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  • 執筆者の写真松田学

冷戦崩壊後のグローバル化が育てたグローバリズムの脅威と経済安全保障~新たなる道は「国民経済」の再興~

国の安全保障に対する日本国民の関心が戦後初めてと言えるほど高まっていますが、今や国防とは軍事よりも、非軍事面の侵略から国をどう守るかという点にこそ、もっと国民の関心が寄せられねばならない時代になっていることを忘れてはいけないでしょう。


最近では経済安全保障という言葉がすっかり定着しましたが、中国によるSilent Invasion(静かなる侵略)は、多くの日本国民の予想を超えるものがあります。しかも、侵略者の手口は巧みです。だから普通の国民にはわかりにくい。


愛媛県西条市では150haの広大な農地の買収が中国系の資本により進められていることに住民は脅威を感じていますが、関係会社の株主構成を調べたところ、そこには拒否権を行使できる「黄金株」が…。農地売買に当たる農業委員会の審査では、表向きわからないように、事実上、中国のコントロール下に置かれている状況が明らかになりました。この農地は日本を代表する名水の水源地。過去の歴史を振り返ると、中国による侵略の手口は、最初に水を押さえ、次にエネルギー、そして中国人が入植…というものだそうです。


エネルギーといえばメガソーラー。電力の固定価格買取り制度のもとで、日本人が負担する電気代のかなりの部分が中国に吸い上げられる仕組みになっているだけでなく、自然環境や生態系の破壊を次々ともたらしているのが彼らによる大規模な太陽光発電施設です。


先日は、中国人女性が沖縄の無人島を買ったことが話題になりましたが、日本人は中国の土地を買えないのに、中国人は日本の土地を買えるという、相互主義に反する「不平等条約」状態が放置されてきました。これはWTOのルールであるGATS協定で、日本は「内外無差別」の基本原則に何も留保をつけない珍しい国の一つであることによるもの。今の日本の外務省には不平等条約の改正に取り組んだ明治の元勲たちのような気骨はないようです。米国は最近、中国による土地買収に対する規制を著しく強化しています。


日本にいても中国の国民は国防動員法で有事の際に戦う義務がありますし、国家情報法のもと、中国共産党政府のために日頃から日本の情報をスパイすることも彼らの義務。こうした中国勢が日本の土地を次々と購入する事態を政府はどう認識しているのかと、先般、参政党が質問主意書で質したところ、政府の答弁は「お答えできない」。国民の多くがこのことを脅威に感じている中で、こんな政府で果たして日本は大丈夫なのか心配になります。


経済安全保障では日本の第一人者である平井宏冶氏が、北海道の現地調査を踏まえて松田政策研究所CHで語ったところによれば、中国は日本企業の陰に隠れて北海道の地下資源の探査を着々と進めているようです。ニトリという社名が出ていましたが、カネに目が眩んで日本を売ることに加担しているとは、これこそ「今だけ、カネだけ、自分だけ」のグローバリズムに取り込まれている日本の経済界の状況を象徴しているかのようです。


また、北海道周辺海域では、洋上風力発電に中国勢が食い込み、これも海洋資源の探査を進めているとか。道内の各地には中国向け食料のサイロが立ち並ぶ風景も…。私はかつて霞が関で北海道の公共事業予算に携わったことがありますが、各種の優遇措置を講じている「北海道枠」が存在する重要な意義の一つは北海道を「日本の食料基地」として位置づけていることでした。ここでも日本人の税金が中国人のために使われているのか…。


地元の噂では、中国勢が手を出しているのは主に南部で、オホーツクなど北海道の北部はロシアのためにとってあるとか…将来は中ロによる北海道分割統治?


自由な経済活動は自由主義市場経済の根幹であり、グローバリゼーションで海外のヒト、モノ、カネの活力を日本に取り込むことは日本の重要な成長戦略…この発想は、もはやパラダイムチェンジを迫られていますが、日本政府も与党もその点ではかなり遅れているようです。そうしている間にも、日本の中に日本ではない領域が着実に拡大。日本はいずれ、香港どころかウイグルやチベットのようになる?


