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  • 執筆者の写真松田学

経済でも「国家」が前面に出る時代、日本に政治不信の暇はない~USスチール買収問題&日本の半導体戦略~

先週の3月28日には国会で今年度予算も成立、昨日から新年度に入りましたが、2か月にわたる国民注目の予算委員会を振り返ると、本来は国家の次年度の政策全般を盛り込んだ政府予算を巡って国政全般を議論すべき本委員会は結局、今回も政治とカネの「不祥事」で明け暮れた感がします。テレビが入る本委員会は、野党が次の選挙を睨んでここぞとばかりにパフォーマンスをする場、開催中は内閣支持率が下がるのが通例で、その支持率も最低で底這う状況のなか、次の政局の焦点は4月28日の三つの衆院補選となっています。


自民党の内部調査では、この補選、与党にはかなり厳しそうです。岸田総理としては自らのイニシアチブで処分を決め、少しでも支持率が上向くことを期したいところですが、一部離党勧告を含め40人規模になるとされるその処分も今週中には発表されるようです。


岸田氏としては、派閥潰しで岸田おろしを抑え、いまや党内では独裁者。公認権も含めて絶対的な権力者として衆院解散をちらつかせながら9月の総裁選まで引っ張り、総裁再選を目指すのがメインシナリオとみられます。これと岸田おろしとのせめぎ合いが三補選後に始まるのでしょう。党内では岸田総理への反発がマグマのように溜まっているとも聞きます。場合によっては、岸田氏は自らの傀儡として上川陽子氏を立て、初の女性総理を売り物とする解散総選挙という展開も考えられなくもないかもしれません。


そうでもしないと、自民党に対する有権者の不信感は衆院解散も許さないほど根付いてしまっているように思われます。やはり、野党が弱い「一強多弱」にあぐらをかいているのか…私自身はあまり他党の批判は好きではないのですが、国益や国民の立場を考えると、最近の自民党の腐敗?ぶりは指摘せざるを得ません。


その事例を挙げると、あの「多様性」と弁明された和歌山の乱痴気パーティ―の源流は埼玉自民党にあった…山岡鉄秀氏が松田政策研究所CHでの対談で、自民党埼玉県連の地方議員たちの非常識さを斬りました。ここはクルド人問題が放置され、住民のニーズに政治が全く応えていないという意味でも、政治の堕落を思わせる地域でもあります。


同氏によると、埼玉では子ども留守番禁止のトンデモナイ条例に疑問を呈する発言をした県議が、それこそポリコレ的な理不尽さで議員団の中で全体主義的な弾圧に遭っています。まるで左翼。共産党と変わらない?本当に保守政党?保守は寛容で自由なはず。


これでは自由民主党ではなく、「不自由」民主党?不自由破廉恥党?不倫キス写真あり、SM緊縛写真あり、こっちは御咎めなしで、実際に正当な出費がなされた支出の領収書が年度を跨いでしまったという単純な過失をした議員に対して除名処分。そこには明確なルールがあったわけでもなく、県議団の秩序を乱すとか、悪質な不正受給だとか…まるで米国の司法がやっているトランプいじめ(これには大半の米国民が怒っていますが…)の様相。


公職にある議員としてのモラル感覚も公序良俗も崩れている。次の選挙で当選するという自らの保身と利益が最優先。そもそも、自民党でいちばん偉いのは市会議員、次が県会議員、国会議員はいちばん下。地元密着で票が取れる人がいちばん偉いと聞いたことがあります。公認候補の選定もそうです。票を取れる人かおカネを持ってくる人かタレント…。


自民党自体が、理念を掲げて支持を広げる本来の政党ではなく、集票のために利権第一で政権を維持することが自己目的化した職業集団に成り下がっている。国会での政倫審での無様さも、県議に頭が上がらず何も言えない自民党国会議員も…自民党も堕ちたものです。それにしても、あの政倫審での答弁は見ていられませんでした。あれで国民が納得?驕りの中でそういうことに不感症に?国民を舐めていると言わざるを得ません。


派閥を潰す、あいつを処分する、離党させる、そっちに焦点が当たっていますが、大事なのは制度の改善を国民に示すことのほうでしょう。このパーティ―券問題も、その本質はバイデン民主党の介入での安倍派解体。そもそも不記載自体は形式犯で、検察の中にもやり過ぎでは?との意見もあるそうです。米国は日本の政治を変えようとするときに検察を使います。国家の自立を軸とする勢力への政治的ダメージを狙った捜査にも見えます。


