top of page
  • 執筆者の写真松田学

調整型政治から理念先行型政治へ、処理水と共同親権問題を事例に考える~代表辞任に当たって~

秋にもと予想されていた解散総選挙も、このところの内閣支持率低迷の中で年内は難しいとの見方が支配的になっています。岸田氏は来年9月の総裁任期満了で総理を辞するつもりではないか?それでも三年、総理の座にいたことになり、宏池会の大先輩である大平正芳氏や宮澤喜一氏よりも長くなる。ならば、何も自らの在任期間中に解散に打って出る意味はなく、総選挙は来年秋以降?…以前からあった見方ですが、信憑性が増しています。


その岸田総理が実行委員長となる形で、自民党主催の故・青木幹雄・元参議院議員の「お別れの会」に過日、参政党を代表して参列してまいりました。「先生の言葉には不思議な力がありました。先生の言葉で、幾度となく政治が前に進み、時代が動いたことを私たちは知っています」と岸田氏が述べた青木氏は、「青木の法則」でも知られます。


これは、内閣支持率と与党第一党の政党支持率の和が50ポイントを下回ると政権が倒れるとする法則。世論調査の中には内閣支持率が3割を切るものも現れだした昨今、これに自民党支持率を足した数字は危険水域の5割台に近づいているとの指摘も…。もちろん何が起きるかわからない政界なので、秋の解散が絶対にないとはいえませんが…。


いずれにせよ、数多くの政治指導者を指導してこられたのが故・青木氏。こんなベテラン政治家に何事も相談できた自民党は羨ましいと感じつつも、また、森喜朗氏の言葉や歴代自民党総理の姿に、日本の政治を担い続けた自民党の重みを感じつつも、私がもう一つ、この場への参列で感じたのは、「一つの時代が終わろうとしているのではないか」…。


現世利益を中心に集まるからこそ分裂せずに強い政党の時代から、理念や思いで国民が集まる政党の時代へ。参政党はこうした転換を日本の政治で実現できるかどうかの試金石だと思います。いわゆる自民党政治への「お別れの会」もいずれ…。


その直後、思わぬことで、私は参政党の党首という立場から当分、「お別れ」することとなりました。各紙で報道され、多くの方々が驚かれたようですが、やはり多士済々で重鎮に相談できる自民党とは異なり、党内外の調整が容易でない場合があるのが新党の弱み…と言ってよいのかわかりませんが、8月31日に私から概ね次のメッセージを発信しました。


「私、松田学は昨日、2023年8月30日をもって参政党代表を辞任する運びとなりました。経緯につきましては、神谷氏(事務局長、私に代わり代表に就任)が会見で述べた通り、まず神谷氏から辞任の打診があり、最終的にその方向で進めることを決断した次第です。


これは、党運営について党内外の重要な方々の間で意見の対立があったことにつき、私の辞任をもってけじめをつけようとしたものです。


神谷氏は私にとって参政党を国政政党にするために共に戦ってきた同志、同胞であり戦友であります。その関係や絆は、実務面での関係者間の意見の相違によって変わるものでも、失われるものではありません。


ただ、今は我が党がより結束して前進していくべき時であり、たった一議席とはいえ、先の参院選全国比例で支持者の皆様から176万票をいただいた政党として、その思いと期待に応えていかなければなりません。それを何よりも優先すべきだと考え、私が代表の座を退くことがやむを得ない選択であるという結論に至りました。


今後のことについては、この参政党を結党した人間の一人として、日本の再興のためにはこの党の発展が不可欠であり、そのために全力を尽くすという考えにいささかも変化はありません。参政党は党員が主役の政党です。これからも党員の皆様と共に、全力で活動してまいる所存ですので、参政党、そして松田学に変わらぬご支援を賜りたく、よろしくお願い申し上げるとともに、代表辞任の報告とさせていただきます。」


神谷氏が私の代表辞任を記者発表してから、私のもとには、党を辞めないでほしい、見捨てないでほしいといったメッセージが大量に届きましたが、元々私の側には辞任の動機はありません。党内外の「意見対立」などの真相は公開できませんが、上記メッセージの発出と、その後も去る9月2日(土)は名古屋で、3日(日)は札幌で街頭演説を行い、広くYouTube配信されたところ、安心したとの声や感謝の意が次々と寄せられています。


むしろ、党員の方々から私を次の衆院選で押し立てたいという声があちこちで顕在化しておりますし、今後とも全国に270ある各支部や県連支部等からの要請に応えて、街頭やタウンミーティング、懇談会などで全国を飛び回ることになっています。


日本の政治を利害調整型から国民主体の理念中心型へと変える…その具体的な意味を考える材料として、今回は以下、最近の二つの事例を取り上げてみたいと思います。一つは、福島の処理水放出、もう一つは「共同親権」問題です。


