少数与党のもとでも、今臨時国会では補正予算が無事?衆院で可決されました。一つは、国民民主党との間で103万円の壁は「178万円を目指して来年から引き上げる」、ガソリン税の暫定税率は「廃止する」との合意文書が交わされたため。ただ、前者について自民は早速、123万円との線を示し、国民民主は反発、後者は廃止の時期が明示されていません。少しでも財政の論理を貫きたいのが与党。通常国会で本予算がどうなるか、火種を残しています。
もう一つは、総額13・9兆円を「規模ありき」と批判していた立憲民主党が、予備費のうち1000億円を能登半島の復旧・復興に充てることで妥協したこと。予算修正を勝ち取ったとはいえ、元々予備費に入れていたものの使途を明確化しただけですから、予算フレーム自体を変えたわけではありません。教育無償化の自公維の協議体設置をもって賛成した維新も含め、やはり、震災対策を盛り込んだ補正予算には、多数野党も反対しづらい…。
とりあえず乗り切った薄氷の国会運営ですが、今回は先送りできても「壁」の金額など税制改正も絡むのが来年度予算、通常国会は政局がらみでますます厳しくなるでしょう。
同じく少数与党で、こちらはついに国会運営の行き詰まりにまで至ったのが、大統領を非常戒厳に追い込んだ韓国政界。ついに弾劾訴追が成立しました。その背景には、トランプ政権誕生を前に北朝鮮の工作か、左翼野党が予算を始め様々な手段で国会を機能不全に追い込んだことにあるようです。戒厳令の主目的は、野党に多数を許した前回の総選挙の不正を暴くことにあったとか。確かに、当時、得票率の数字などで明らかな不自然さが目立ち、韓国の保守系論者は「共に民主党」側による不正操作を強く指摘していました。
韓国民の多くは戒厳令を民主主義の破壊と攻撃していますが、尹大統領からしてみれば、国家の防衛を阻害する国会の状況を正すための立派な「統治行為」なのでしょう。今回の事態で今後、韓国が文在寅政権時代の反日、「従北」の政権に移行すれば、朝鮮半島は日本の安全保障にも脅威となりかねません。尹大統領弾劾を単純に民主主義の勝利とだけ言ってはいられない複雑な問題がそこにはあることを見落とすわけにはいかないと思います。
これに対し、同じく国政で政権与党が少数与党に転落したドイツの政界では、大政党が民主主義の危機と言いつつも民意を無視することで自ら民主制を阻害し、政権運営が行き詰まっています。こちらは韓国のような左翼の伸長とは逆に、最近の欧州全体がそうであるように、民意が保守化する中で生じている「極右」の伸長と密接に絡んでいる現象です。
このドイツで「極右」政党とレッテルが貼られているAfD台頭の大きな背景の一つが移民問題。これがもたらす危機は先進国にとってなかなか厄介な問題です。
ある歴史研究者が世界史を俯瞰してみると、大国の多くにおいて、その滅亡の原因が移民の増大だったとか…。ローマ帝国然り、中国の諸王朝も然り。茂木誠氏のように、究極のグローバリズムとは要するに、移民を無制限に入れることだと断言する論者もいます。
米国ではこれを放置したバイデン政権に対し、反グローバリズムのトランプ氏が再選を決め、ドイツではメルケル前首相がシリアなどからの難民を無制限に入れたことが社会に破壊的な作用を及ぼし続け、これに反対するAfDの台頭につながりました。では、日本では?岸田前政権は外国人労働者の在留資格「特定技能」について、2024年度から5年間の受け入れ枠を82万人へと、23年度までの5年間の人数の2・4倍へと増やしています。
日本の経済界は人手不足を理由に、この方向を推進していますが、外国人の多くが低賃金労働を強いられ、それ自体が問題ですが、これは日本人の賃金への下押し圧力にも…。さらに大きな問題は、埼玉県川口市でのクルド人問題など、難民と称して入った外国人がもたらしている治安の悪化や社会秩序の乱れ、住民の不安感です。しかし、「外国人差別」とされるのを恐れて、この問題に当局もメディアもまともに向き合おうとしていません。
不法移民については米国では、トランプ氏は途方もない巨額の国費を要しても「強制送還」を断固として推し進める方針であり、政権発足後、当面はこの問題に集中するとか…。いったん多数の移民流入を許してしまうと解決が極めて困難になるのが欧米での経験です。ですから、日本の政界も政府も、できるだけ日本人だけで日本の経済社会を回すとの方針を明確化し、そのための技術革新による生産性の向上へと政策の重点化が急がれます。
