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  • 執筆者の写真松田学

大丈夫か?総理からの一斉自粛要請~この際、日本は危機をチャンスに転じる道を~

いまさら何を、と思った人も多いでしょう。「一斉」なら本来は国境措置だったのではないか?遅きに失した。もはや世界有数の感染国とされるまでに、すでにたくさん中国から入っていた。危機対応の遅れを民間や国民生活になすりつけるのか…。先週末にかけての安倍総理の一連の要請で、本日から全国ほぼ一斉に学校が休校となりますが、いよいよ新型肺炎が日本の経済社会の機能をダウンさせるところまで影響が広がってきました。これでさらなる人的被害の悪循環にならないよう望みますが…。


ただ、騒いだり恐れたり委縮したりするよりも、イベントも会合も中止で浮いた時間を、そろそろ次の組み立てを考えることに充ててみてはいかがでしょうか。この際、中国との関係を抜本的に見直し、この災禍を日本のチャンスに転じる前向きの発想へと、私たちの思考を進めてみたいものです。


経済も社会も「複雑系」です。今回の総理の要請で早速、上がっている声が、子どもの休校で医療関係者が出勤できなくなり、新型肺炎対策自体に支障が生じること。パニックで都市機能が麻痺した武漢と、都市機能が維持されていた上海とで、感染者や死者の数に圧倒的な差が出ました。今回のウイルスの特性は、毒性は弱く、子どもや健康な人は感染してもほとんど発症しない、そうであるがゆえに感染力が強い、対策の焦点は持病を持つ高齢者への感染を防ぐこと。極論すれば、いずれ世界の大半の人々が感染するかもしれない…。大事なのは、リスクの高い高齢者等への検査、診療、保護の体制の確保に対策を重点化すること。そのために必要な都市や社会の機能を維持強化することであるはずです。


もう一つ、今回の総理の上から要請で違和感があるのは、東北など感染者が一人も出ていない地域もあるなかで、なぜ全国一律なのか?かもしれません。本来、求められているのは、国は国にしかできない役割の部分で政府の危機対応機能を強化し、地方はそれぞれの現場の実情に応じて自主自立で責任を持つという役割分担だと思います。国境措置こそは国の役割、国民生活を預かるのは第一義的には地方自治体でしょう。


むしろ、前記の体制強化を目的に、その手段について各自治体や首長に「早急な具体策の検討を強く要請する」とし、検討された対策に対し「財政面など国が全面的にバックアップする」とすべきだったのでは…?結果として出てくる各地方や現場の前記目的に向けたベストソリューションは、必ずしも休校措置ではないケースが多々あるように思います。


●お人好しな日本人、排除される日本人?

考えてみれば、国が対応すべき国境措置のレベルでは、今回も日本は、お人好し国家の体でした。まずは、言うまでもなく、どこに対して遠慮したのか、米国のような中国に対する全面的な入国制限を講じなかったこと。


そして英船籍であり、その管理は船会社が責任を負うはずのダイヤモンド・プリンセス号を受け容れ、歴史始まって以来の大検疫を、クルーズ船検疫対応に不慣れな国ながらも講じ、その結果責任まで負う姿になったこと。船内ダンスパーティーの画像が流れているように、恐らく、船内感染の多くは、横浜港に停泊する前の、日本が管理責任を負えない段階で生じたものと想像されますが、日本の感染者数にカウントされてしまいました。


パリではOECD(経済協力開発機構)の本部を訪れる日本、韓国、シンガポールからの政府職員などに、14日間の経過観察期間を経なければ立ち入りを禁ずる措置が講じられたと報道されています。日本政府代表が国際会議に出席できない…、日本の外交にも支障が生じるのか…。中国各地では「逆流入」対策として、日本や韓国など感染拡大国から戻った企業の駐在員らに14日間の自宅待機や外出制限など隔離を求める動きが…。中国が日本人に対して?そもそもお前たちの国が起こした事態だろ!複雑な気持ちになります。


これでは国際社会での信用を本当に失いかねない!国境での危機管理に失敗した日本国として、ここで強力な措置を講じていることを世界に示すことが、専門家会議の検討も経ずに独断で決断した安倍総理の全国休校要請の真意だったのか…?


ただ、もう政府から出されてしまった要請、国民としてはそれに従い、しばらくは活動を自粛すべきでしょう。私にも、講師を予定していた講演の中止連絡が何件か、相次いで入りました。ここで生まれた、家に引きこもる時間を活用して、今回の危機を次なるステップへのチャンスにつなげる道を考えてみると…、以下、何点か提案したいと思います。


●中国デカップリング…経済面ではリーマン以上の「コロナショック」か?

一つは、中国との関係を再考することです。今回の事態は、経済のグローバル化とは危機のグローバル化を意味するものであることを痛感させるもの。世界は、経済のグローバル化の勝者である中国で生じた危機から身を守れなくなっています。とりわけ、中国という国が、これまで築かれてきた国際秩序とは異質の体制を有する国としてグローバルパワーを得たことで、かつてなかったほどの危機発生リスクを世界が抱えてしまいました。


米国が仕掛ける米中新冷戦は、中国人を敵視しているのではなく、中国共産党一党独裁体制を敵とするものだと多くの米国要人が共通して口にするように、上記の危機とは中国が非民主主義体制であることに起因する危機だといえます。言論統制と権力の一極集中のもとでは、危機の発生が避けにくいことが、今回、如実に示されました。


