top of page
  • 執筆者の写真松田学

国際秩序と日本の政界の歴史的なレジームチェンが進んでいる~派閥解散で政治の信頼回復の本筋を見誤るな~

週に一度配信しているこの定期メールマガジンも、今回で第300号となりました。配信を始めた6年近く前の2018年の当時は、米国ではアメリカファーストを唱えるトランプ政権の時代であり、英国ではEU離脱の手続きが進められるなど、それまで世界を支配したグローバリズムに対抗してナショナリズムが動き出していた時期だったといえます。


その後、コロナパンデミックやバイデン政権下での米国の迷走、ウクライナとハマスの二つの戦争などを経て、世界がこの両勢力の拮抗で動く図式が強まっていると感じます。そして今年は甲辰の干支が意味する如く、世界が新たな秩序形成に向かう年になるかどうか…日本でもパー券裏金問題を契機に、政治の姿が大きく変わる年になるかもしれません。


この裏金問題はついに先週、自民党主要派閥の解体へと発展し始めましたが、この派閥の問題については、かつて35年前の1989年に自民党がリクルート事件の反省からとりまとめた「政治改革大綱」でも、「派閥の弊害除去と解消への決意」が打ち出されていました。


当時もリクルート事件で派閥のリーダーたちが未公開株の売却益を得ていたことから、今回と同様に派閥とカネの問題が浮き彫りになり、こんにち議論されている改革案の多くが盛り込まれていました。にも関わらず、同じことが繰り返されてきたわけで、この大綱の通りに対応していれば今回のような問題は起こらなかったはずだとの指摘もあります。


これは何を意味するか…およそ自民党国会議員のような大所帯の集団となると、その構成員の考え方も多種多様となり、近い考えの者どうしでグループが形成されるのは世の常。


これを禁止するのはかなり無理があり、派閥解体によって政策や立場における党内での多様性が失われ、それこそ自民党執行部一極支配体制のもとで、本来は自由に議論を磨き合うべき国会議員のサラリーマン化という近年の嘆かわしい傾向が助長される一方でしょう。野党との政権交代が見込まれない中で、与党内の派閥が競い合うことによる「疑似政権交代」も起こらず、日本の政治が活力を失い、全体主義行政国家へと堕していかないか。


そんな中で、海外のグローバリズム勢力にとって日本はますますコントロールしやすい国にもなりかねません。強い民主主義の基本は有権者から選ばれた政治家たちの言動の自由であり、人と人とが理念を通じて結びつき、多様な国民のニーズを収束した声にしていく機能は不可欠です。問題は派閥にあるのではなく、岸田総理がその解散をもって事態収拾を図るとすれば、あの減税騒ぎの時と同様、国民を舐めていると言わねばなりません。


今回の問題は派閥の存在ではなく、政治資金の透明性の方にありました。汚職などの巨悪があったわけでもありません。その政治資金については、89年の「大綱」を受けて企業献金は制限され、代わりに政党交付金という税金が政治活動の原資になったはずです。


しかし、自民党は「自分党」と呼ばれるように、各候補者が自らカネを集めて事務所を営み自力で選挙を勝ち上がる仕組みなので、それでも資金が足りず、パー券で企業からカネ集めをすることになります。そもそも民間企業は株主利益に反することはできず、自社の利益となる見返り無しの資金拠出はできない存在です。当然、「自分党」の仕組みの下では、利権を向いた政治になること必定。そこにカネまみれの政治になる構造があります。


今般、たとえ不記載、虚偽記載という形式犯であっても、国民の政治不信がここまで高まった以上、それを本当に払拭するには、そもそも選挙にカネがかかることや、有為な人材が政界に参入できない現行の仕組みをどう変えるかに答を出すことの方が本道でしょう。89年の大綱の際に、改革の目玉が現在の弊害の根因である小選挙区制の導入へと、これも本質とは無関係な方向へと迷走しました。派閥解散で同じ弊を繰り返してはなりません。


その意味では、理念を共有する全国274の支部の何万人もの党員がボランティアで活動や選挙を担い、これで桁違いに少なくなった選挙資金を党費や個人寄付で賄うことで普通の国民が選挙に出られる仕組みを参政党が現に営み、一人の国会議員だけでなく全国140人超の地方議員を生んでいる事実は、どれだけ強調してもし過ぎることはないでしょう。国民が自らの意思で政治に参加するという民主主義の原点と本質に立ち返った政治改革こそが問われています。それができない自民党ならば、それこそ解党すべきでしょう。


さて、上述の党員ボランティアが支える参政党の原点にあるのは、従来のグローバリズム支配の構造に日本の将来に対する危機感を抱いた多くの国民が草の根で立ち上がったこと。これは世界の新しい政治潮流です。その背景にあるのが、現在進行している歴史的なスケールでの秩序再編。批評家の西村幸祐氏は、昨年を戦後秩序が世界的に崩壊した年だったと総括しています。では、新しい秩序はどちらに向かい、日本の立ち位置はどう考えるべきなのか。今回は、この西村氏が松田政策研究所CHで語った内容をご紹介します。