そうでないと、「きょうのドイツは明日の日本」…そんな思いを強めさせてくれたのが、以下ご紹介する、ドイツ在住の川口マーン恵美氏との対談でした。移民問題に限らず、日本と同じ敗戦国であるドイツがグローバリズムのもとで現在直面している様々な困難は、これからの日本の政治の在り方を考える上で大いに参考になると思います。
●外国人移民の増大で治安悪化、しかし過去のトラウマで建前が支配
ハンガリーのオルバン首相がベルリンを訪れて、「10年前と街の臭いが変わった」と述べたというエピソードがあります。川口マーン恵美氏との対談では、最初にこれをぶつけてみました。川口氏は…「確かに街の雰囲気が変わった。特に公共の乗り物、8割がたが外国人。通学の子どもも50%が元々ドイツ人でなかった人と外国人。治安が悪くなった。」
「2015年にメルケルが難民を無制限に受け入れたが、あの時は中東の人たち、締めることができなくなり、しまったとメルケルは思ったが、自分たちは決めることができないと。破産宣告のようなもの。どれぐらい入れるかぐらいは決めるのが主権国家なのに。」
「その状態が未だに変わらない。すごい人数がいる。難民で入ってきて、難民と移民の区別がつかず、入ると帰らなくていいとなる。移民になる。昔もドイツは移民をたくさん入れた。イタリア人、トルコ人…と。ただ、トルコ政府とドイツ政府が契約で何人と決めて入れていた。身体検査を受けて労働ビザで入っていた。」
「いまは、とにかく入ってきたら勝ち。それで難民となり、居ついてしまう。対応策は難しく、犯罪の数が増え、ナイフでの殺傷事件がものすごい。一定の場所、怖い場所の中央駅の何時から何時まで、ナイフやピストルを持って入らないようにと。クリスマスマーケットも、ものすごい警備。『メルケルポール』とか。荷物検査。かつては夜に歩いても心配ない国だったが、いまは暗い時は歩きたくない、男性もそうだ。」
「外国人に関することはドイツ人にはトラウマがある。かつてのユダヤ人迫害で評判が地に堕ちて、見て見ぬふりで、私はあなたが外国人だと気づいていませんよと。レストランで何人なの?と聞くと、イランと嬉しそうに答えた。でも、何人か?と聞くのがいけないことになっている。ドイツ人かもしれないからと。異常。」
●ドイツのアイデンティティを喪失、メディアも左翼
ドイツがドイツ的でなくなる危機感はドイツ人にはないのか?と訊いてみたところ、「ドイツ的というものがどんなものなのかも、最近は認識していない。ドイツ音楽とは?と訊いても、うーん、ドイツ音楽という認識がない。ドイツというのはいいこととしてのイメージがない。ヒットラー以前の歴史は全部ヒットラーにつながっているからと。ビスマルクも学校では偉人としては教えていない。日本と似ている。アイデンティティを否定する教育。日本と同様に、教育界は左翼的。」
「主要メディアは完全に左。公営放送、主要新聞、クオリティー誌のシュピーゲルも完璧に左。それも日本と似ている。Youtubeの方が事実を把握しているのも日本と同じ。米国やイタリアは色々とメディアがテレビでもあるが、それがないのが日本とドイツ。」
●脱炭素原理主義で惨憺たるドイツ経済に、国民ではなく利権を向いている環境派政治
「脱炭素でドイツ経済は惨憺たるもの。大企業はエネルギーがあまりに高く、ドイツで生産しても儲からないので、慌てて工場を閉めるか縮小して他国に投資。これも日本と似ている。株価は景気が悪いのに史上最高値、大企業は外国で儲けている、それが国民には行き渡らない、株主資本主義。これも日本と同じ現象。」
「ドイツはインフラや内需に投資してこなかった。学校もボロボロ。かつてドイツは欧州で一人勝ちだった。財政のプライマリーバランスはゼロと胸張っていた時からそうだ。ドレスデンの鉄橋がエルベ川に崩落。他の橋も危ない。アウトバーンの橋も道路も直しきれない。人手不足で。デジタル化はEUの中で遅れている。ネットがつながらなくなったりする。学力も低下。学力はポーランドよりも低い。ドイツ語が分からない子どもが足を引っ張っている。インフラ老朽化も日本と似ている。」
「電気代が高いのは、脱炭素の行き過ぎ。再エネを増やして、原発もとめて。緑の党が50年来の宿願で。電気がなくなってどうしようと言っているときにとめてしまった。緑の党は支持率は低いが、政権の中で最も大きな顔。風車が3万何千本、要らない時に動いて、要るときは止まっている。冬は凪となり、全部とまる。太陽もその時は照らないからダメ。」
「ブラックアウトの寸前になったが、ハーベック大臣は風車を10万機にすると。国民のことは考えていない。再エネで産業が発展する、で突っ走ったが、国民もついていけなくなった。田園地帯に林立する風車は気味が悪い。しかし、作った人が儲かる。」
●ドイツの政治も対米従属、ロシアと仲良くしてはいけない?