冷戦体制崩壊後に世界を席巻したグローバリゼーションは、基本的な価値観の異なる国々を市場経済へと取り込むプロセスでもありましたが、その結果として強大化したグローバリズムが、いまや自由主義諸国の主権や民主主義や固有の文化、アイデンティティを、彼らの経済的な利益のために破壊していくプロセスに入っているといえるでしょう。


参政党は「グローバリズム全体主義」に対抗する「自由社会を守る国民国家」という軸のもとに、経済面においては「国民経済」の再興を掲げています。


今回は、今なぜ国民経済なのかをご理解いただく素材として、前述の平井氏が松田政策研究所CHでグローバリズムについて整理した内容をご紹介したいと思います。


●変質したグローバル化と「中国的特色ある社会主義」

冷戦終結前の経済のグローバル化は、実質的にG7の中の国際化でした。そこでは法の支配が共通理念であり、ヒト、モノ、カネの移動が、独裁政治の東側諸国では行われていませんでした。労働者の権利や環境破壊などを無視した競争は限定的だったといえます。


それが、冷戦終結後のグローバル化は、価値観などの違いを棚上げしたままのグローバル化となりました。中国を組み込み、特色ある社会主義を正確に認識せず、価値観、政治制度の違いを先送りし、「中国が豊かになれば民主化する筈だ」という勝手な思い込みで経済のグローバル化が進められたわけです。


中国的特色ある社会主義は、マルクス・レーニン主義+毛沢東思想(+習近平思想)で構成されています。中国の歴史は、秦の始皇帝以来2000年以上続く中央集権的な王朝の歴史です。西側諸国は、それを背景とする国家と個人の関係を見落としていました。


中国に民主的に選ばれた政権など一度もありません。中国の体制は、マルクス・レーニン主義を利用し、中国共産党常務委員会の七人がこの地上を支配する世界の実現を目指すものであるといえます。


●サプライチェーンに組み込まれた中国による「超限戦」

この点を見落としたのは西側の大失敗でした。そして、自分たちの安全保障まで脅威に陥れてしまいました。改革開放路線を掲げた中国がWTOに参加し、中国はグローバル化の流れの中でサプライチェーンに組み込まれ、世界の工場としての地位を占めました。そして、中国はその14億人の人口を巨大市場としてアピールし、経済のグローバル化を推進する企業は、巨大市場での利益極大化を推進することになりました。


中国で製造する製品も繊維などのローテク製品から通信機器などのハイテク製品に変化し、西側諸国は、現地生産、合弁会社等を通じて技術を中国に移転するようになりました。


こうした中国との相互依存関係が進むと、当然ながら脅威は増大します。第三次台湾海峡危機に参加したのをきっかけに、中国では人民解放軍の将校である喬亮と王湘穂が「超限戦」を執筆しました。これは、中国がアメリカの圧倒的な軍事力を目の当たりにしたことをきっかけに書かれたもので、中国は「自衛のためにすべての境界と規制を超える戦争」を行う準備をすべきであると提言しました。


あらゆるものを戦争の手段とし、あらゆる場所を戦場とすべき。


一見して戦争とは何の関係もない貿易、金融、ハイテク、環境などは、従来なら軍事範囲とはしない分野でしたが、この分野も非軍事の戦争行動となれば、利用次第で多大な経済的・社会的損失を国家や地域に与えることができることになるとされたわけです。


人類に幸福をもたらすものはすべて人類に災難をもたらすことができる。今日の世界で、兵器にならないものは一つもない。人為的操作による株価の暴落、コンピュータシステムへのウイルスの侵入、各国の為替レートの異常変動、ネットに暴露される各国首脳のスキャンダルなどは、すべて新しい概念としての兵器になりました。


「人々はある朝、目覚めとともに、昨日まで大人しくて平和的だった事物が突然一定の殺傷力をもって牙をむき始めたことに気づくだろう」と、この本には書かれています。


日本人は「ハニトラ」(ハニートラップ)がバレたら恥ずかしい、そこで中国の脅迫に屈してしまいますが、これは開き直ればいいこと。欧米の人たちは開き直っているそうです。モラルの話と国家を守る話はきちんと区別すべき。そこを彼らは突いてきています。


