今年は世界の景色が変わり始める年~日本は未来への道を始められるのか~
- 松田学
- 2020年1月6日
- 読了時間: 6分
更新日:2020年2月8日
2020/101/06
年末年始の休みも昨日で終わりましたが、良いお正月を迎えられたでしょうか。IR疑惑に続き、大晦日からのゴーン氏国外脱出報道…政界の桜御苑物語の次は、今度は特捜バラエティかと、報道には興味津々ながら、各界リーダーたちにまつわる相次ぐ珍騒動の数々には辟易だったかもしれません。ただ、新年ぐらいは、令和新時代がどんな時代になるのかと、国の行く末に思いを巡らせた方もいらっしゃるかと思います。
では、令和二年はどんな年になるのか…?こう尋ねられたとき、私は、「世界の景色が変わり始める年になる」とお答えしています。「変化の始まりが始まる年」ともいえます。
ちょうど、日本が令和時代を迎えたとき、世界は、ここ30年間続いてきた潮流が逆転あるいは転換する局面の真っただ中にありました。
令和の前の平成時代の30年をふり返ってみると、それはマルタ会談やベルリンの壁が崩壊して東西冷戦が終結した1989年から始まり、世界的に、(1)グローバリゼーション、(2)インターネット革命、(3)金融主導の3つの潮流に特徴づけられた30年でした。
90年代には米国が世界の資金循環センターとして世界に君臨、2000年代に入ると、今度はオープン、グローバルの枠組みのもとで中国が著しく台頭…、先進国では格差の拡大、中間層の崩壊、移民問題も相まって強まるポピュリズムを前に、民主主義も危機に…。
前述の3つの大潮流が現在は、(1)が世界の米中分断ブロック化へ、(2)がブロックチェーン革命へ、(3)が電子データ主導へと変わり始めています。世界の戦略分野も、かつての石油や食料、金融から、いまや電子データが経済の最大の付加価値の源泉です。
今後、少なくとも数十年は世界を支配するこれら新潮流も、一挙に世界の景色を変えるのではなく、今年から徐々に変え始める…、このことは、情報技術の分野と国際的な政治経済秩序の2つの面で起こると考えています。まず、情報技術からみてみましょう。
●情報技術で世界の変化の始まりが始まる
今年から日本でも5Gの実装が始まります。これは従来の4Gと比べて通信速度が100倍、「高速・大容量」、「超低遅延」、「多数同時接続」の3つの特性により、IoT(モノのインターネット)がいよいよ実現可能になります。日本政府の言う仮想電脳空間(バーチャル)と物理空間(フィジカル、リアル)とが一体化する「Society5.0」の基盤にもなります。
私はそこからさらに、IoTからIoH(人間のインターネット)へと踏み込み、情報革命を唱えたトフラーの「第3の波」に続く「第4の波」が、Society5.0の人類社会に訪れると主張してきました。これは「人間(生体)革命」。体内や脳内に埋め込まれる無数の端末がネットでAIなどとつながり、人間自体が進化していく時代になる。
ただ、こうしたデータ主導型の新経済社会への起爆剤として全ての産業分野に浸透する5Gも、まだ現時点では、企業の現場からは「5Gならではのサービスがなく、4Gで十分」、「ビジネスになるものが見当たらない」、「何をやればいいかわからない」との声が大勢なのが実態です。むしろ、5Gで何をするのかを自ら考えるイノベーションのプラットフォームができる段階だと捉えるべきでしょう。だから、「始まりが始まる」。
情報技術分野では同じことが、ブロックチェーン革命にもあてはまります。「メリットが見えない、クラウドで十分」なのが現段階。これも、ブロックチェーンのメリットそのものを創造する、これからのイノベーションこそが問われる性格の基盤技術だといえます。
ただ、世界では、このブロックチェーンから新しい動きが胎動し始めています。今年は、中国がいよいよデジタル人民元を発行する可能性が出てきました、リブラの行方とも相まって、既存の通貨システムやお金の概念そのものが変わり始める年になるでしょう。送金などが必ずしもユーザーフレンドリーではなく、途上国や新興国の人々への「金融包摂」も不十分だった…、そんな既存の法定通貨の世界に重大な反省と変革が迫られています。
このなかで日本はどうするのか。私は政府暗号通貨「松田プラン」と、ユーティリティトークンである「みらいのお金」が支える「協働型コモンズ」社会の建設を唱えています。
●国際秩序全体の変化の始まりが始まる…日本の選択は?
次に、国際的な政治経済秩序ですが、昨年12月に英国の総選挙で保守党が圧勝し、今年はいよいよ、英国がEUから離脱します。これは、世界の分断化の潮流を促進し、国際社会が新たな秩序形成へと向かい始めることを意味する出
来事。訪英した習近平をエリザベス女王がrude(無礼)と評した意味も明らかになるでしょう。ブレグジットは民主主義の失敗ではなく、英王室の意向にも即した大英帝国復活への英国民の意思表明だと思います。
独仏を軸とするEUの官僚主義から国家主権を取り戻し、かつてのアジア、アフリカにまたがるコモンウェルスを軸とした大英連邦を蘇らせる。これが諜報面でのファイブ・アイズ(米+英+加+豪+NZ)とも相まって、アングロサクソン連合を形成、地政学的な意味での海洋国家軸(シーパワー)の結束が強まり、中国やロシアなどの大陸国家軸(ランドパワー)を包囲し対峙するかたちで、次なる国際秩序が形づくられていく…。
このなかで、海洋国家たる日本として、あるべき選択は明確です。台湾、フィリピン、へとナム、インドネシア…そしてインドへと、安倍政権が米国とともに進める「インド太平洋構想」を推進し、太平洋の海洋国家が中心のTPPイレブンの番頭として英国とも組み、アングロサクソン連合との結びつきを強めていく。こうして、東西冷戦が未だに残る東アジア地域において、ランドパワー諸国の全体主義と対抗できる軸を形成していく。
米中新冷戦で始まった世界の分断化が、こうしたかたちでの国際秩序全体の再編へとつながるなかで、日本が両パワーのかけ橋としての独自の存在を築ける可能性も出てきました。今年は、ランドパワーの中国も含むRCEP(日中韓+ASEAN+豪、NZ+インド?の16カ国による東アジア地域包括的経済連携)が妥結に至る可能性がある年です。
そうなれば、日本はTPPイレブン、日・EU経済連携協定、日米貿易協定、そしてRCEPと、世界のメガ経済圏のいずれにも属する世界唯一の国として、国際社会のルールや経済秩序形成の「扇の要」の位置に立つことになります。
そこで人類社会の課題解決モデルを先導し、「日本新秩序」をもって「世界のソリューションセンター」となる。
その上で、今年の日本に問われるのは、やはり、憲法改正についても、その始まりを始めることだと思います。国際秩序の大変動のなかで、日本の主体性や独自性を確保するためには、憲法上も国家「主権」を明確にしておく必要があります。警察権の行使が守るものが治安だとすれば、自衛権の行使が守るのはまさに主権。「自衛隊を置く」との規定には、これで専守防衛は変わらないとしても、主権の明確化という大きな意義があります。
世界の景色の変化が始まる今年は、日本が未来を拓く道を始める年でありたいものです。
ご参考まで、世界の景色が今年からどう変わり始めるのか、松田学が時事問題を論じるシリーズとして、次の2つの動画を松田政策研究所から配信しております。お時間のある方はご視聴いただければ幸いです。
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