●安倍政治潰しと世界的なパラダイムシフトへの「ガラガラポン」

昨年は、戦後の欧米支配の秩序が崩壊に向かい、「パラダイム・シフトのガラガラポン」の中で色々な問題が次々に噴出した年だったといえるでしょう。他方で、米国発の「文化大革命」が勢いを増しており、西村氏は、これは日本にも影響するとしています。


一昨年の安倍氏暗殺で日本が失ったものは大きく、世界でBRICs秩序が伸長し、これからはインドの台頭が著しい中で、また、プーチンが欧米を離れて日本と対話を示唆する中で、いずれの国とも日本独自の立場で関係を結んでいたのが安倍氏でした。


今般の政治資金問題の報道でも、派閥会長を引き継いだ時に激怒して裏金をやめさせたのは安倍氏なのに「安倍派、安倍派」と報道され、早々と安倍派の重鎮たちが閣外に追い出され、党の要職から外されました。一昨年、安倍氏暗殺とほぼ同時に旧統一教会問題が突如浮上し、多くの安倍派議員が打たれたことと似た現象でした。当時も、汚職のような巨悪ではなく、単に保守系宗教団体が保守系議員の選挙活動をボランティアで担っていることへの御礼として安倍派議員が集会に登壇したことをもって、不正が演出されました。


安倍氏と言えば、米国の「核の傘」の下での拡大抑止の発動手順の確かさを確認すべきとまで発信していた政治家。トランプ、安倍、プーチン、ボリス・ジョンソン、ネタニヤフは、近年における世界の「ナショナリスト五巨頭」であり、いずれもグローバリズム勢力にとっては不都合な存在です。日本が国家観をもって自立しようとするとき、その動きは必ず潰されてきました。彼らの狙いは日本から安倍政治なるものを一掃することか…。


しかし、日本には明るい材料もあると西村氏は指摘しています。それはソフトパワーの台頭であり、そのパワーの源泉は日本の独自性。今回の事件で55年体制がいよいよ崩壊し、新しい政治が台頭しなければなりませんが、だからこそ、西村氏は日本の独自性に軸を定める参政党に、今年の期待を寄せています。その西村氏によれば…、


●世界の潮流の歴史的変化

「去年の大きな出来事といえば、キッシンジャーが亡くなったこと。戦後の世界秩序がどのように形成されたか、冷戦体制、冷戦終結でパクスアメリカーナの一極集中、21世紀に入ってからの9・11のあとは非対称戦争が軸になり、世界秩序が揺さぶられてきている。」


「大戦後の世界秩序の流れが終わりを告げたのが昨年。キッシンジャーの死が象徴している。大戦後から積み上げられてきたものがガラガラポンに。この数年の流れがそうだ。それがハッキリしたのが去年だった。」


「そのさきがけがバイデン政権のアフガン撤退という大失態。ロシア・ウクライナ戦争も膠着が続き、従来のような代理戦争というわけにはいかなくなった。」


「もう一つ、欧米支配の世界秩序にひびが入ってきた。大戦後の秩序が崩れる中で、一昨年に安倍氏が暗殺、その翌年にキッシンジャーが死んだ。これらは大きなものを投げかけている。大きなパラダイム・シフトが起きるとき、その予兆が、マグマが地表に噴き出すように色々なものが出る。人々がショックを受けないような予行演習のようなものだ。」


●進行する「文化大革命」の流れ

「米国を席巻しているのは大革命。60年代末期が繰り返されている。CRT(Critical Race theory、批判的人種理論)、LGBT、キャンセルカルチャー…米国左派だ。米国から出てきている。これらは20世紀の半ばに巻かれたタネ、フランクフルト学派が力を持ってきている。」


「今回、イスラエルを支持する層が60代以上になってしまった。これは世界的潮流。イスラム勢力が西側勢力の中に混入しているからだ。20~30代はむしろパレスチナを応援。欧米の知識人がうろたえている。ナチズムが忘却され、反ユダヤ主義が後ろ指をさされなくなりつつある。」


「日本がいつ、米国で起きている文化大革命の渦中に入れられるかわからない。米国では反日プロパガンダの本が出る予定。『ジャパンホロコースト』。それにどうカウンターしていくかが今年の課題になる。90年代に起きたのは、南京大虐殺が世界の定説になったことだった。今度出る本はもう一つ、『シンドラー・イン・南京』。樋口季一郎中将がどれだけユダヤ人を救ったか。それが日本でも認知されるようになった時に…軍服を着た銅像が戦後初めて建てられた時に…。」