「グローバリズムに気付いている割合は日独でほとんど同じ。『ウクライナは100%正義』も、日独で同じ。公共メディアでは、絶対にウクライナを敗けさせられない、民主主義の防衛だと。叫んでいるのはウ支援。ミサイルのタウルス、500Kmを射程、これを輸出して供与しよう。緑の党までが。平和、平和と言っていた党が、最も強行に殺傷能力ある武器を。」
「米国への対抗心や矜持はドイツ人の心の中にあるが、政治家は米国の言うことを聞くだけ。これも日本と同じ。ガスパイプライン破壊の首謀者が分かっているのに、調べない。」
「日本と同じ敗戦国でも、憲法や地位協定をドイツは改定してきたが、買い被り。ドイツは戦後、軍隊を作ったときに改憲したり、東西ドイツの統一でも改憲したりと、40何回も改憲しているが、日本のように絶対に戦争しないというのはない。そこは現実主義。」
「ただ、ドイツの場合、ドイツとロシアが仲良くなることを米国は許さない。それをドイツの政治家は肝に銘じている。メルケルはプーチンと本当に仲がいいのかどうかわからないようにしていた。しかめっ面で会っていたが、実際はそうではない。それがショルツになって完璧にロシアを敵にした。米国からみたら、ドイツとロシアと繋がらないなら怖いものなし。ドイツを牛耳れると。ドイツとロシアが組んだら脅威になると米国は認識。」
「AfDとBSWが急速に台頭しているが、欧州の平和はロシア抜きにはあり得ないと、彼らは現実をみている。ドイツは正に明日の日本。」
●迫害されるAfD(いわゆる「極右」とされる政党「ドイツのための選択肢」)
「AfDはいろんな誹謗中傷を受けている。他の政治家もメディアも全部まとまってこの政党を疎外。憲法擁護庁というドイツ内務省の下にある組織が、各州政府の内務省の下にもある。元々は国内向け諜報活動の組織で、テロ組織などが対象だが、そこがAfD潰しをしている。ナチ、国家社会主義の党だとか。最後は共産党を禁止したようなところに行く?そう言われる州のAfDの支部もある。AfDでいちばん人気の政治家が個人としてナチ指定。」
「しかし、そうして潰そうとしてきたのに、伸びている。元々右翼ではなく、ギリシャの金融危機のときにEUの金融政策に反対して、ハンブルクの経済学者が創った党。2015年に難民が入ってきたときに反対した唯一の党。それが国民の琴線に触れて強くなった。」
「テレビではトークショーに呼ばれない。国民の眼に触れさせないというのが作戦。しかし、今はインターネットがある。ネットでの活動で支持者が増大。地元でいいこと言っているじゃないかという地道な党。ネットでしか伸びる方法がなかった。」
●国民の支持が拡大、ついにAfDが第一党となった州も、しかし政界では排除
「今度の総選挙では第一位がCDU(メルケル首相時代の与党で保守)だろうが、第二位はAfDとなろう。現与党では、緑の党は10%、SPD(社会民主党)も20%に行っておらず、
『極少数与党』状態。連立から抜けたFDPは4.5%なので、5%条項で議席がなくなる可能性。」
「9月の旧東独3州での州議会選挙では、AfDの得票率は30%以上にもなった。チューリンゲン州では第一党がAfDに。ザクセン州では1%の小差で第二党。政権をCDUが創ろうとしても、AfDとの連立なくしてはできない。今までの左派政権に国民はうんざり。保守の政権が欲しいと。」
「しかし、CDUが、『ナチである』とするAfDとは絶対に組まないと。防火壁を守ると。そうなると左翼しかいない。左翼と交渉。議会でコロナの総括をとAfDが提起。それにBSW(ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟:極左とされる新党)が賛成した。そうすると、AfDの言うことに賛成する政党とは組めないと。要するに、AfDが出してきたものには全部反対。」
