭する政府の出番である。」(田村氏、以下、同)


否定しようもない事実は、この四半世紀にわたって日本の賃金が全く上がらなかったことです。「平均月給は今は32万円、橋本デフレの頃は36万円。4万円も減っている。正社員も働き盛りが下がっている。非正規雇用が増えたから平均的な賃金が下がったという言い方は正確ではない。」


その背景にあるものとして指摘されるのが「株主資本主義」です。竹中流構造改革のもとで「会社は株主のものだ」との傾向が強まりましたが、それまでの日本は終身雇用であり、地域社会も従業員も株主も全部が利益共同体でした。会社法の改正で、米国の法人形態の会社をつくる、それまでの日本は旧態依然としていたから経済停滞だと言われたものです。会社は一種の商品になり、分割して売り買いできることになりました。


そのもとで株主資本を増やさねばならない…これは利益剰余金のことですが、95年以降、給与・賞与の総額は減っているのに対し、95年当時は給与・賞与とほぼ同額だった利益剰余金が、その後、膨らみ続けています。会社はもう株主のものになってしまった…。


それで経済が栄えて給与報酬が増えるなら良いのですが、日本で起こってきたのは、従業員の犠牲のもとに、その多くが外国人投資家である株主を潤してきたこと。これは例えば機関投資家の欧米年金基金への配当のために、つまり外国人のために働いているようなもの。「ナイーブというか、米国の真似をすればいいんだと。これで主権国家といえるのか。」


●日本マネーが中国の脅威を増大させている構図

ここでマネーの流れをみてみますと、日本は30年間にわたり世界最大の対外純資産国(2020末は357兆円)、これに対して米国は世界最大の対外純債務国(同▲1,460兆円)。このどちらが経済成長をしてきたかといえば、世界一の累積債務国である米国です。勤勉な日本人が良い製品を米国に提供し、それで米国から得たドルを米国に再投資し、米国はさらにそれを世界に投資して莫大な利益を享受し…と、モノとカネの両面で米国を豊かにしながら、日本は豊かにならない「悲しいアリと賢いキリギリス」状態です。


その日本マネーは米国だけでなく、中国にまで…。「アベノミクスを未だに続けているのが異次元金融緩和政策であり、これは国債を買い上げて日銀の資産にすることだが、そのお金はどこに?量的緩和政策の本来の狙いは国内でお金を回すことだったが、日本では全然それが効かず、2%インフレ目標も2013年から言っているが、達成どころではない。金融機関から国債を買い上げて日銀から日銀当座預金へと振り込まれたお金は、短期金融市場に流れ込む。そこから調達するのは外資のヘッジファンドなどだ。邦銀も運用の必要のため、国内の資金需要がない中で海外に出してしまう。企業の利益も海外直接投資に回す。」


「結局、日銀がお金を増やした分の相当額が、そっくりそのまま海外に出ている。その資金が国際金融市場に回ってドルに変わり、ドル金利を下げて米国経済を支え、剰余資金が日本から来るから、それが中国に回る。これで中国には外貨が入り、それをバックに人民元を刷り、中国の軍事費にも回る。これが一帯一路のような帝国主義にも貢献している。」


「その原資を提供している国は日本だ。黒田日銀総裁は中国を喜ばせている。中国の脅威は日本が助長している。金融と経済の基本がわかっていないのか。」


●日本の「戦後レジーム」とは憲法に定める専守防衛と財政法に定める非募債主義

日本の金融資産は家計で2,000兆円、これに非金融法人と政府を足し合わせると約4,000兆円、そこから政府に1,400兆円、民間の非金融法人と個人に2,300兆円近くが回っても、国内では回りきれず、海外に対するマネーの純供給額が世界最大となっています。政府が債務を拡大させてもバッファーとなる金額は数百兆円ですから、そのような国が国債発行を増やしても財政破綻など起こらないというのが、マクロ経済バランスでみた日本の実態。


矢野財務次官の「タイタニック号」説は当てはまりません。ユーロ圏の場合は、各国には通貨主権がありませんから、かつてのギリシャのような財政破綻は起こり得ますので厳しい財政規律が課せられていますが、この点でも日本の状況は大きく異なります。


しかし、日本で続けられてきたのは緊縮財政。これはアベノミクスのもとでもそうでした。高齢化とともに膨らみ続ける社会保障費以外は、ほとんどの支出が増えていません。


日本の財政運営の根本にあるのが財政法第4条に規定する非募債主義、つまり、借金を原則として禁じる規定です。「現行の平和憲法と同じタイミングの1947年に施行されたのが財政法。憲法9条2項により戦力を保持しない→しかし、冷戦となりこれではまずい→では、日本も少し軍備を持て→吉田ドクトリンで最小限の軍備となった。均衡財政を守りつつ、軍事的支出を最小限に抑えて経済成長、そして所得倍増へ…これが戦後レジーム」


「70年代後半の大平総理のときには、ソ連のアフガン侵攻で冷戦がピークとなり、レーガン政権から日本もなんとかしろという圧力がかかった。そのもとで、大平氏が防衛費をGDP比で1%未満に保つ中で考えたのが対外経済協力だった。平和的手段で日本の安全保障を確保する。しかし、対外経済協力の最大の相手は中国だった。当時、文化大革命でボロボロだった中国にとっての干天の慈雨が日本の円資金だった。」


