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  • 執筆者の写真松田学

欧州議会選挙が示す新潮流と日本の政局~今回のウクライナ支援スキームの危うさと米ドル基軸通貨の揺らぎ~

このところ本コラム冒頭の記述がいつもそうなのですが、岸田内閣の支持率がさらに低下…この土日のANNの世論調査では、政権発足以降、最低の19・1%に。これは菅内閣末期の25%を下回り、2割を切るのは2012年に自民党が政権に復帰してから初めて。政治資金規正法改正案を「評価しない」と答えた人は59%。特に党内で衝撃だったのは、本調査で2か月連続「次の衆議院選挙の後に『政権交代を期待する』と答えた人が半数に上ったことでした(前回52%、今回49%)。「自公政権の継続を期待」は34%に過ぎません。


ただ、総裁選前の解散総選挙で総裁再選との岸田氏自身のシナリオはまだ崩れていないそうです。岸田氏では選挙の顔にならないと考える選挙に弱い議員が岸田降ろしの中心だとすれば、総選挙で自民が大敗すれば彼ら数十人は落選して消える。代わりに維新と連立を組んで政権維持という実績で総裁再選…。そのための支持率アップの材料は内閣改造(総裁選の有力ライバルを内閣に取り込んでしまう)か、拉致被害者切捨ての電撃訪朝か…。


総理のG7サミット等の外遊中に麻生氏と茂木氏が会食したことが話題になっています。首相けん制の狙いか?彼らはパーティー券公開基準を10万円から5万円に引き下げるなど、政治改革で維新とも握った岸田を許せない。麻生氏が岸田降ろしに舵を切った、この会食は岸田への決別宣言か…。いよいよ本格化する岸田降ろしの中で岸田氏は四面楚歌の状態にあり、党内の関心はポスト岸田に移っているとの見方もあります。


その「キングメーカー」は麻生氏と菅前総理。岸田氏はこの動きを封じるべく特捜の力で派閥解消に持ち込みましたが、それでも旧安倍派も含め反主流派は固まって動ける、派閥の軛が無くなったので、かえって推薦人を集めやすくなったとの見方もあります。ちなみに、最近の党員獲得数ツートップは青山繁晴氏と高市早苗氏だとか…。彼らに総裁の目はないとしても、「日本を潰している」岸田氏に反発する岩盤保守層が、自民党のどこを見限っているのかを示すものかもしれません。政権維持のために国を売る最悪の総理…と。


政局はさておき、今回は以下、いずれ来たる総選挙に向けて日本の有権者として押さえておくべき2つの事象に即して、私なりの考えをお伝えしたいと思います。


一つは、今般のG7サミットで方針が合意されたウクライナ支援のスキーム。これは日本の納税者にとっても由々しき事態であるだけでなく、今後の国際秩序を長期的に分断させかねない大問題を孕んでいます。


もう一つは、先日の欧州議会選挙が示す世界秩序の新しい潮流についてです。日本のインテリたちもメディア報道に目を曇らされることなく、この現象の意味するところについて熟考することを迫られているのではないでしょうか。


●ロシア資産の運用収益で返済?…日本が債務保証というウクライナ支援密約の正体

岸田総理は今般、ゼレンスキーとの間で10年間に及ぶ安全保障協定に署名しました。まず本年は45億ドルの資金提供をするそうです。半年で約7,000億円、このペースだと年間で1・4兆円、10年だと14兆円?二国間での資金供与を今般、約したのはどうも日本だけのようで、果たして納税者である私たち日本国民にきちんと説明はあったでしょうか?


それだけではありません。今回のG7サミットではトンデモない方針が決められています。それはウクライナ支援のための基金の設置ですが、これは西側が経済制裁で凍結しているロシアの金融資産の活用。さすがに元本3,000億ドルに手をつけると国際法違反となりますので、ロシア資産に対する毎年の30億ユーロ(5,000億円)の運用収入を返済原資に充てる形で、米国などがこの基金に融資をするというスキームだそうです。


早速米国は7・8兆円の基金への融資を表明していますが、よく考えると、本コラムでも警鐘を鳴らしてきた9・4兆円の米国ウクライナ支援予算(岸田総理訪米直後に「融資なら」とトランプ氏も了解して成立した予算)を日本が肩代わりするとの密約の正体がこれか…


