臨時国会が11月28日に召集され、29日に石破総理の所信表明演説、同日、「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」の財源を裏付ける今年度補正予算が閣議決定、その成立と政治改革が最大のテーマである今国会は、今週から本格審議に入っています。
この経済対策、事業規模にして39兆円、これを裏付ける財政支出は21・9兆円、うち国の一般会計の補正予算は13・9兆円にのぼります。かつて私が霞が関にいた頃は、経済対策といえば、補正予算の規模は数兆円にとどめ、他の様々な財源を工夫して事業規模を10数兆円まで膨らませて史上最大の対策と胸を張っていたものでしたが、今では、その膨らませた規模での補正予算が当たり前になっています。確かに、能登半島の復旧復興は喫緊の課題ですが、やはり前年の補正を上回る規模を目指した石破総理の大盤振る舞いか…。
その財源をみると、税収が好調と言っても税収上振れ分は3・8兆円、前年度剰余金からは1・6兆円に過ぎず、半分は6・7兆円の国債増発。うち半分は、かつて補正のときはゼロに抑えていた赤字国債3・6兆円。決して国におカネが余っている状態ではありません。
103万円の壁解消の議論で国民民主党の玉木代表は、7~8兆円の税収減の財源について、最近の税収の上振れ分や不用がそれぞれ数兆円にのぼることを指摘していますが、国債依存財政の下では、それらは当初予定していた国債発行の減額に回るだけ。税収の上振れや不用の発生でどこかの金庫におカネがたまるものではありません。消費税もそうですが、その税収の全額を社会保障給付に充ててもまだ不足する分が赤字国債なのですから、増税しても国債発行額が減るだけで、法人税減税の財源になったりするものでもありません。
壁の解消で地方住民税が4~5兆円減収になり、自治体からは福祉などの財源が不足するとの声が上がっていますが、それを放置すれば、自治体が担う住民に近い行政サービスの削減で、別の意味での国民負担が増える結果になります。恐らく、国が地方交付税などで自治体に補てんするでしょうが、壁の解消は恒久措置ですから、今年度当初予算で18兆円にのぼる地方交付税の交付税率引上げなどが迫られるとすれば、これも国には財源がない。
無駄な歳出の削減と言われますが、長年の緊縮財政の下で、いまや伸びているのは社会保障給付ぐらい。これを削ると、それも国民負担増です。結局、他の増税措置を伴わないと、毎年度の国債発行額が恒久的に増えなければ、つじつまが合わないことになります。
先般の総選挙では、物価高による国民生活苦の中で、自公や立民を増税派と批判した減税派(国民民主、れいわ、参政、保守)が票を伸ばしました。確かに、自民党では積極財政派の旧安倍派が潰されたわけですから、来年の参院選に向けて、緊縮財政派vs積極財政・減税派の対立が政党間での対立軸としてさらに強化されるかもしれません。
しかし、国債による財政運営という現実のもとでは、後者の立場をとるなら、恒常的に増大する国債をどう考えるかという視点が不可欠です。その意味では、日銀保有国債を政府発行デジタル円で償還し、これが民間に流通し、国債残高そのものが減るという出口を創る「松田プラン」がなければ、ソリューションは得られないことになると思います。
少数与党の下での今後の政局をあえて展望すれば、今国会では能登半島対策が盛り込まれた補正予算には野党は協力するでしょうが、その後は分かりません。国民民主を納得させられるよう、年末の税制改正や来年度予算で国債の大幅増発を前提とした財政運営を与党は決断できるのか。政治改革の方も、政策活動費の廃止や第三者機関だけでは立民が納得しない…。来年の通常国会で多数派の野党が内閣不信任案を可決する事態があり得ます。
なお、焦点の企業団体献金の禁止については、自民党の収入の1割に当たる25億円を失うわけにはいかないという事情があるでしょう。野党側も、例えば新聞事業からの収入の存在とか、労組系の政治団体を通じた寄付は企業・団体献金とはされていないことをどう考えるのか。そもそも政治にカネがかかっている現実の中で一筋縄ではいかない問題です。
内閣不信任案可決となれば内閣総辞職か解散総選挙ですが、前者の場合、石破氏に代わる選挙の顔となれる人が果たして今の自民党にいるのか。後者の場合、石破氏のままでは与党が多数を取り戻すのは困難か…。高市氏の総理登板なら、岩盤保守層が自民支持に戻ってきますが、今の自民主流派は徹底的な高市潰しをした人々です。