「防衛費1%枠は日本のGDPが下落しても守ったが、中国の軍事支出はどんと伸びた。日本はGDPも防衛費も下向き。1995年は日本のほうが軍事費が多かったのに、今は圧倒されている。中国の脅威と騒ぐ前に、日本の政界は何をしているのか。宏池会の伝統か。」


「日中友好で中国が平和的にやるなら、国内で少数民族にも人権重視し、香港も国際合意を守るといった当たり前のことをしていたら、何の問題もなかった。しかし、かつてはODAで、今は異次元緩和政策で、日本が中国の脅威を育てている。」


●日本はマネー面でもハイテク技術面でも世界一お人好しの国…

「岸田政権には、まず、基本認識をかえてもらう必要がある。財政均衡を主張していたら、安倍さん以前よりももっとひどくなる。生産年齢人口の減少でゼロ成長も仕方ないと言う専門家が右にも左にも多いが、日本は資本主義国家だ。民間が血気にはやって投資して、成長するのが資本主義。投資というのは競争力のためだから、自ずと生産性が上がる。」


「国内投資が盛んになれば、経済は成長する。ゼロ成長などと言うのは社会主義者だ。何もしなくていいということだから…。年金をもらう高齢者は予定通りもらえても、負担するのは現役世代だ。これでは疲弊して、愛国心もなくなる。社会心理的にも荒れる。最近、次々と暗い事件が起こっているのも、これと関係がある。」


「人口が減少するのだからIT化などでチャンスを与えねばならない。内需振興でマーケットが広がれば、若い才能が活躍できる余地ができる。せめて先進国平均の名目3%以上を達成できない政権は失脚だ。ゼロ成長のときに『改革』などをやれば倒産の山になる。」


「インフラなどは借金で創られるが、これは国による先行投資。借金が資産に変わる。それが成長資産であるかが問題。デジタルインフラとか、今はデジタルIT関係。若い人の能力を向上させる。人材投資も立派な投資だ。成長に結びつく、借金してよい。」


「防衛も、今の防衛はハイテクの塊だ。ハイテク産業を支えるには防衛がいちばん。米国ではペンタゴンの組織が研究開発の総本山となっており、それが民間に波及、コンピュータ、インターネットといったあらゆる技術がここから出ている。」


日本は根幹から、それができないようにしています。軍事につながる研究は東大でも厳禁。私などはなんとか、サイバーセキュリティの研究を東大でできましたが、それでも防衛省関係者とのコラボは禁止でした。しかし、中国はサイバー攻撃だけでなく、日本の多くの大学では中国からの留学生ばかり。日本の最新の研究論文をいただいて、そのまま本国に持ち込んでいます。これが中国のハイテクのベースを上げ、軍事力の強化に…。日本は軍事につながる研究をしないと言いながら、研究論文を渡して教えています。


中国は2015年から、民間ハイテク技術を軍事力増強の根幹とする「軍民融合」政策を推進しています。マネー面のみならず、技術面でも、日本ほどお人好しな国はないでしょう。


●戦後政治のアウフヘーベンと「松田プラン」

25~30年デフレの背景にあるのは、田村氏が言うように、最小限の軍事と均衡財政主義という戦後ドクトリンかもしれません。「これを外してしまうと、日本は再び軍事国家になるという妄想があり、これは中国がいちばん喜ぶ。日本の産業競争力が上がれば米国も日本を叩いてきた。だから、日本がデフレになっていても米国は構わない。」


しかも、日本は米国の武器を高額で買っています。元航空幕僚長の田母神俊雄氏によると、日本は自衛隊の現場が要らないと言っている武器を、政治的に米国から言い値で買っており、そんな国はほかにはないとのこと。しかも、米国から買ったハイテク兵器のソフト面は日本側にとってはブラックボックスであり、大事な部分は米国に依存しないと自国も守れない仕組みになっているようです。


全体としてみれば、まさに、日本を再び米国の脅威になるような強国にしないよう「マッカーサーが設計した通りになっている」といえるかもしれません。


このように考えると、積極財政へのパラダイムチェンジは、それ自体が「戦後レジームからの脱却」だといえそうです。国益と自立自尊を旨とする安倍氏始め「保守系」国会議員たちは、自民党内では「少数派」ですが、彼らが、これも党内少数派である積極財政派でもあることには一定の必然性があります。


では、なぜ彼らがマジョリティーになれないのか。これは、いまや戦後レジームの権化になってしまった財務省を論破できるだけの理論的根拠や知恵が、現在の政治家たちには無いからでしょう。説明力と根回し力では日本随一の彼らに、国債=将来世代の負担論を展開されると、誰も正面から反論できず、それがマジョリティーになってしまいます。


だからこそ、日銀が保有する膨大な国債を政府発行のデジタル円へと転換していく「松田プラン」が、このガチガチの構図をアウフヘーベンしていく上でも不可欠。恐らく、これ以外に、国債増発による積極財政で力強いマネーの回転を起こし、停滞する日本を再起させるに必要な現実的方策はないでしょう。それは戦後政治のアウフヘーベンという、現在の日本政界最大の歴史的課題を達するための王道にもなるものだと自負しております。


同時に、これは、「松田プラン」を掲げる参政党がなんとしても国政進出を果たさなければならない最大の理由でもあると思います。

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