対中包囲網のトランプ関税で岐路に立つ石破政権~困難なウ停戦と中東和平で岐路に立つ?トランプ政権~
- 松田学
- 2 時間前
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トランプ関税が世界を揺さぶっています。その中で日本が真っ先に協議の対象国となりましたが、これは決して喜ぶべきことではなく、日本の国家路線そのものが試される重大な危機といえるでしょう。なぜなら、そもそもトランプ相互関税とは対中包囲網のツールであり、日本がその仲間かどうかの踏み絵を踏まされているからです。
石破官邸は意気揚々、赤沢大臣との会談にトランプが出てきた、最優先国として協議する…と。愚かな見方です。それでは泣きを見させられるでしょう。トランプ氏自らが「格下の格下」の赤沢氏に会ったのは、対中包囲網の上で日本が重要なポジションにあるからです。これは日本を重視する姿勢をもって対中包囲網の姿勢を示したもの。もし、日米の協議が決裂したら、(ましてや日本が報復の挙に出れば)、喜ぶのは中国です。
かつてピーター・ナバロ氏が著書「米中もし戦わば」で示した通り、中国は対米貿易黒字で稼いだドルで金融緩和で経済を強くし、軍備を拡張。中国の覇権の伸長をとめるのは対米黒字の削減であり、それが関税というのがトランプ氏の考え方です。今回、中国にかける関税と同盟国にかけられる関税は次元が違います。今後、世界がブロック経済に向かい、中国中心の経済圏と米国中心の経済圏が形成される中で、日本はどちらにつく?
このことが問われているのに、日本の経済界は中国依存です。そんな日本が米国のパートナーになれるのか…。敵か味方かはっきりしない。だから関税をかける。ベトナムはすぐに反応しました。同国が中国の迂回貿易ルートとならないよう、一定の規制をすると表明、ならば米国と一緒にとなりました。こうした色分けのための全世界への関税措置です。
ただ、日本としては言うだけではダメでしょう。対中包囲網に加わる証しを示す必要がありますが、森山幹事長や公明党の代表が中国詣でをしている姿は、米国からみたら「中国を切れない?」と受け取られかねません。ビザを緩和し、おかげで東京は中国人だらけ。経済界は中国との関係を切れない。対中デカップリングの姿勢をまず示す必要がある中で、今は逆方向です。これでは無理難題をふっかけられ、日本は他国へのみせしめに…?
日本は常に「等距離外交」を標榜しますが、これを許さないのがトランプ政権です。コメの関税700%との発言はデマですし、ボーリング球検査もデマであることぐらいトランプ政権は分かっています。これは、対中包囲網で恩恵を受けるのは日本であり、そのための負担を日本は負う気はないのかとのメッセージでしょう。
トランプ氏は日米同盟が片務的、不公正と繰り返しています。ならば、これを奇貨として「国軍を持つよう憲法を改正し、核武装についても議論を進めます」と言い返すチャンスです。そうした強いリーダーシップを持つ為政者をこそトランプ氏は尊敬するでしょう。このままではいずれ、トランプ氏によって石破氏の首はすげ替えられるかもしれません。
元々、中国共産党を創ったのはトルーマン政権の米国でしたし、現在の中国の経済的な発展を導いたのも米国でした。中国を増長させてしまった、中国退治を今やらねばいつやるのか…これが米国の本音です。中国軍にもはや米軍は勝てません。日本は自ら音頭を取って、トランプ政権と手を携えて中国の暴走を止める最後のチャンスを活かすべき局面。なのに等距離外交では、トランプ政権も戦略を描けないでしょう。
他方で中国にとってトランプ関税は、対米貿易では大損失ですが、中国もしたたかです。早速、グローバルサウス諸国を囲い込みながら、自らのブロックを形成するチャンスとしてこれを活かそうとしています。習近平氏も意気揚々かもしれません。新たな一帯一路がアジア、中東、中南米、ロシアへと広がり、将来は中国中心の通貨圏まで…。