こんな行き詰まりを打破する道は、低迷する石破内閣の支持率回復にしかありません。岸田前総理の場合、バイデン大統領との蜜月関係で外交に政権浮揚の活路を求めましたが、今や、その頼りの米国は、石破氏をスルーする?トランプ氏の時代。アジア版NATOのような理屈をこねまわし、外交の舞台でも陰鬱なイメージを与える石破氏では期待薄か…。
今回の所信表明演説で石破総理は、10月の演説の際に出た「石破カラーが見えない」との批判も踏まえ、「在日米軍施設・区域の自衛隊による共同使用を進めるとともに、駐留に伴う諸課題の解決にも取り組みます」として日米地位協定改定に意欲をにじませました。
しかし、この日米地位協定、日本の自立のためには絶対に必要でありながら、石破氏が口にするとかえって台無しになる…今回は以下、こう述べる山岡鉄秀氏との対談の内容をご紹介します。トランプ政権は絶好のチャンスなのに、今の石破自民党ではこれを活かせない。波乱含みの日本の政治情勢の下で、米国も世界も大きくか変わろうとしている現在、真の政治指導者の下での安定した政権運営の実現こそが、日本の喫緊の課題なのでしょう。
●日米安保条約は日本を守ることが趣旨ではない、単なる行政協定が占領の実質を規定
来年1月に発足するトランプ次期政権は、来年、戦後80年を迎える日本が米国の植民地状態から脱して自立国家へと歩むチャンスです。その上で避けて通れないのが、石破総理の持論である日米地位協定の改定ですが、この問題については、日本国民には意外と知られていない事実関係から説き起こしていかないと、本質は見えてきません。
過日の山岡氏との対談は、それに迫るものとなりました。同氏によると…、「日米地位協定の改定はものすごく重要。これをしないと対米自立ができない。であるがゆえに、石破さんが軽々しく扱うと台無しになる。日米安保条約の下に日米地位協定。元々は行政協定という名前でスタート。安保条約は1951年に調印、52年に発効。」
「条約は議会の批准が必要だが、行政協定は行政府の間で取り交わす。政省令のようなもの。しかし、条約を読んでも抽象的で、大事なことは行政協定に。国会も通していない。」
「日米安保条約のオリジナルの第一条には、米国軍を日本国内に配備する権利を日本は許容し、米国はこれを受諾すると書いてある。同日にサンフランシスコ講和条約が調印。ならば、占領軍の撤退が本来であるが、当時の冷戦が始まり、朝鮮戦争という現実を前に、丸腰の日本は米軍に残ってほしいと打診した。」
「米国としても、やっと戦争に勝ったので簡単に引きあげるわけにはいかない。東西冷戦を考えると、日本は地政学的に重要なので、米国が恒久的に占領状態と同じ状態を無期限に。形の上では、独立だが実質的にそうでない。軍事占領されているのだから、独立はできない。好きな期間、好きな場所に基地を置けるとされた。これでは北方領土は返ってこない。そこに基地を置けることになるから。ロシア側としては返せない。」
「行政協定は思い切り一方的なものとなった。治外法権を好きな場所に好きなだけ。安保条約は日本を守るものではなく、米軍の都合。戦略的に重要だから日本を拠点に使えるようにというもの。後方支援を担うのが在日米軍基地。世界最強の米軍がいれば敵は攻撃できないから、結果として抑止力になってはいるが、条約の趣旨は違う。」
「在日米軍のミッションには日本の防衛は含まれていない。基地を政治的に容認させるために、とされた。その代理人が自民党。日本国民がここを勘違いしている。」
●改定に挑戦した岸信介氏の挫折、米国は用がなくなった人は消す
「1960年に、あまりに不平等ということで努力した政治家が岸信介。安保条約をより平等なものにしようと。その眼目は行政協定の改定。彼はA級戦犯。出所して米国からの莫大な資金で自民党を運営。米国からは使える人物だった。だから、同じA級戦犯でも東條英機とは異なる扱い。その岸氏が改定を試みる、そうするとけしからんということで圧力。」
「押しまくられて、岸は改定できなかった。安保条約は、共通の脅威に対して共同で対処との一文を入れられた。しかし、その国の憲法と法律に乗っ取ってと書かれていて、NATOのような、自動的に発動される集団的自衛権のようなものではない。議会でどうする、になる。相互義務的でなく、日本を守るかどうかの裁量権は米国にある。」