●処理水では対中国の毅然たる行動を…国の尊厳と科学と国際ルール重視を理念とすべし

処理水放出の論点については前号のコラムでも私の考えを記しましたが、その中でも私が特に強調したのは、中国による理不尽に対抗する毅然たる対応でした。国内の漁業関係者への最大の対策も、日本の水産物は危ないとの不当なプロパガンダを抑止することでしょう。この毅然たる対応について、経産省出身の細川昌彦氏が次の5つを提案しています。


➀「中国からの水産物に対して全量検査を実施。中国の原発からのトリチウム排出量が福島第1原発の処理水の5倍以上であることを理由として全量検査を行うことで、中国国内への情報発信にもなる。」


…まさに相互主義。日本はなぜ、中国が海洋排出するトリチウムの量のことをもっと指摘しないのでしょう?当面の外交関係のほうを忖度して戦う姿勢が欠如。福島は22兆ベクレル、中国泰山第三原発は約143兆ベクレル、フランスのラ・アーグ再処理施設は1京1400兆ベクレル。中国は自国海域のみならず、世界の殆どの海でとれる海産物も食用使用を禁止しなければならないはずです。


②「世界貿易機関(WTO)に提訴する。」…細川氏は「日本外交の無策が続いている。岸田文雄首相は漁業関係者への支援策ではスピード感重視だが、中国に対する行動は躊躇するばかりだ。外交当局者は『中国を刺激しない』を繰り返す。しかし水産物禁輸は中国の『経済的威圧』であり、中国はそれを対日外交カードとして利用する」、WTOへの提訴は『対立を煽る』ものではなく、むしろルール重視の外交として重要」と述べています。


③「5月のG7サミットで合意された『経済的威圧に対する共同対処』として本件をG7議長国として取り上げて、代替市場の開拓への支援を求める。」…細川氏は「『調整プラットフォーム』を立ち上げて本件を取り上げるべきだ。国際連携を『見える化』することが抑止力の上でも重要」としています。


④「日本産ホタテの中国での加工施設を中国外に移し、中国に依存しないサプライチェーンを早急に構築する。加工を中国外ですることで中国依存を下げる結果、中国の雇用も失われるので、中国に対する牽制として打ち出す。」


⑤「中国原発からのトリチウム排出、中国漁船による三陸沖でのサンマの大量捕獲など中国の行動の矛盾を突く、中国消費者や国際世論への効果的な情報戦を行う。」


外交はただ口で言うだけでなく、具体的な断固たる行動を背景にするのでなければ目的を達成できません。その根本にあるのが、日本国家の尊厳と科学と国際ルールを尊重すると基本理念を明確に示すこと。この処理水の件も、自民党政権が内外の利害調整で煮え切らない態度を続けてきたことが問題をここまでこじらせたといえるでしょう。


●共同親権を認めない日本はガラパゴス状態~背後にある弁護士利権~

もう一つの事例である「共同親権」については、8月29日の法制審部会で、父母双方の協議で共同親権か単独親権かを決め、意見対立時は裁判所が「子の利益」の観点から裁定するとの方向性が打ち出されましたが、それに先立って松田政策研究所CHでは、この問題に取り組んでいるサキシル編集長の新田哲史氏と対談をいたしました。


離婚したら、夫か妻のどちらかが子どもに会えなくなる。これは、そちら側になった親にとっても悲劇ですが、子どもの心身に重大な影響を与えます。ですから、主要国はほとんどが「共同親権」にだいぶ前に移行しましたが、日本は未だに単独親権の国で、遅れています。国際社会では、日本人と結婚すると子どもに会えなくなるとの警告まで…。


なんでも海外に合わせればいいというものではありませんが、子どもの権利に関わる本件は、グローバルスタンダードで行くべきでしょう。だとしても、単独親権のままのほうが弁護士ビジネスが確保できるので、左翼利権と法曹利権が改革を遅らせてきたそうです。自民党は票田である弁護士業界に引きずられ、維新も妥協案である「選択制」に傾く中、利権とは無関係の参政党が「原則制」を主張することを新田氏は期待しています。


以下、新田氏の述べるところでは…「欧米もかつては母親の単独親権を認める傾向。その後、子供の心身の発達には両親の関与が望ましいという研究結果が出て、1970年代以降、欧米で『共同親権』が普及、90年代には主要国は共同親権に。OECDで単独親権は日本とトルコ、インドのみになった。司法制度が全般的に日本は遅れているが…。」


「仲良く離婚した場合は問題ないが、いがみ合っての離婚だと、お母さんがお父さんに子供に会わせないことが起きる。子どもを連れ去られた側が最高裁で敗訴し、先に連れ去った者勝ちとなった。離婚前に弁護士が相談受けて、スキを見て逃げなさいとアドバイス。継続の原則があり、一度連れ去られると取り戻せない。」