トランプ氏も関税だけでは中国を締め上げられないことはわかっているでしょう。簡単には行かないからこそ、日本などと結束しようとしており、今回の日米交渉はそのための最初の交渉になっています。日本は岐路に立たされています。
しかし、そのトランプ大統領ですが、国内外から高まる批判に直面し、支持率も低下するなど、現状では決して順風満帆とは言えない状況に直面しつつあるようです。これを打開するにはウクライナ停戦や中東和平で実績をあげなければなりませんが、この点についても、著作家の宇山卓栄氏は、トランプ氏は意外な弱点を抱えているとしています。
果たしてトランプ氏は自身が公約してきたように、この両戦争を終わらせることができるのか。今回は以下、この点について楽観論の立場に立つ軍事専門家の矢野義昭氏と、「行き詰まり状態にある」として悲観論の立場に立つ宇山氏がそれぞれ、私との対談で展開した議論をご紹介したいと思います。ただ、いずれにしても、決断が問われるのは日本です。
●トランプ-プーチン枢軸でウクライナ戦争は終結へ
まず、ウクライナ戦争についての矢野氏の見方ですが、同氏によると…「トランプとプーチンの両政権の間で交渉は進んでいる。欧州とズレがあるなどスムーズに進んでいないが、早く停戦に持ち込み、ロシアとの関係を改善したいのがトランプ氏。米国本土の防衛が第一、対外的には対中シフト。軍事資源をいかに対中にシフトするかが最優先。」
「そのためには早く停戦だが、プーチンからすると地上での戦闘は圧倒的に優位。交渉を優位にするためにも停戦を急ぐ必要がなく、ゼレンスキー側は強硬で欧州がバックアップ。これがなかなか米国主導でできない背景。」
「ウ軍はあちこちで孤立状態で、逐次陥落している。ドンバス全域を取るのが今のロシアの最低限の目標。それが交渉の前提。ウのNATO加盟はもはや非現実的に。米国も合意した。欧州は停戦監視軍を送るとしているが、ロシア側はせっかく取った領土が…となる。8万人必要だし、誰が負担する?欧州にはそんな余裕はない。軍事力強化も5~10年かかる。」
「そもそもロシアが欧州にとって脅威?ウで弾圧されたロシア系住民の救済とNATO加盟抑止が戦争の動機だった。それ以上に支配を拡大する意図はプーチンにはない。むしろ、欧州とは縁を切ってグローバルサウスやBRICsの方を向いている。あえて欧州を刺激する必要性はなく、むしろ極東が焦点になる。そうなると、日本の方が危ないかもしれない。」
「フランスの核の傘と言うが、同国にそんな国力はない。ロシアと圧倒的な戦力格差。ロシアには迎撃不可能な極超音速ミサイルがある。ロシアとしてはゼレンスキーを代え、交渉相手として新しい指導者を求めるだろう。米国としても、東部4州にこだわり戦闘を続けるようであれば、最後はゼレンスキーを切るだろう。大国間の利害関係が優先するのが現実の国際社会であり、トランプの相手はプーチンだ。」
●米ロ間には構造的な対立構造、トランプ・プーチン枢軸は不可能…ウ停戦は困難
これに対し、宇山氏は少し逆の見方を示しています。同氏によると…「ウ停戦がうまく行かない状況だ。一時停戦をまずはすべきとトランプは主張したが、それすらできない。ウも軍部が暴走、ロシアとウの双方に強硬派。問題は、あれだけ停戦できると選挙でも言い切っていたこと。実際にはできないこと。」
「これが続くと、双方停戦する気がないなら仲介の手をひくとトランプ政権。結局、成果なしと捉えられてしまう。外交上の信認低下に。」
「ウ側には戦争したい勢力がバックにいる。欧州勢がそう。米国も支援を続けている。まだ戦争は続けられる。支援をやめられないのは米国の、そしてトランプの限界。」