戦争が終わってもロシア資産の運用益を西側が活用し続けられるとすれば、その前提はウ戦争でロシアが大敗し、賠償金を取れる場合でしょう。現在の戦況からみて、この前提自体が疑わしいですが、仮にその前提通りにロシアが敗退しても、第一次大戦後にドイツに対して多額の賠償金を課し、ヒットラーの台頭に繋がった歴史が頭をよぎります。


それだけではありません。このスキーム自体が早速、世界に亀裂を生もうとしています。ロシア凍結資産の3分の2はEU域内にあり、多くはベルギーの決済機関ユーロクリアが管理していますが、残り3分の1を管理する香港筋からは訴訟を提起する動きも…。ロシア側は、ロシア国内にある石油・天然ガス関係の西側設備を差し押さえる構えであるとも聞きます。つまり、毎年5,000億円の返済原資が極めて不確実なスキームです。


米国から基金に融資された資金はウクライナに贈与され、戦争中は米国軍事利権からの武器購入に回る。そして上記の通り、基金からの返済原資が確保されないリスクが顕在化した場合が、日本による債務保証密約の出番か…これがあるから米国はキシダを守る…?


●帰結は米ドル基軸通貨体制の弱体化…さらに自らの首を絞めるG7

もう一つ、この凍結資産活用スキームは長期的にみた世界の大分断を加速することになります。現在、世界では成長する新興国・途上国(グローバルサウス)が台頭していますが、その多くの国々が「G7秩序」には従おうとせず(対ロ経済制裁に加わらないなど)、逆に、中ロ側を指向して「BRICs秩序」が拡大する勢いです。今回、ゼレンスキーが提唱した「平和サミット」(ロシアと中国は不参加、バイデンは欠席)でも、インドやサウジといった大国が賛同しないなど、「共同声明」に対する支持は広がりませんでした。


これら諸国にとって、有事の際には凍結される可能性のあるドル建て資産の魅力は大きく低下しており、上記スキームがこの流れを決定的にする可能性があります。かつて、ニクソンショックで米ドルが金の裏付けを失ったことを受け、キッシンジャーはサウジと全ての原油代金のドル建て決済の契約を締結し、それが「ペトロダラー」としての基軸通貨を支えてきたとされています。しかし、今般、その契約更新をサウジが拒否するとか…。


かたや、BRICsの今年の議長国であるロシアはブロックチェーンを活用した「BRICs共通通貨」を提唱しており、もとより資源国が多い国々ですから、資源をバックにした世界通貨で米ドル基軸通貨体制を脅かすとも言われています。


元々は一連の対ロ経済制裁で、中ロなど専制主義国どうし、そしてこれらとグローバルサウス諸国との関係を緊密化させ、ロシアの経済状態をより良くするなど、自分で自分の首を絞めてきたのがG7。本来は「法の支配」を立場とするはずのG7側が、今回はさらに、国際法秩序を壊してまで凍結資産を勝手に流用する事態は、まさに国際秩序の根本にある通貨体制についてまで、自分の首を自分で絞める暴挙と言わざるを得ないと思います。


その先頭に立ってこれに加担し、バイデンにポチの如く従う岸田総理が、この世界的な暴挙を日本国民の血税を使ってサポートするという国民不在の愚かな構図が見えてきます。


●フランスでもドイツでもイタリアでも台頭した「極右」は本当に極右なのか

こうした岸田総理のみならず、メディアも政官界も各界指導層が世界の新たな潮流に対して全く背を向けていることを露呈したのが、6月9日の欧州議会選挙2024でした。


フランスでは「極右」とされるRN(国民連合)が得票率で約32%の首位、これはマクロン大統領の与党の2倍であり、これに焦った同大統領は早速、議会を解散しましたが、RRNは前回の大統領選で40%の国民からの支持を得たルペン氏の党であり、同氏は次期大統領選で勝つ可能性があります。これがどうして「極右」?メディアはフランス人をバカにしていませんか?これだけ多くの国民が支持していれば「極」右とは言わないはず。


ドイツでも危険なポピュリズムの「極右」政党と報道されているAfD(ドイツのための選択肢)が、得票率が保守の前政権政党であるCDUに次ぐ2位へと躍進。現与党のSPD&緑の党(環境政党として2019年に躍進)は大敗を喫しました。イタリアでは現在の総理大臣であるメローニ氏が率いるのが、これも極右とされてきたFDI(イタリアの同胞)が大勝しました。総理の政党がどうして「極右」?その言葉の定義を変えるべきでは?


