コメ価格も消費税も選挙での集票の具とすることなかれ~積極財政の壁は金融市場、松田プランが必要な訳~
- 松田学
- 3 時間前
- 読了時間: 8分
内閣支持率が上がっています。6月9日のNHK調査では39%と前月比6ポイント上昇、不支持率は6ポイント低下して42%でした。要因は小泉コメ効果でしょう。参院選で自民党敗北必至などと言われた状況が、このところ急激に変化しています。この支持率ならば、衆院解散は少数与党から脱するチャンス…与党がそう考えてもおかしくないでしょう。
国会閉会まで残すところ10日、内閣不信任案が提出されれば即解散、衆参同日選にという流れが現実味を帯びてきました。ただ、昨年の衆院選で多数の落選議員を抱える自民党とは異なり、候補者擁立が容易ではない立民の野田代表は依然として煮え切らず、可能性としては必ずしも高くないというのが現時点での見方ですが、何が起きるかわかりません。
とにかくコメの値段を下げる!小泉氏がそう豪語し、実際に投票の時期に安いコメが出回っていれば、コメの高騰に苦しむ有権者にとって小泉氏は英雄になります。何が何でも郵政を民営化する、そう豪語して選挙に大勝した父親のときと同じ光景が思い浮かびます。
ただ、郵政民営化が政策論として無意味だったように、今回も、何が何でもコメの値段が下がればよいというものではないでしょう。やはり…米国からのミニマムアクセス米の輸入増が選択肢に入ってきたようです。これは食料自給に反するという問題のみならず、日本では必ずしも主食用ではなく、安くても決して美味なものではないとされています。
他方で、米国では現在もコシヒカリが日本よりも安価で売られているとか。しかも、輸出奨励のために補助金も出ており、それで安くなっている…本来は日本国民に美味なコメを安定的に供給するために使われるべき税金が、これでは本末転倒ではないでしょうか。
安価で店頭に並ぶことになる「古古古米」などと言われる備蓄米も、「ニワトリが最も食べている」と発言した代議士が所属政党から注意を受けたそうですが、決して否定できない事実でしょう。全体としてコメの値段が下がれば下がったで、それで収入が減少することになる農家からも不安の声が上がっています。輸入に頼らず、適正な値段で品質の良いコメを…農家にとって持続可能な着地点が見出されなければ問題解決にはなりません。
結局、消費者には安価で、農家には十分な所得が保障されるだけの値段で、コメが安定的に供給されるよう、その差額を農家への直接支払いなどで補てんする政策が必要だということになります。消費者に「おコメ券」を配布する方法もあるでしょう。
いずれにしても財政出動の仕組みを講じることが不可欠。焦点は財政だということになり、それができるかどうかです。本来なら、そこまで腹を決めた政策体系をこそ選挙で国民に問うべきでしょう。コメの値段の一時的な低下をもって集票の具にしてはいけません。
選挙対策といえば、長年にわたり政争の具になってきた代表格は消費税です。増税は選挙ではタブー。かつて大平内閣では一般消費税が頓挫し、中曽根内閣では売上税が頓挫、89年にようやく竹下内閣のもとで3%で消費税を導入した直後の参院選では自民党は惨敗、その後、7%の国民福祉税騒動が細川連立内閣の崩壊につながりました。
●野党のときは消費税に反対でも、政権をとると消費増税をしてきたのが日本の政治史
89年の参院選では「ダメなものはダメ」と消費税に反対した土井たか子党首率いる社会党が第1党へと躍進し、「マドンナ旋風」を引き起こしましたが、では社会党はその後、消費税をどうしたか。97年4月からの3%から5%への税率引上げを決定したのは、ほかならぬ社会党党首の村山富市総理率いる「自社さ」政権でした。野党のときに言っていたこととは逆。これはその後の社会党崩壊にもつながることになりました。
同じことは民主党政権についてもいえます。09年の総選挙で大勝したときの民主党のマニフェストには、消費税によらずともムダの削減と資産売却で、こども手当など「バラマキ4K」とも言われた財政支出について17兆円の財源が生み出されると書かれ、国民は大いに期待しましたが、実際には事業仕分けは奏功せず、野田総理のもとで5%から2段階にわたって10%へと消費税率を引き上げる「三党合意」に至ることとなりました。結局、この増税が国民の民主党不信を高める原因の一つにもなり、同党は2012年に下野。
残念ながら、同じことがあの積極財政派の安倍元総理についてもいえます。第一次安倍政権のときは「まずは経済成長」との「上げ潮路線」で消費増税を封じ、自民党が野党だったときはデフレ脱却のための積極財政を唱えていた安倍氏が、実際に第二次政権のときに行ったのは、三党合意で決められた消費増税でした。ご本人は不本意だったでしょう。
なので、1度目の8%への引上げのあと、解散総選挙に打って出たり、サミットで国際合意を取り付けるまでして2度目の引上げを延期しましたが、結局、2019年10月には現行の10%への引上げを断行することとなりました。