「米ロ間には実際には険悪な溝がある。プーチンは1月にイランとパートナーシップ協定。これは米国への嫌がらせ。北朝鮮とも。米国が嫌がるから。交渉の材料に使える。トランプも、在独米軍(在日米軍に次いで2位、5.5万人に次ぐ3万人)を、ハンガリーに引き揚げると。盟友のオルバンにと。しかし、ロシアに対しハンガリーという前線に米軍。プーチンが嫌がること。お互い駆け引き。米ロ間の対立は簡単には払拭できない。」
「米国はNATOに軸足を置いて大西洋を守り、欧州に影響力。米国の覇権の維持のためだ。ロシア封じ込めは歴史的にそう。日露戦争も。アングロサクソンは封じ込めの対象としてロシアを創り出し、自らの覇権を維持。仮想敵国がなければ軍事利権も維持できない。」
「だから、トランプ・プーチン枢軸とはならない。それぞれの国益を複雑な形で背負っているリーダーたちだ。トランプ氏はNATOには応分の負担と言っており、6割も支援金を出しているのは不公平だとNATOを突き放しながらも、NATOと協調。だからウ支援を続ける。英仏の駐留案をトランプは取り下げていない。プーチンがこれを認めるわけがない。トランプも欧州と一緒になってロシアに突き付けている。NATOを切り離せない。」
「ウ停戦に対して、トランプはかなり甘い見方だった。ロシアを抱え込むらなら、それなりの覚悟とリスクが必要。それがトランプ政権には見えない。」
●トランプ氏が考える中東和平への道筋…イランの核保有を認める
次に中東和平ですが、楽観論の立場に立つ矢野氏によると…「イスラエル国内では反ネタニヤフ、停戦して人質を返せと。ガザでの虐殺やめろと。米国でも反イスラエル。ネタニヤフが孤立化している。イランの核化をトランプは黙認する。中東の石油は米国にとって死活的ではなくなっており、ロシアを含め北極圏でのエネルギー主導権を考えている。」
「アラブの原理主義もアラブの大義も薄らぎ、パレスチナ問題も時間と共に消えていく。イスラエルは経済も困窮。イスラエルへの軍事支援も、いつまでも強硬策をとっていると、トランプ政権の中東和平と矛盾するので、どこかでネタニヤフを切る。二国家共存しか道はないとトランプ氏も考えている。米国の支援なくばイスラエルも戦争できない。」
「イランをどう戦争に巻き込むかをイスラエルは考えている。軍事攻撃で核施設を潰したい。しかしトランプは本当に戦争する気はない。むしろ、イランを交渉の場に引き込むディールとしてやっている。イランもしたたかだ。そしてイランの核保有を認めてしまう。」
「イスラエルはもう、独自の侵略ができなくなる。域内のバランスを取らせる。ガザのリゾート化は兵力の引き剥がしを意図。イスラエルに占領させない。ガザ住民は経済振興で安定させればテロがなくなる。そこには米国の利権もある。ガザの一角にとりあえず住民を集める、そのためにホテルも作る。」
「ハマスは自然消滅する。元々はイスラエルが創った。そのバックのイランも手をひき、中東和平に。時間はかかるが…。焦点は中国だ。こちらが米国にとって最大の敵だ。」
●手詰まりとなった中東和平…イスラエルの暴走もイランの核保有も抑えられない
こうした中東和平楽観論に対しても、宇山氏は逆の見方を示しています。同氏によると…「中東和平も手詰まりだ。米国はイランに対し核を放棄せよ、さもなくば攻撃するとしているが、イランの核放棄はあり得ない。シリアのアサド政権崩壊、ヒズボラのあの事態で、イランは裸一貫に。核武装しかない。さもなくば、リビアのカダフィになると。」
「強硬派のイスラム革命防衛隊の発言力が高まっている。穏健派の大統領のせいでやられていったと。米国との合意など非現実的だと。最終的には決裂し、トランプは中東でも追い込まれていく。」