「弁護士の離婚ビジネス化が起きた。これは司法改革で弁護士が増え、サラ金のニーズがなくなった頃で、新たな弁護士ビジネスをつくる必要に迫られた。」


「欧米型の共同親権だと、最初に養育費用などの取り決めをする。子どもの権利からすると両親と会い続けることが良いが、DV問題があるとして拒否できるよう離婚弁護士が活躍。養育費も弁護士が介入してピンハネする例が多い。ルールをつくって家庭裁判所でやるのが合理的だが、弁護士の仕事を確保するために、改革に抵抗。既存のルールを変えたがらない。法曹利権だ。そこに人道上の問題が絡むからなかなか変えられないでいる。」


●利権を排し、次世代の子どものために、との理念を明確化せよ

「いま何が起きているか?報道が十分でないという実態がある。『実子誘拐ビジネスの手引き』という本まである。安倍さんもこれをお読みになり、改革しようと思っていたら亡くなってしまった。」


「日本も加入しているハーグ条約(子どもの連れ去り防止条約)では、暴行やDVで子供に心理的影響を与える場合は拒否できるとされているが、配偶者へのDVを理由に、ハーグ条約を骨抜きにした国内法が整備された。EUでも、日本に何とかしてくれという決議がなされている。マクロン大統領も菅総理に要請した。日本人と国際結婚すると子供を連れ去られるリスクがあると国際社会で言われ始めていて、日本は恥ずかしい状態。」


「法務省の法制審で検討中の共同親権制度案は『骨抜き』になりそうな勢いだ。そこには報道の闇もある。今までよりも前進はするが、選択制と原則制があり、選択制になりそうだ。これは、どっちをとってもよいというもので、ならば、今までと変わらない。」


「仲のいい夫婦なら単独親権でも大丈夫だが、仲が悪いと一方の強い意見が通って、家裁で単独親権でとされがち。なんちゃって規制改革になりそう。推進派も選択制に傾く向きがあり、原則制との対立状態になっている。」


「なぜ骨抜きに?本質は規制改革なのだが、抵抗勢力(左派の活動家と法曹利権)とそこにおもねる自民党の弁護士族議員たちがいる。法務省は法曹利権だから抵抗派だ。自民政調法務部会も弁護士利権で、票田である弁護士業界が大事。ガラパゴスルールではなく、グローバルルールが望ましいはずだ。」


「安倍さんは審議会への左派の浸透を危惧した。清和会にも『裏切り者』議員がいて、安倍さんは呼びつけ、なんでこんな人を入れたのかと問い詰めたが、あいまいな返答だった。安倍さんはこれを思想対立と言っていた。」


「安倍さんかご存命なら、ガラパゴスルールにしない方に持って行ったはず。LGBTと同じであり、左翼利権の浸透を許してしまう。メディアも左翼側なので本質をなかなか報道しない。記事を書くと、集中攻撃や訴訟の嵐に。言論の自由の弾圧を受ける。自分(新田氏)のところも訴えられており、これにカネも時間も取られてしまう。そこで、面倒くさいので報道しなくなる。報道されていないので国民に実相が見えていない。」


「自民党は弁護士利権、法務省は法曹利権。それに対して維新はいち早く共同親権を唱えた政党だが、選択制へと後退しつつある。ここは参政党がタブーを恐れずにやってほしい。原則制を唱えて、報道されていないことをきちんと伝えるのが参政党的だ。既成政党がやらないことをする参政党に期待している。とにかく、子どもとどちらかの親との関係を絶たないようにしてほしい。」


「共同親権にしても、弁護士にはADRの活用で仕事が生まれる。家裁で決まった計画書どおり共同親権が実施されているかをチェックする。『親権ADR』だ。子どもの幸福を考えたら、合理的に新しいビジネスを考えたほうがいい。共同親権になれば弁護士ビジネスも変わってくる。」


…この問題を考える上でいちばん大事なのは子どもの権利でしょう。利権に関係なく正論を唱える参政党の重要政策の真っ先に来ているのが「教育」だとすれば、この党は次の世代の子供の立場に立つ政党です。私は現在、党の代表ではありませんが、こうした理念を明確化した上で、本格的に党内で議論すべきだと考えます。


岸田政権の支持率低迷の原因は、マイナンバーカード問題だとか、物価高による実質賃金の低下、その中で迫りくる国民負担の増加などによるものだと言われていますが、むしろ、岸田氏がいったい何をやりたいのか、その理念や国の方向性がよく見えないということが大きいのではないかと思います。


戦後長らく、日本では55年体制のもとで国の根幹に関わるテーマを政治は先送りしてきましたが、その唯一の例外だったのは安倍氏でした。安倍氏がその理念を十分に実現できないまま抹殺されてしまい、自民党は岸田総理のもとでまた、調整型政治へと先祖返りしているかのように見えます。


こうなった以上、そもそも自民党とは異なるスタイルの理念先行型政治勢力の台頭こそを、大半の有権者が待望しているはずです。参政党がこれに応えられるよう、今後とも全力をあげていく所存です。

閲覧数:159回
bottom of page