「行政協定は名前が日米地位協定に変更。しかし実質は不変。変えられなかった。安保反対デモが何十万人。それが岸政権打倒に収れん。そして退陣。そこに工作があった。改定しようとする岸は、ここでお役目ごめん。米国は自分たちに都合のいい人は持ち上げるが、用がなくなり邪魔となると消す。その最たるものがサダム・フセイン。イラクでクーデターをさせるために支援された人物だが、従わなくなると言いがかりで殺す。」
●日本だけが言いなり状態の日米地位協定、進んで占領の継続を望んだ例外的な国
「なぜ米国大統領は横田基地に直接入る?税関も入国審査もない。地位協定に書かれている。米兵の家族や基地関係者、軍属はビザもパスポートも要らない。自由に基地から出入りできる。治外法権の飛び地に。米軍関係者からみると、国内移動と同じ。」
「米兵が犯罪をおかしたら?日本側が起訴するまで身柄は引き渡さない。逮捕しての取り調べができなくなる。起訴も難しくなる。日本の市街地でクルマをぶつけても、相手が米兵なら日本の警察は帰ってしまう。管轄権は米軍。」
「確かに、基地があれば地位協定は必要。独伊にもフィリピンにもある。しかし、地位協定で各国は、治外法権にならないよう、米兵をその国の法律の範疇に収めるよう努力。そうでないと占領状態。ドイツは既に地位協定を3回改訂。ドイツの法律に準じなければならないと。フィリピンも憲法で外国軍を常駐させてはならないとしていて、建前は『巡回』となっている。それでも、建前がそうなのが重要。日本だけ言いなり。」
「戦後、吉田茂が抜擢された。吉田はGHQと対等に?完全なウソ。戦争に敗けた以上、まな板の上の鯉だ、包丁がどう動こうと、堂々と裁かれるんだ、と述べた。敗けても、とことん自分たちの独立の矜持を失ってはいけなかったはず。」
「他方で、石橋湛山や重光葵は自主独立を目指した。6年で陸軍、次の6年で海空軍の撤退で、有事の時は駐留との交渉をしようとした。これに対し、吉田たちは迎合。そういう人たちがいて、自主独立派は力を失い、まな板の鯉派が主流に。」
「アラブならジハードだ。日本人は進んで協力した。普通なら一方的に押し付けるだけでは占領政策は成功しない。勝者の側につく敗戦利得者。その人たちが主流になる。イラクやアフガンでは協力しないし、自爆テロ。日本の戦後占領は歴史的に例外的。」
●沖縄強姦事件でも改定できず、GHQによる軍事的占領の継続を肯定する戦後保守
「岸信介が改定を試みた35年後に、沖縄駐留米海兵隊と海軍軍人の併せて3人が地元の女子小学生を拉致して集団で強姦。沖縄県警は3人を逮捕しようとしたが、日米地位協定が立ちはだかった。実行犯は県警に引き渡されず、県民の怒りが爆発。当然、地位協定の改定の申し入れとなるが、改定できなかった。」
「米側は譲歩して、凶悪犯罪の特定の場合などにおいて日本が行う被疑者の拘禁の移転に好意的な配慮を行う、合同委員会で提示される特別な見解を十分に考慮する、拘禁の移転についての要請を合同委員会で提起する、と。集団強姦されても、運用の改善しか得られなかった。『特別な考慮』だけ。なぜ改定できないのか、日本国民は真剣に捉えねばならない。正に属国の証明。トンデモナイ弱腰外交。」
「日米合同委員会で提起?文句があるならそこで言えと。これは日米地位協定の中身について議論する委員会だが、オープンの場ではなく、相手はほぼ軍人、日本側は官僚で、政治家はゼロ。存在すら認知されていなかった。鳩山由紀夫がしゃべったのでバレた。ブラックボックスの存在。DSのようなもの。」
「地位協定の改定という重要なアジェンダについて、立法府から一人も入っていないのはおかしい。行政協定、行政の範囲でしかなく、何をやっているかわからない。行政協定でも重大な問題だから、国会で審議すべきことを求められるはず。」
「相手は軍隊。ここにいびつな軍事的占領そのものが見える。まさにGHQだ。それが残っている。アングラGHQ。日本国民の人権と生命に関わる問題について国会が関与できず、それがない密室で決められる。これが日本が置かれている構造だ。」
「この過酷な現実を国民だけでなく、国会議員も知らない。国家主権に関わる問題。日米安保条約の本質と、その下の地位協定と合同委員会で日本は独立国家でない。米国の衛星国でありかつ人質である。しかも、いざとなったら米国が助けるわけではない。」
「自分のことを自分でしないから、こうなる。日本の伝統的な保守派、読売、産経の皆さんが称賛する吉田ドクトリンの成れの果て。本当に保守なのか、従米保守ではないか。吉田茂がやった、占領されて経済発展という実をとる、それを称賛するのが戦後レジーム保守。日本の保守言論が、米国による統治体制を肯定し、維持するものに。」