「これでは国民のためには何もならない。チューリンゲンでAfDが第一党なのに、CDUは『民主主義の党としては自分たちが第一党だ』と。こうして政権が決まらない。投票者の3割がAfDに投票しているのに、それを民主主義でないと切り捨てるのは民主主義でない。メディアがそれに疑問を呈さない。」
●真っ当な政策のAfDだからこそ国民が支持、日本の参政党と似た状況
「AfDはエネルギー政策ではいちばんもまとも。原発を動かさないと産業が潰れると。そう主張すると、原発を動かせないように冷却塔を爆発させるという事件が起きた。」
「ウ戦争での対ロシア制裁でガスも輸入できなくなった。かつては石炭石油もロシアから入れていた。ドイツは他国から高いものを購入することに。経済制裁を受けているのはドイツだ。国民のためになっていない、戦争はやめるべきだとBSWとも同じ主張。」
「いわゆる極左と極右だが、似たような主張の二つの政党が連立してほしいという有権者もいる。しかし、両党では経済政策が違うから無理。AfDは自由主義、市場に任せるというのがイノベーションになるという立場。これに対し、BSWは共産主義的。金持ちのカネを貧乏人に分けようと。BSWは左派党から抜けたザーラ・ワーゲンクネヒトという美しい才媛が今年1月に作った政党。立派な女性政治家。テレビで人気の有名人。視聴率が上がる人。」
「今の政策はヘンだと国民に気付きが広がった。再エネ100%は無理と分かってきている。緑の党の古参政治家が、エネルギー転換で月にアイスクリーム1個分しか電気代は上がらないと言ったが、ウソだった。財布にここまで響き始めると、みんな目が覚める。」
「新型コロナの際の全体主義は、どこまでやれるかの実験だった。あまりにやり過ぎて、学校を長い間締め、子供たちが被害、総括しようという動きに。AfDは参政党に近い立場。」
●既得権益構造を打破して真の民主制を取り戻せるのか、25年2月の総選挙に注目
「いまのショルツ政権は行き詰まっている。戦後最低の首相と言われているのに、次の総選挙でまた首相候補で出ると。緑の党のハーベック経済大臣も首相候補で出ると。支持率は低いのに、現実が見えていない。この人が再エネで経済をダメにしたのに。メルケルは保守ではなかった。社民党の政策だった。それを今の政権が過激化。」
「AfDは二人党首。女性のほうが首相候補。CDUはメルツが首相候補。来年2月23日に総選挙。与党SPDは敗けるから選挙をしたくなかったが、CDUが解散に持って行った。」
「しかし、CDUが第一党になっても連立相手がいないから、SPDや緑の党との連立となり、今と変わらない。国民は裏切られたと感じるのではないか。有権者が保守化しているのに、それが実現しないのは、AfDを排除するからだ。」
「ただ、いつか、そうはいかなくなるという人もいる。今みんながAfDを悪者にしているのは、他党がカルテルのようなものだからだ。既成政党が一緒になって利権を維持したい。AfDが来たらそれが崩れるので、『カルテル党』とも。エスタブリッシュメント、それに対する国民の反感、トランプと似ている。民主制が維持できるのか、今後を注視したい。」
…以上、日本、韓国、ドイツの政情について述べましたが、この三国に共通の現象として指摘できるのは、保守政治の機能不全ではないでしょうか。ドイツでは保守化する民意を政治に反映できない結果、国民が望まない左翼政治が国民を苦しめているようですし、韓国では尹大統領の保守政権を左翼勢力が潰そうとする結果、朝鮮半島の地政学リスクを高めています。日本では左傾化する自民党から保守の支持層が離れ、自公政権が少数与党化したことが、不安定な「決められない政治」をもたらしています。
来年1月20日にトランプ政権が発足したあとの世界は、各国が自主自立を迫られる時代、それぞれの国の国益を国民の立場に立って追求できる保守現実派が政治の主流を取り戻すことを願うものです。
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