人類史上初のスピード進む超高齢化の中で、本来は社会保険料で賄うべき社会保障給付の財源が圧倒的に不足し、社会保険料をいくら引き上げても現在でも50兆円以上不足、それを埋めるために国と地方併せて30兆円以上の消費税収のほぼ全額を社会保障に充てても、まだ20兆円以上足りず、多額の赤字国債に依存している…そんな実情を前に、いざ政権をとれば、消費減税どころか消費増税をせざるを得ないところに追い込まれてしまう。
それが繰り返されてきたのが近年の日本の政治史でした。
にも関わらず、今年の参院選に向けて野党はこぞって消費税の減税や廃止を謳っています。選挙ではそう叫んでいても、いざ政権をとれば本当に実行できるのか?またウソツキ政治にならないか?有権者はこの点をよく見極めて自らの投票行動を決めるべきでしょう。
●小手先の減税では国民に見透かされてしまう
昨年の総選挙で「手取りを増やす」として所得税の課税最低限引上げを謳った国民民主党が躍進しました。他の野党がこの流れに乗って消費減税・廃止を打ち出すのは自然な流れではあります。そして、103万円の壁を最大160万円に引き上げることや、食料品を1年か2年程度だけ税率ゼロにすることぐらいであれば、財政の痛みは数兆円程度のオーダーで済みますから、実現不可能なことではないでしょう。
しかし、消費税についていえば、その程度の減税でどれぐらいの恩恵が国民にあるのか?果たして子どもをもっと産もうとする気になるのか、おカネをもっと使おうするか?社会保障がこれからも増えるのだから、いずれ増税でしょう?どうせ選挙対策でしょう?そう見透かされるのが関の山ではないでしょうか。日本国民は決してバカではありません。
そうではなく、経済を真に活性化し、国民が未来に向けた展望を開けるようにするためには、ここ四半世紀で35・6%から46・2%へと10ポイントも上昇した国民負担率を中長期的に引き下げるぐらいの規模の負担減でなければならないはずです。
●多くの論者が見落としている金融マーケットという壁…これを克服するのが松田プラン
ちなみに、「れいわ」が主張している消費税廃止は、それだけで国民負担率を35%近くまで引き下げる効果があります。ただ、問題は、現在の社会保障を維持するために国債発行を数十兆円増やさねばならなくなることです。同党はMMTの立場に立って、世界最大の対外純資産残高の国である日本であれば、インフレにならない限り、いくらでも国債を発行できるという立場ですが、本当でしょうか?理屈ではそうですが、現実は異なります。
国債は日銀による直接引き受けが財政法第5条によって禁止されており、市中消化の原則のもとで金融機関が政府から購入しています。つまり、金融マーケットが国債を購入する範囲でしか国債は発行できません。それを上回る国債を財務省が押し付けようとしても、金利が急騰して経済は大混乱になり、減税の効果は吹き飛ぶでしょう。
アベノミクスの異次元の金融緩和のもとでは、日銀が金融マーケットからの国債爆買いを続けましたが、昨年7月の金融政策決定会合で日銀はこの方針を転換し、毎月の国債購入額を減らし始めました。金融機関の側でも、国債保有額に対して自己資本を積ませる「バーゼルⅢ」という規制の導入で、かつてほど大量の国債を購入できなくなっています。
最近ではトランプ関税で米国債が売られるなど、世界的な国債累増の中で国際金融市場でも国債にはナーバスになっており、下手な国債増発が「日本売り」を誘発するリスクも意識されるようになっています。現に、日本では30年国債の金利が史上最高の高さになるなど、国債の大量増発にはネガティブな環境ができています。かと言って、外国勢に大量に国債を売り込めば、日本経済がますます海外勢力の思惑に翻弄されやすくなる…。
多くの積極財政論者たちが見落としているのは、こうした金融マーケットの現実です。
これを突破するには、日銀に再び、国債大量購入へと回帰して頂く必要がありますが、すでに国債発行残高の半分以上を保有し、バランスシートがGDPをはるかに上回る規模に達してしまった日銀にとって、国債保有額の減少は、金融政策の運営の上でも日銀の財務の面からも悲願となっています。
財政法5条の例外を押し付けても到底、応じられないでしょうし、日銀の国債直接引き受けは国際金融市場ではタブー。現状では、日本売りを誘発すること必至です。
こうした壁を突き崩すために不可欠なのは、日銀がマーケットから国債を大量に購入しても、日銀保有の国債残高が減少する「出口」を創ること。日銀保有国債を政府発行のデジタル円で償還し、これを銀行を通じて市中に売却・流通させることで日銀のバランスシートを縮小させる「松田プラン」は、国債大量増発に道を拓く唯一の策だと考えています。
国債を増発しても、それは国民が使えるマネーに転換することで減っていく。参政党は国民負担率を35%に低下させることを公約に掲げていますが、それは、この「松田プラン」を裏付けとしているからこそ、実現可能な公約になっています。
選挙での集票のための消費減税ではなく、真に国民を豊かにするための減税を。それが政治への国民からの信頼を取り戻す王道だと考えています。
Comentarios