「戦後レジームがめくりあがったときに、安倍総理の暗殺とか米国であんな本がでるとか…そういうパワーゲームが裏で行われている。」


●BRICs秩序と日本

「新興秩序の台頭では、インドがスゴい。ヒンズー主義のインドのナショナリズムだ。安倍氏がモディ氏と組むことで、米国はインドを受け入れざるを得なくなった。先日、モスクワのインド人コミュニティでインドの外務大臣が、ロシアと核の協定をやると発表した。G20の勝者として来年は臨む、と。インドがグローバルサウスのリーダーになった、と。インドは積極果敢な外交に向かうとしている。」


「安倍さんがいてくれれば、そこに日本が登場して、日本とインドが新しい秩序を開いていくことができた。そういう意味でも安倍氏暗殺は大きな事件だった。」


「プーチンが先日、欧米とは絶縁するが、日本とは話せると言った。あれはすぐに岸田総理が飛んでいかねばならないこと。新しい示唆なのに。日本は制裁を米国に言われるままに進めたために北方領土も日ロ関係も失った。クリミア戦争のとき安倍政権はロシアに制裁していない。そこに日本の道を探る余地を残していた。プーチンはそれを見ていた。」


「日本にとって危ないのはチャイナだ。中国経済は崩壊、何が起きるかわからない。富裕層も国外脱出。日本の自衛隊は治安出動できない。中国人が100万人、国内にいる。」


●政治資金問題と今年の政治

「裏金問題では、メディアの報じ方が『安倍派』と言っているが、おかしい。あれは清和研細田派で起きたこと。安倍氏は派閥を引き継いだ時に、激怒してやめろと言った。それでその慣習がいったんなくなった2か月後に暗殺。なのに、安倍派安倍派と言っている。日本が国家観をもって独立しようとすると潰される。田中金脈問題のときも、そのあとに米国からの情報でロッキード事件、証拠にすべきでない証拠で有罪に。」


「今回の背景には財務省。財務省から見ると、積極財政派の人が安倍派に入る。岸田政権は財務省ベッタリの宏池会。バックに米国民主党政権がいるという構図もみえる。」


「今年の政治は、まず、日本保守党と参政党との連携に期待している。そもそも日本がどこに新しいものを見出していけるか、不安になる。保守が別の動きをしなければならないかもしれない。自民党がこのまま続くのか。1955年体制、戦後レジームがいよいよ崩壊に向かう。戦後の秩序がバラバラに壊れる。ここから新たに創るしかない。」


「全米で大ヒットの邦画『ゴジラ-1.0』…戦争に敗けて何もなくなっていた日本にゴジラが来た。今の状況と酷似。ゴジラは何のメタファーか…グローバリズム、米国、中国共産党…色々あるが、何もないところにいま立っているという共通項がある。」


「この映画をみて米国人たちがみんな泣いている。米国人も同じ問題。分断で壊れて建国の精神もない。奴隷船が最初に着いたのが米国の建国だと教えている教科書。何もないところに民間人が立ち上がる、その姿に感動している。」


「戦争のトラウマも共通だ。ベトナム、アフガン、イラク、アフガンからの撤退、日本が敗戦のときと同じトラウマが米国人にはある。自分を投影できる。それで大ヒット。」


●日本の未来を拓くカギは日本の独自性の尊重にある

「日本の明るい話題とは…政治、経済、軍事ではない。レールガン、自衛隊が開発。素晴らしい技術だ。スリムという月着陸船は世界中から注目。これをインドのメディアが大きく報道しているのは、インドには自信があるからだ。シンパシーで報道。月着陸は普通はアバウトなもので、10Kmの誤差。それが100m以内の誤差に。月面で有効な技術になる。いずれ、日本人の宇宙飛行士が月面で活躍することになろう。」


「ポップスでは『夜遊び』が全米1位に。スポーツがスゴい。『失われた30年』の一方で、『獲得した30年』。サッカーもそうだ。日本のソフトパワーになる。」


「日本が古来持っている良さがあるからこそソフトパワーになる。外国人観光客が増えているが、日本のソフトパワーが外国に持ち帰られる。子どもが一人で買い物し、電車に乗って通学している。向こうではあり得ない。びっくりされる。それこそが日本が培ってきたソフトパワーであり、倫理観。日本は安全だということや、伝統文化を崩してはダメだ。他のアジアは持っていないものだ。」


「レヴィ・ストロースは、日本は太古から多くのものを海外から学んで、ろ過して日本オリジナルなモノにした、それを米欧は見習わなければならないと書いた。ろ過し、最上のものを同化したので、独自のものを日本は失っていない、と。日本はアジアに社会的模範を、西欧には精神的模範を与えている、と。」


「日本の独自性を保証しているのは皇室だ。『日本-1.0』になったときに何に帰るかは、そこしかない。日本の独自性、国體を守っていく。その意味でも参政党に期待している。」

閲覧数:85回
bottom of page