●米中対立の流れ…ヒートアップするデカップリング

中国は2010年の国防動員法以降、独裁者に奉仕する法律を次々と施行し、改革開放路線から規制と統制路線に転換しました。国防動員法のほか、国家情報法、輸出禁止・輸出制限技術リスト、中国版エンティティ・リスト、輸出管理法、反外国制裁法、データ安全法、サイバー安全法、個人情報保護法などです。


これらは独裁者に奉仕する法律であり、中国は2015年に中国製造2025、2035、2049を発表し、2049年には世界最強の製造強国実現を目指すとしています。


こうして民生技術と軍事技術の境が低くなり、一般消費者が使う商品に使われる技術が、2017年頃から、中国で軍事転用されて兵器の近代化に利用され始めました。「軍民融合政策」の始まりです。


これに対し、米国は軍民融合政策や中国製造2049に対抗すべく、2019年度国防権限法を皮切りに、対中制裁を強化する法案を成立させ、若しくは審査中です。


中国はまた、Economic Statecraftを多用し、中国との経済関係を使い、中国の言い分に従わない国に、輸入禁止や高関税をかけて、中国の言い分に従わせるような行動をとり始めました(豪州vs中国、台湾vs中国、リトアニアvs中国など)。


武漢ウイルスがパンデミックを起こした際には、マスクや消毒液などの製品に輸出許可を出さずに、外交の道具として利用したことは記憶に新しいでしょう。まだ移転が済んでいない技術を対象に技術の強制開示(複合機、化粧品など)の動きも示しています。


中国は2020年には「双循環戦略」を打ち出し、世界経済の低迷の中でグローバルサプライチェーンが見直される動きのもと、国内市場という外資への餌を活用して、西側諸国からの技術移転を進めています。そして、自国の技術を育成し西側への依存を減らしつつ、中国依存のサプライチェーンを維持して西側諸国の生殺与奪の権を握る策に出ました。


米国はこれに対抗すべく、2022年に中国の兵器近代化を阻止するために半導体規制を実施し、西側諸国に連携を求めています。米国は、TikTokなどの中国製アプリについて、州政府や連邦政府の端末での使用を禁止したり、国家安全保障の脅威とする5社の新規認可を停止するなどにより、工作員のソフトや機器の締出しに着手しています。


●「西側諸国vs独裁国家」に落としどころなし…それでも利益に執着する経営者たち

「G7秩序」は、こうした全体主義の国々とは、価値観(独裁者崇拝社会vs民主主義社会)、安全保障、経済に至るまで、あらゆる側面で対立が先鋭化しています。米国の自由資本主義の価値観と中国の王朝(共産党)と奴隷を是とし、容認する価値観とは、根本的に違うものであり、米国が今世紀初めころから中国に対して採っていたエンゲージメント戦略は、どこかに落とし所をみつけられるという前提に立っていたものでしたが、その可能性がほとんどないことが明らかになったのが、トランプ政権のときでした。


西側諸国は、組んではならない相手と深い経済関係を築いてしまいました。にもかかわらず、経済安全保障にはどの国でも、強い反対意見が出ています。


利益追求をする企業が、国境を越えて中国のような独裁国家と手を組み、労働者の権利を無視した奴隷労働によるコストダウンや際限なき環境汚染などでお互い利用しあった面があるからです。ちなみに、米国でウイグル強制労働防止法が議論された際には、ロビー活動を行って奴隷労働反対に反対したのは、コカコーラ、ナイキ、アップルなどでした。


ヒト、モノ、カネが国境を越えて移動する中で、企業は民主主義国家のイデオロギー・価値観を抜きにした競争を限界まで行い、利益の極大化を進めました。グローバリゼーションへの中国の組み込みは、中国の軍拡に原資を提供し、中国の核心的経済利益にも奉仕しました。グローバリズムと全体主義は互いに手を組んでいたわけです。


経済が密接に結び付いているため、米中対立に何とか落としどころを探そうとする力が働くものです。グローバル経済擁護者は「グローバル化は不可逆の流れ」と言い、いかなる状況下でも死守すべき価値観と言います。


2023年1月、日本経済新聞は「グローバル化は止まらない 世界つなぐ『フェアネス』」というグローバル化賛美のキャンペーンを行い、移民政策を肯定する記事まで書きました。彼らは、投資家や株主利益を保護するガイドラインやコードを推進し、強欲企業の行動を正当化しています。