「イスラエルにべったりのトランプ氏。一心同体。イスラエルは絶対にイランの核武装を許さない。トランプはイスラエルの戦争をやめされられない。エイパック、米国最大のロビースト団体がトランプに圧力。シオニストの主張をトランプも聴かざるを得ない。」
「イスラエルはハマスが壊滅し、ガザを完全に掌握するまでやる。中東のリビエラ化はありえない。グレーターイスラエルが神の意思だと。ガザ、ヨルダン、サウジへと領土拡大の考え方。トランプは中東情勢も甘く見ていた。」
「トランプは内政は素晴らしい。DOGEを立ち上げて。ただ、外交は相手がある。国務省の官僚はトランプを否定、彼らを干して自分の言うことを聴く人を交渉役に立てているが、動くわけがない。外交の機微なる部分、高度な実務家が必要。ぶった切ってうまく行くものではない。」
「外交に手詰まり感が出ると民主党が活気づく。中間選挙で敗けると一気にトランプ政権は求心力を失うことを危惧。外交得点をウや中東で上げられないと、関税交渉で日本に無理難題をふっかける可能性もある。」
●自虐史観のポリコレで自国を崩壊させるドイツ…歴史認識を正さねば日本も同じ道か
さらに宇山氏は欧州情勢について次の発言をしています。「ドイツではAfDが比較第二党だが、第一党のCDU/CSUのメルツ党首はAfDと組まず、リベラルのSPDと連立。これでは何も変わらない。バンス副大統領演説では、欧州の指導者は弾圧者だと。AfDの話を聞かないと言うのは言論弾圧だと。AfDの声がドイツの将来を憂う声。しかし、封殺。ドイツのポリコレは日本と比較にならない。」
「ナチスが酷いことをした、人種差別をした、自虐史観がしみこまされている。ナチスを賛美するだけで刑法犯に。だから、移民は出ていけと言うのはナチスかぶれだとのレッテル貼り。社会から排除。ドイツ国民優先との当たり前の話が受け容れられない。」
「建前では『高齢化している国では移民は労働者として不可欠だ』と。工場の生産ラインに移民を組み込んでいる。3割が移民。排除できない。これが既得権益になっている。」
「AfDがネオナチだという現実はない。普通の国民が普通のことを言っているだけ。ポリコレ的偽善が社会をおおっている。イタリアはメローニ首相が移民は良くないとしており、その支持率はすごい。イタリア人は目覚めつつある。同じ敗戦国だが、自虐史観がない。ムッソリーニが悪いことしたとは教えていない。日本はドイツに近い。日本もポリコレに固まってドイツと同じになりかねない。正しい歴史認識が不可欠だ。」
「日本では参政党がAfDにかなり近い。マスコミが意図的に無視している点も似ている。AfDは国民の支持で認知され、『脅威』となった。日本では本当のことを言う参政党の主張が表に出てこないようにされている。長い時間をかけてでも参政党は歩みを進めてほしい。」
…ドイツでAfDが結党されたのは2013年、連邦議会で第二党になるまで12年を要したことになります。ある世論調査ではドイツ国民からの支持率はナンバーワンだとか。メディアの無視とグローバリズム既得権益からの弾圧に耐え、SNSなど草の根で国民の支持がここまで広がるには、長い年月がかかりました。
そのAfDの主張も参政党の主張もトランプ氏の主張も、ほぼ同じです。バンス副大統領がAfDに対して公正さを求める演説をミュンヘンでの国際会議で行ったことが話題となりましたが、トランプ政権には同様な発言を日本に対しても求めたいものです。
目先の経済的利得や既得権益を克服して全体主義から自由と国の独立を守る、これが米欧での国民の総意へと広がりつつあります。日本の政治がその方向へと向かうことができるかどうか、今度の参院選で問われる重大なテーマではないでしょうか。
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