世界がきな臭さを強めているときに、裏金問題?離党問題?日本の政治が大事な議論をできないようにする工作…?こんなことに精力を費やしている余裕はないはずです。このままでは国際秩序の大変動に対応できないまま、日本の国家衰退が加速するだけでしょう。


かつての「吉田ドクトリン」とは、米国に占領された状態を良しとして経済に集中するとの国家路線のことでした。こうして、日本人の自立思考を萎えさせ、国家よりも明日のカネのことに一意専心するマインドセットの定着にGHQの占領政策は大成功しましたが、その経済も最近では、「国家」を意識せざるを得ない状況になっています。


これに関して、今回は平井宏冶氏が当CHで提起した二つの論点について、以下、ご紹介いたします。一つは、日本製鉄によるUSスチール買収を阻むものとしての経済安全保障の問題、もう一つが、これからの国家の盛衰を決める半導体戦略についてです。後者は、積極財政による国家ぐるみでの独自技術開発が喫緊の課題。「松田プラン」の出番です。


●親中ズブズブではUSスチールは買収できない?日本製鉄が直面する経済安全保障の壁

日本製鉄によるUSスチール買収は経済合理性からみれば米国にプラスのはずなのに、なぜ、トランプもバイデンも反対なのか…どうもその真相は、大統領選を睨んだ労組対策といった政治的動機だけではなさそうです。多くの人々が見逃している盲点は、実は中国。


そういえば、新日鉄といえば、日本以上の大製鉄所、宝山製鉄所を上海に造り、その後も一貫して親中を続けてきた会社です。今般のUSスチール買収提案発表の翌月には、日本の経済人180人を連れての媚中の「中国詣で」も…。


米国にとって敵性国家である中国とズブズブの会社で大丈夫?と、あのCFIUS(対米外国投資委員会:The Committee on Foreign Investments in the United States, シフィウス)なら、経済安全保障の観点から考えないはずがありません。


ある政治評論家が、米国は同盟国である日本を信頼できないというのかと怒っていましたが、ことはそんなに単純なものではない。もはや日本の経済界は、米国も中国も…などという甘い幻想を捨てて、経済合理性を超えたデカップリングという現実を見据え、思考の転換を図らねばならない時代になったことに目覚めるべきでしょう。


日本を代表する企業でもある日本製鉄の在り方は、老獪なる中国にまんまと乗せられて取られるものを取られ続けてきたお人好し国家、日本の在り方そのものを象徴しているかのようにも見えてしまいます。先日、某非営利団体が主催する呉江浩・駐日中国大使を講師とする昼食会に出席してみましたが、言葉巧みに「中日友好」を強調しながらも、結局は彼らの身勝手な論理に日本各界の指導者たちを嵌めこもうとする意図が私には強く感じられ、途中退席してまいりました。


そんな風にして、かつて稲山さんも周恩来に乗せられたのか…。その根底にあったのは対中贖罪意識だったとか…だからこそ、歴史認識の見直しが本当に必要です。


●新日鉄と中国との長く深い関係…米CFIUSが注目しないわけがない

以下、平井氏によると…、「去年の12月、日本製鉄が米国の名門、USスチールの買収を発表、当然米CFIUSが審査することになる。今年2月には、ブルームバーグが、米国政府が日本製鉄の中国資産を審査し始めたと報道するに至った。あらら…。」


「USスチールはJPモルガン、カーネギーらが合併させてできた会社。20世紀は米国の鉄鋼といえば、USスチール。次々と企業買収して多角化した。米国の10の州以外は、海外はスロバキアだけで事業展開している。世界では粗鋼生産量で一位は中国の宝武製鉄で、ダントツにデカい。日本製鉄は第四位。上位10社のうち6社が中国。」


「なぜ皆が北米市場を目指すのか。➀米国は人口が増加、成長市場。➁先進国として付加価値の高い鋼材の需要が大きい、③グローバル化の反省から国境ある経済に、現地生産しなければならない。」


「ではなぜ、トランプもバイデンも、今回の買収に反対なのか?日本製鉄は親中政策をずっととってきた。いちばん米国が気にしているのはこれ。宝武製鉄は宝山製鉄と武漢製鉄が合併してできた会社。この両方に新日鉄が深く関与。」


「1972年に日中国交樹立、この時に新日鉄の稲山氏、かなりの親中社長で、周恩来と面談。その際、武漢製鉄所への協力を求められて協力を約束。空港で新日鉄を出迎えたのは毛沢東語録、製鉄所には共産党のスローガン、布の靴と質素な帽子、ヘルメットも技術も設備もほとんどない。稲山氏には中国ヘの贖罪意識。これが日本の鉄鋼産業を誤らせた。」