どうも、グローバル利権に支配されているとされる世界中のメディアが、現在、世界で生じている国際秩序の大変動という事態をまだ、捉えきれていないようです。


日本ののどかな田園風景を車窓から見るたびに、私たちが祖先から受け継いできた自然や土壌で育まれた食を守らねばと感じますが、これを否定しているのが脱炭素原理主義。欧州の農民が怒るのは自然なことでしょう。牛のゲップはダメ、食料危機では昆虫を食え?生態系に悪影響を与える風力発電施設で美しい欧州の田園風景を破壊する?私たちの農業と土地を守れ…トラクターで高速道路を閉鎖した農民たちの主張はもっともな内容です。


移民に取り囲まれてドイツ人女性が暴行を受けたことに端を発するとされるAfDが今回ドイツで躍進したのも、一般市民の間に移民急増への不安が広がっていたとすれば、ごく普通の現象。いずれ自国が自国でなくなることを心配するのはごく自然な国民感情です。これに反対すること自体はヘイトでも人種差別主義でもなく、両者には論理の飛躍がある。


再エネ一辺倒がエネルギー供給を不安定化させてインフレを招いていたとすれば、極端な環境原理主義に対して、現実を見ろ、私たちの生活はどうなる、と国民が怒るのは当然でしょう。ウ戦争が本質的には西側利権によって引き起こされたことを多くの国民が見抜いているとすれば、これ以上ウ支援に血税を使うなという声が出てもおかしくありません。


●反グローバリズムで世界秩序は大変動…「自国ファースト」で共存共栄する国際社会へ

EUでは、加盟各国の主権を超えて一律の原理のもとに細かい規制を次々と各国民に課してきたEU機関をグローバリズムとして批判する動きは、2016年の英国のEU脱退の際の国民投票でも顕著でしたが、各国の有権者がまずは自国民を優先せよと叫ぶのは、その国のステークホルダーは納税者たる国民なのですから、当然の主張でしょう。


米国でも「アメリカファースト」を掲げるトランプ氏を支持するMAGA(Make America Great Again)運動が同氏の支持率をしてバイデンを上回らせ、同氏の「不倫口止め料裁判」で34の罪状全てに陪審員12人全員が「有罪」との評定を出しても、それがかえって同氏への寄付や支持を増やしています。これはバイデン・グローバリズム勢力による民主主義の破壊に対する有権者の真摯な怒りの反映であり、ポピュリズムとは言い切れません。


ところがです。マスコミ的には、これら当たり前の常識は全て危険なポピュリズムであり「極右」。欧州議会選挙でも示された国民の民意とは何なのか。世界のエスタブリッジメント層はレッテル貼りの思考停止から卒業して、よく考えてみるべきでしょう。


いま世界では新しい世界秩序が始まろうとしています。前述のグローバルサウスも、その大半の国々がナショナリズム指向とされます。冷戦体制崩壊後に成立した米国一極主義、この体制を利用して世界で戦争を起こしてきたネオコンや、利権を追求してきたグローバル勢力が世界を「ワン・ワールド、ワン・ルール」で統治しようとしてきた潮流が、いまや明らかに転換期を迎えようとしています。


多くの場合、世界の潮流に10年ぐらい遅れて変化が起きてきた日本の場合、まだ、この新潮流を担う政治勢力は参政党ぐらいなのでしょう。ドイツにおいてAfDが公共放送の討論番組には呼ばれないが如く、日本のメディアは未だにその存在を無視していますが、現在は良くても2%程度に過ぎない参政党の支持率も、いずれフランス並みの30%程度にまで上がる日が来るかもしれません。


しかし、事は急ぎます。岸田氏が自らのシナリオに奏功して早期に解散するにせよ、政権運営に行き詰まって9月の総裁選後の解散になるにせよ、来る総選挙では、現在のメディア報道とは異なる認識に立った別の選択肢が有権者に示されなければならないと思います。それは、世界が「自国ファースト」を追求する時代にあって、日本も「日本ファースト」で自ら独自の国益を追求しつつ、その上に立って、多種多様な国民国家が共存共栄する新しい国際秩序をリードする、そのような国づくりに向けた政治の選択肢ではないでしょうか。


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