●改定の提起は反米にあらず、建設的日米関係の文脈で、トランプ政権はチャンス
「このように主張するとお叱りを受ける。いま日本は危機的状況だ、中国の軍拡、台湾有事、この事態で米軍の圧倒的戦力をこちらにとどめ、エンゲージを維持することが日本の死活問題であるのに、米側にこの話を持ち出すのはマイナスだと。ただ、彼らはそう言って逃げてきた。」
「その発想は経済面でも。米国から言われた構造改革で賃金が上がらない経済に。失われた30年もそう。経済政策上の従属に起因。日本という国の決定的な米国依存となっている根底に吉田ドクトリンがある。ただ、彼も晩年に、あれは日本が国力をつける前の緊急避難措置であって、まだ続けているのはマズいと気付いた。後悔はしていた。」
「地位協定について語ること自体、あたかも反米的な行為であるとの思い込みが、お叱りをする側にあるが、それは違う。トランプ政権は自立した関係を求めていくとしている。日本として自主防衛努力をし、日米の役割分担を明確にする、ついては、この占領状態にある協定は改定したいというのは真っ当な議論。喧嘩を売るものではない。」
「トランプ政権は、これを言うチャンス。トランプやバンスの言うことを逆手に取り、では、こうしましょうと。その一貫として改定。理にかなっていることなので、向こうも一方的に無視できないはず。逆に、言わないと、向こうも相手にしない。」
「トランプ政権チームの人にこう話すと、それはそうだとなっている。これがバイデン、ハリス政権ではそうはいかなかった。内政干渉をいとわない最悪の政権だった。」
●石破総理が提起すると台無しになる訳、信頼関係とウィンウィンの高度なネゴの中で
「だが、石破総理にはできない。議論の中で建設的にこの問題を提起するというのは、非常に高度な交渉力、外交力、政治力が必要。まずは真の信頼関係、一緒にやっていこうという雰囲気を醸成して、そこで出していく。その中でやろう、仲間として一緒に歩んでいこうという信頼関係の中で提起しないとダメ。」
「がっつり四つに組んで。ネゴシエーションとはタフなもの。常にウィンウィンの着地点を目指していることをアピールしなければならない。石破さんは5分も話せない。寄ろうとしても結構ですと。マールアラーゴにはミレイさんも。本当なら来いと誘われないといけない。」
「安倍さんはトランプタワーに会いに行った。いろんなルートを駆使して。ゴルフクラブを贈った、こういう行為に石破さんは否定的。ご機嫌取りはしないと。僕は言いたいことを言うだけだからと。しかし、役に立っていない。そういうスタイルでちゃんと交渉できればいいが、話もできない。そういう人に地位協定改定の交渉はできない。あなたに口にしてほしくない。台無しになる。」
「日本という国の在り方、独立性、自立性に関わる重大な問題。国会で審議されずに70年間維持されている状況。本当に良い日米関係を創るために必要、ここを乗り超えないと。安倍さんでもできなかったこと。米国を怒らせてはいけないという発想ではない。本当の意味でのアライアンス、安全保障を米国とガチで話し合う。その過程で提起すべきこと。」
「スムーズな基地の運用のためにも地元国民の理解が必要。米国ではできない超低空飛行を沖縄ではやっている。日本国内でも米国で適用されている法律や制限を守ってほしいもの。日本中どこにでも基地が置ける。米軍管制下の空域、横田から新潟まで、日本の航空機は迂回、燃料も時間も余計に。完全に占領下。同じ敗戦国のドイツはそうでない。」
「地位協定の問題を追及しているのは左翼だというお叱りも受ける。保守派がこの問題を取り上げると彼らを利することになると。しかし、これは右とか左ではなく、国家として当然のこと。左翼のアジェンダだからタッチすべきでないというのも違う。日本の植民地状態を肯定するのが保守なのか。そうだから、LGBTを飲まされるのではないか。」
「重要な内容だからこそ、石破さんに安易に言ってほしくない。米国に自衛隊の基地を創るとか、アジア版NATOとか、よくわからないことを言っている。そこに中国を入れてもいい?そういうことを言うなら、よほど目的を明確にして、主要アジア国からの賛同を得て言うべきもの。誤解されて不信感を持たれるだけ。そんな人が地位協定改定などと。」
「日本が自主防衛を高めるということとのバーターでやるべきこと。参政党にできますか?これは交渉なので、まずは建設的な提案ができる国にならねばならない。」
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