「1978年に異次元の話が始まる。鄧小平が来日、新日鉄の君津を訪問、斎藤英四郎社長に君津と同じ製鉄所をくれと。日本は先生、中国は生徒だと持ち上げられた。斎藤氏は、総力をあげて協力、これ以上のものを作りましょうと断言。」


「そして、上海宝山製鉄所の建設が開始。述べ1万人を中国に新日鉄は送り込んだ。山崎豊子の『大地の子』にも出てくる。中国に製鉄所をつくるのに、自分の製鉄所をつくるかのように心血をそそいでしまった。その宝山と武漢が合併した。中国の安定がアジアの安定につながる、技術協力して日本は一歩先を歩めばよいと、それが日本の3倍の製鉄所になった。周恩来と、へりくだるような稲山氏の写真がある。」


●媚中?の訪中団という悪手…いまや米国か中国か旗幟鮮明の時代に

「その後も関係が続き、07年の社内報では、宝山30周年、パートナーシップを深めると。30年の友好関係を未来につなげると。緊密成熟した関係構築をと三村社長。HPに出ている。」


「日本製鉄の製鉄所は中国に9社ある。米国からみると、9つもある。USスチールは中国ゼロ。まずこう見るだろう。鉄鋼産業とは軍事産業。第二次大戦のとき、USスチールは八面六臂の活躍したとされている。これに対し、日本製鉄は宝山と武漢を立ち上げて中国の鉄鋼産業を育成した会社だ、と。」


「さらに悪手を打った日本製鉄。今年1月に日中経済協会が180人の経済人で中国を訪問。昨年12月に買収発表した翌月に行った、その団長が日本製鉄の現会長。彼が中国投資を約束して、日中互恵関係を確認したとされる。ズブズブと見られる。」


「なぜ180人も?その団長がUSスチールを買うといえば、経済安全保障の観点からは、USスチールがその子会社になる。選挙云々ではない。買い手がどんな会社か、敵対国中国とどんな付き合いをしているかを見ていると思う。ハードルが高くなったと感じる。」


「最先端技術の共同開発が中国に流れるし、中国の製鉄所でつくったものが、日本製鉄に入り、それを使って米国が軍艦や戦車を造って、止められたらどうするのかと、当然考える。だから国内でもう一回、買い手を探せとなる。」


「経済合理性からは日本製鉄による買収は歓迎されるはずなのに異論が出るのは、単なる心理的反発だけではない。同盟国を信頼しろと言っても反論されてしまう。」


「本当にUSスチールを買いたいなら、中国とは縁を切るぐらいのことが必要だ。日本製鉄にとっては大きな決断を要する踏み絵。中国とも米国とも商売したいという経団連で支配的な考え方は、少なくともⅯ&Aをやる上では通用しない。日本の経済界全体が路線転換を迫られている、デカップリングの中で中国か西側か、『旗幟鮮明』の時代になった。」


●TSMC熊本工場は日本の半導体戦略にどう貢献するのか?

次に半導体ですが、平井氏が最近上梓した新著「新半導体戦争」では、「日本の半導体の強み弱みは何か、経済安全保障から半導体をどう捉えるか、日本経済復活のためには半導体をどう考えればよいか、類書にない本を出した。今の岸田政権ではダメだということをしっかり書いた。」とのことです。AIの時代、日本発のGPUをしっかり創るべし、日本企業は脱中国を加速せよ…平井氏からの警告です。以下、同氏によると…、


「TSMCが得意としているのは脳のところ。人で言うと、脳で考えるところ。記憶はメモリー、筋肉はパワー半導体。脳はCPU。大きさが決まったところにトランジスタをどれだけ詰め込むか。線の幅を狭め、今は3ナノまで。アイフォンは3ナノ、190億個のトランジスタが入っている。微細加工の競争であり、TSMCは世界のトップ。」


「日本は10年9世代遅れている。日本人で3ナノづくりを体験した人がいない。40ナノから、段階を踏んで習熟するしかない。」


「この10年のブランクの原因は日米半導体協定と、日本の業界がメモリー重視でCPU(中央演算処理装置)を軽視していたこと。ラビダスでいきなり2ナノと言うが、それは机上の話であり、失敗する可能性が高い。偏差値40の人がいきなり偏差値70を目指す話をしている。モノ作りは、毎日100~200万個、不良なきよう作るには生産技術が必要。TSMCも40ナノから始めた。5ナノを卒業して3ナノであって、一足飛びは生産現場として無理。」