03年のSARSのときは、国際メディアに警鐘を鳴らし、結果的に感染拡大の阻止に貢献した中国人医師が存在しましたが、今回は、SNSで同窓生に注意を喚起した医師の行動すら、言論統制のもとで許されませんでした。比較的自由だった胡錦涛体制から、自らを毛沢東に擬する独裁集権体制へと転じさせてきたのが習近平体制。


今世紀に入った頃、世界経済はグローバリゼーションとIT化で、生産プロセスを工程ごとに国境を超えて分解し、これをサプライチェーンでつなぐことで、究極のコスト削減と市場獲得を実現する「世界最適地生産」へと大きくパラダイムシフトをしました。これを活用して、いまや「一帯一路」という、自国が主宰する国際秩序を打ち立てるまでにスーパーパワー化したのが中国。これは、米国主導のもとで法の支配と自由資本主義を理念に築かれてきた国際秩序が、それとはまったく異質の中国秩序を受け入れ、その成長をサポートしたことによるものです。


先週は世界的な株価下落が起こりましたが、今回の事態で懸念される景気後退や経済金融の破綻は、資本主義を支えるのはそれに適合した体制や価値観、理念であって、それを度外視した経済的合理性は成り立たないという教訓を示すものだと思います。


新型肺炎の経済へのインパクトは尋常なものではないでしょう。一つは、リーマンショック後の世界経済を支えてきたのは中国だったということがあります。世界経済に約4.4兆円の経済損失を与えたとされる03年のSARSとの比較がよく行われますが、当時に比べ、中国のGDPは約8倍、世界全体のGDPに占める比率は約4%から約17%へと4倍。しかし、経済損失も4倍の約17兆円あまりとの試算はあてはまらないでしょう。


この間、量的な面だけでなく、前記の世界最適地生産によるサプライチェーン構築や直接投資の拡大など、世界経済は質的にも、中国との相互依存に深く組み込まれてきました。加えて、SARSとの比較にならないのが、リーマン直前を上回る世界の債務残高の規模。


中国ではまず、スタグフレーションが起こるでしょう。人々が外出を控え、需要が低迷するなかで、供給面では、物流の寸断などサプライチェーンが機能せず、生産の正常化には時間がかかる。そのなかでも食料品を中心に生活必需品的な財の価格は上昇し、賃金も、出稼ぎ労働者の復帰が遅れるなかで操業を維持・再開している企業の賃金がすでに上昇しているようです。インフレ抑制のために引締めをすれば、需要の落ち込みに拍車がかかりますし、かといって、財政金融政策でマネーを増やせば、今度は債務問題を一層深刻化させてしまう。リーマン以上の世界的な経済ショックが中国要因で発生してしまうジレンマが、そこには存在します。


いずれにしても、日本の経済界はこの際、思い切って中国依存体質を断ち切る決断をすべきでしょう。米か中かの踏み絵で悩んできた経済界ですが、悩みを払拭するチャンスではないでしょうか。急に中国からの脱却は困難だとしても、「プランB」は持つべきです。


この災禍を奇貨として、国のレベルでは新たな国際秩序の形成をより強く意識した外交路線へと、ビジネスのレベルではサプライチェーンの再編成へと、中国デカップリングに向けた思考の切り換えを図らねばならないと思います。


ちなみに、習近平の国賓来日や表面的な協力関係が外交上、避けられない選択肢だとすれば、たとえば、専ら中国側にメリットのある国賓来日を、日本の国連常任理事国入りへの協力を中国に求めるカードにするぐらいのことを考えるべきかもしれません。


●この際、日本は徹底的なデジタルトランスフォーメーションを

加えて、危機をチャンスに転じるという意味で、コロナ騒動を契機に、日本はこの際、徹底的なデジタルトランスフォーメーションを進めてみてはいかがでしょうか。


悔しいことに、今回も中国では遠隔検査が行われているとのこと。日本では法律で初診は対面でないと検査が受けられないことになっています。さすがに今回は例外措置が採られているようですが、こうした規制が今回の事態への速やかな対応を可能にする体制構築を妨げてきたのは事実。規制緩和の対象でしょう。


先日、上海在住で証券会社に勤める中国人の友人から、こんなメールが届きました。「1月23日から私はずっと家で仕事をしています。上海は大丈夫そうですが、できるだけ外出せず、家に籠っています。気温が上がれば、ウイルスが自然になくなるという説もあります。その時期まで我慢しなければならないという覚悟です。」


仕事だけでなく、中国の子どもたちはスマホで遠隔学習をしているようです。日本で全面休校をしても、その備えはありませんでした。


日本の一部企業が取り組んでいるように、テレワークの推進や働き方改革の契機にすることに加え、感染症のことも考えれば、喫緊の課題となっている医療や介護の現場へのIT(AIやロボットなど)の導入なども一挙に進めるべきです。


今年から実装が始まる5Gも、未だ具体的なビジネスのイメージがわかないという産業界の現場からの声がありますが、社会的課題を最先端技術の実装で解決していくネタはいくらでも出てくるはず。次なる6Gで実現するのは「どこでもドア」、あたかも相手がそこに実在するかのようなリアルな遠隔会議ができれば、パンデミックも恐くないでしょう。


今回のマイナスをプラスに転じる道をオールジャパンで拓くことを考えたいものです。


課題先進国として社会的課題の解決をテーマに、先端情報技術にイノベーションを起こすコミュニティの構築を!未来社会プロデューサーとしてブロックチェーン革命の推進を呼びかけている私は、同志の皆さんとともに、このことを掲げて「ソーシャル・イノベーション・ラボ」を3月末から立ち上げることにいたしました。日本のデジタルトランスフォーメーションで新たな産業を興す決意です

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