●株主資本主義と経済安全保障

中国は「中国製造2049」の中で、2049年までに世界最強の製造強国になることを謳っています。そのもとで、国家目標を実現するために競合相手となる日本の製造業を二度と立ち上がれないまで叩き潰そうと周到に準備を進めているようです。


日中の完全なデカップリングは不可能ですが、先端技術分野でのデカップリングは確実に進める必要があります。独裁国家へのサプライチェーン依存リスクは、一例ですが、ゼロコロナ政策でも明らかになりました。自国で技術開発し、ものづくりができない国は途上国に転落します。技術移転の規制強化は不可欠です。


しかし、日本国民は「最終利益が高いことは正義である」と洗脳され、付加価値の使い方を疑う知性や知識を欠くようになりました。例えば、日本にある工場を閉鎖し、中国に工場を建てれば、日本の工場の従業員は失業して貧しくなり、中国の工場では従業員の雇用が生まれて中国人が豊かになります。


現状では、投資家や株主利益を保護するガイドラインやコードが推進されていますが、武漢ウイルスの影響で日本の上場企業が赤字になっても、年金基金やヘッジファンド、モノ言う株主などが、高配当や自社株買いを要求しました。赤字でも高配当や自社株買いに応じる企業は、高い資本効率を達成する優れた企業とされています。


これらの現行制度は、短期的な利益最大化と高配当政策により利益を得る投資家にとって好都合なので、経済安全保障に否定的となります。


●グローバル化がもたらしたのは貧困化した中産階級~国境ある経済への回帰を

経済のグローバル化が進行した冷戦終結後の30年は、日本の失われた30年と一致します。トリクルダウンは起きず、それは株主資本主義者の詭弁に過ぎないことが明らかになりました。かつては「利益を上げれば最初に賃金」だったのが、「利益を上げれば最初に配当」に変わりました。

西側諸国では、中産階級を含む多くの人々が切り捨てられ、グローバル化はもはや経済の合理性だけで議論してはいけない問題になりました。企業が成長しても、付加価値や富などの分配が適正に行われなければ、富の偏在(貧富格差の拡大)や海外流出が加速します。多くの国民は、付加価値総額の恩恵を受けることができません。少子化対策の本質も、国民に安定的な所得向上を実感させることです。


バブル崩壊後の日本の制度は、利益を拡大し、投資家や株主を保護・優遇するものになっています。利益は増えたが、従業員や下請け業者は「所得が増えた」という幸福感を感じているでしょうか。そうでないとすれば、何のための経済なのでしょうか。


株主や投資家の利益・権益を保護する諸ガイドラインやコードが設定された一方で、研究開発資金や従業員の賃金、下請け業者の納品価格は抑えられました。「失われた30年」から脱却し、日本の国民が豊かになるには、現行制度の見直しが必要になっています。


ここで大事なことは、現在の国境のない独裁国家を巻き込んだサプライチェーンから、法の支配や労働者の人権を重視する国との間での「国境ある経済」への転換です。


…中南米諸国では歴史的に、外資と独裁政権が結びついた形で経済発展が図られてきましたが、これが国民を抑圧したことから反グローバリズムの「保守革命」が多くの国々で起こりました。結果として、それらの国々は外資の撤退により貧困化し、そこにつけ込んできたのが社会主義、つまり、かつてはソ連であり、現在は中国です。


そこにはグローバリズムvs社会主義という対立概念ができてしまい、これが中南米経済の健全な発展を阻害してきたようです。


これに対し、日本は世界でほぼ唯一、グローバリズムに対抗して「国民経済」を創り上げた実績のある国です。幕末の黒船が象徴するグローバリズムによる植民地化の危機に目覚めた国民や志士たちが維新を起こし、ナショナリズムをもって産業を自ら興し、独自の存在を世界の中で築き上げたことを忘れてはなりません。


私たち日本国民には、グローバリズムに飲み込まれることなく「国民経済」をもって国の将来を拓く模範を世界に対して示す力があるはずです。そのような歴史的な役割を果たす国へと旗を振っていくのが参政党の重要な役割だと思っております。

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