「TSMCが日本に来ている意義は、台湾有事への備えだ。そして、熊本あたりに下請け。日本の半導体を組み立てる会社が下請けに入って、そこに技術が浸透して吸収してもらって徐々に追いつくことがもう一つの意義。」


「日本は材料と製造装置は世界一だが、組み立てはダメ。韓国や台湾に奪われた。各電機メーカーのセクショナリズムも弊害、ファウンドリーなど分業体制の時代に、うちは全てをと各社がやってしまった。米国なにするものぞとの国家意識で70年代に国益のために業界が協調したのと同じことが必要。各チームではなく、ジャパンチームで勝負する時代。」


●産業技術開発と基礎研究は違う…国家による積極財政が必要

「基礎研究への財政支出が財政規律のもとで縛られてきた。基礎研究は、カネをまいて、モノになるかわからないが、100のうち3つぐらい大化けすればいい。これが開発の鉄則。キャノンのインクジェットプリンターの事例がある。偶然の産物。無駄になるかもしれないけれど、いろんなものを。基礎研究にカネを使うことが非常に大事。」


「だが、民間企業の論理だけではできない。米国にはDARPA(国防高等研究計画局)がある。国防関連の技術も民生とのデュアルユースの時代。幅広くカネを出す機関であり、採用されるとおカネをもらえて、失敗してもそれほど責任を取る必要がない。」


「100件の案件に投資して全て花が咲くものでない。そこは積極財政で。良い技術開発のシーズがあっても、5年後の収益性が見えないと経産省は支援しないようだが、せいぜい100億のおカネをぽんと出せない政府ではダメ。そういうところを中国が狙ってくる。日本企業の研究所も近年、閉鎖されてきた。そういう所にも政府が補助金を出すべきだ。」


「半導体は製品に組み込まれるものであり、どんな製品をというのがないと半導体も生きない。これからはAI。これが覇権を決める軍事技術であり、AI開発のための半導体が重要。その世界のトップは米国のエヌビディア。中国は米国が規制をかけている。」


「これからの国力を左右するのはAIの技術。AI開発のための半導体としても、GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)について、これからでもいいから、日本のGPUをしっかりと創っていく。そのために、積極財政で。」


●脱中国を急げ

「シリコンシールドの話がある。中国が台湾に半導体を依存している間は台湾侵攻がないという考え方だが、それは成り立たない。習近平が武力統一を排除していない限りは。頼清徳氏(シリコンシールドの考え方で半導体工場を推進してきた次期台湾総統)は甘い。台湾の競争優位は組み立てまでだ。最先端は国内で持つとしても、安全なところに工場を持って行って先端半導体を手掛けることが必要だ。」


「日本企業は脱中国を加速すべし。軍備充実にはおカネがいるが、中国にとって、その原資がグローバル化だった。豊かな国は軍事費を使える。中国をこれ以上豊かしないことも安全保障につながる。また、親中経営をやっていると、海外の取引からも排除される。」


「国防七校のほかに、中国には半導体重点開発大学があり、そこと日本の大学が提携。半導体の技術狙いで中国が日本に手を突っ込んできている。日本学術会議が政府から切り離されるが、学術界を見直さないと。中国にこんなに教えているのかとなる。」


「充実した研究環境を日本に。中国韓国が伸びた理由に、チャンスを国が与えたことがある。国が基礎研究にどんどんおカネをつっこむ必要。日本は使うべきところにおカネを使っていない。しかも日本売りの岸田政権だ。」

 

…やはり、私がかねてから主張しているように、そろそろ財政法4条を改正して「建設公債の原則」を、次世代に向けた資産形成の財源としての「投資国債」へと拡大すべきでしょう。住宅建設が住宅ローンという借金なくしては不可能なように、借入で財源を賄ってこそ投資が実現します。投資によって資産を将来に残すための借金なら、むしろ積極的に行うべきですが、国の場合、その資産は何も公共事業というインフラや建築物などの実物には限られないはずです。


資産には人的資産もあれば知的資産もあれば、国家を永続させる国防もあります。こうした無形資産に国債発行対象を拡大してこそ、国は真に国益のために必要なことができるようになります。国債が累増しても、金利上昇によってもたらされる弊害は、日銀保有国債を政府発行のデジタル円で償還し、これが国民の間で法定通貨として流通するようにする「松田プラン」で除去されます。


国家しかできないことがあるのに、国家がやるべきことをやってこなかった。これが日本経済や国力衰退の決定的な原因になっています。日本の政界は一刻も早く、政治への信頼を回復させ、日本の喫緊の課題に向き合わねばなりません。「松田プラン」でその道筋が開かれるよう、引き続き啓発活動に力を尽くしていく所存です。

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