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  • 執筆者の写真松田学

争点不明瞭だった今回の総選挙を本物の「未来選択」へと結実させるために~岸田政権の歴史的使命を考える~

厳しいと言われながらも、自民は単独で安定多数を上回り、自公では絶対安定多数、大幅議席減とされながらも305から293へと12議席の減にとどまり、岸田政権は一応、有権者から信任を得た形になりました。他方で140が勝敗ラインとも言われていた立憲民主は、あの「ソーリ、ソーリ」絶叫の辻元氏も落選、全体で96議席へと13議席も減らし、共産との選挙協力が奏功しなかった一方で、与党批判票の受け皿となった維新は41議席へと4倍増。全体として自公と立民(+共産)が失った議席分が維新に移行したことになります。


では、今回、日本の有権者は何を選んだのか…。争点の見えにくい総選挙でした。与野党とも争点を創る力量に欠けていた…?今回も真の国民選択は先送りになったようです。


そうだからこそ、そして、岸田氏が掲げた「新しい資本主義」の中身が未だ不明確だったからこそ、ここから、岸田政権は、日本の政治史の中でいかなる位置づけの政権となることを目指すのかが、本格的に問われることになると思います。安倍政権時代に、安全保障を巡る議論では無意味な左翼は空洞化していましたが、今回の結果も、そのことを明確化したものといえるかもしれません。日本の政界が不毛な議論からようやく脱するか…。


では、維新の躍進は何を意味するのか…。党利党略が見え透いている立憲民主+共産の左翼連合が伸びて本当に体制選択選挙だったということになっては困るが、おごれる自民党にはあまり勝たせたくない、でも、選択肢となる政党がない、これが、今回の総選挙では有権者のマジョリティだったかもしれません。そんななかで、保守系にとっては、受け皿になるのは維新ぐらいか、確かに改革と言っている、何かやるかもしれない…。


しかし、この「改革」がどうもあやしい…ある意味、新自由主義は日本経済を停滞させてきた主因の一つでもあります。今回、公明に代わり第三党に躍進した維新とこそ、自民は連立を組んだほうがいいと言って良いのと言われれば、どうもそうはいかない。岸田自民は、新自由主義に対抗するものとして「新しい資本主義」を掲げています。


では、それが答えになるのか…。反・新自由主義は社民党ですら明言していた立場であり、リベラル色の強い岸田政権は、この中で保守とリベラル(左翼)との間にどのような一線を画すことができるのか、日本の真の「体制選択」が問われるのはこれからでしょう。


その意味で、日本の政界には本格的な政策論争が問われており、来年の参院選こそが、新しい政治勢力の台頭も含め、国民に選択肢が示される場になるのかもしれません。今回は、新自由主義の根幹にある株主資本主義の本質についても述べてみたいと思います。


●安倍→菅→岸田で安全保障の路線を定着させ、国家観の軸を定める

総選挙後、岸田政権はどうなっていくのか、岸田政権に望むべきことは何なのか…。安倍元総理のブレーンでもある文芸評論家の小川榮太郎氏は、「大きな意味での国家観の軸が定まることを期待している」としています。小川氏によると、


「これまで日本の政界は、9条絶対死守などを唱える無駄な左翼、無駄な意味ないものに膨大なエネルギーを割いてきた。本人だってやれっこないと考えている非武装中立のような不毛な議論から脱して、そうでないところに行きましょう。安倍政権が長期化し、その間に、こうした無意味な人たちが空洞化していった。安倍氏本人はもっと保守的なことをやりたかったが、安全保障以外は実際はリベラルだった。それを岸田氏は『日本リベラル』とは何かを明確化する、とはいえ、自民党は保守政党であり、どこまでリベラルなのかを決めて線を引く必要がある。それが岸田氏の役割。」


「岸田氏はハト派の宏池会とされるが、日本ではハト派は既に死語。核武装して現実に尖閣で軍事行動を起こしたり、武力をもって北朝鮮に拉致被害者を返せと迫ることまで主張する人など、日本の政界にはいない。安全保障をまともにやるなかでのハト派が、安倍総理だった。それが世界基準で言うハト派。岸田氏の役割は、安全保障で安倍氏が目指したところを明確化させること。そういう岸田氏の一方で、高市氏が右張りしており、ここがこれからの政策論争の主軸になるし、そうなることに意味がある。」


確かに、7年8か月にわたる長期政権のもとで自民党の立党目的でもある憲法改正ができなかったのも、平和安全法制に対して「戦争をする国になる」、なかには「徴兵制」などと騒動を起こし、その後は「もりかけさくら」で国会を停滞させたのも左翼マスコミ勢力。彼らが主導しようとしていることは、実際には国益にならず、不毛であり不可能なこと。


「マスコミ受けすることを言わずに、国民が利益を享受できることを岸田氏がやれば、安倍、菅、岸田で大きなブレがなかったことになる。そこがブレると、また後戻りしてしまう。安倍、菅、岸田と重ねてきて、これから党の軸はそちらになる。日本は理屈を論争してドラスティックに転換するのは苦手。何代かにわたる政権がコンセンサスを創ったかどうかが、大きなことになる。」


●安倍時代の構図が流動化することで日本の政界は新たな創造へと向かう…

他方で、今回の総選挙では基本政策は高市氏が主導し、岸田氏を超えて党の公約にすることで、選挙を高市色でやってしまった面があります。それも選挙後を縛りますが、政策では高市主導としても、それが実際に立法や予算措置に入ると、色々な主張が党内から出てくるでしょう。そのとき、政調会長が打ち出した公約をどこまで党として貫けるのか。


「岸田、高市、甘利、メディアを背景にした河野と周りの若手、そして安倍氏…主導権がないまま拮抗していく政権になる。多極化する。安倍以前に戻って、権力の集約状態が見えない状況になる。」…前述の小川氏の見方を以下、続けますと…、


「安倍時代は、一つの大きな、影響がどれぐらいの大きさかわからないぐらい大きな変化を起こした時代だった。憲法改正はあれだけの議席でもできなかったが、安倍時代に反日左翼は大騒ぎしても、政権は倒せなかった。彼らは、安全保障では国民の支持を得られなかった。そこに出てきたのが『もりかけさくら』だった。安倍政権の後半は、もりかけで生産的な議論はできなかった。保守派は安倍さん頼み、反対派は安倍さんなら全て反対。そうした大きさというものに、安倍政権は自分自身ががんじがらめだった。」


「これからは、それが終わって流動化する。安倍時代に出されたものが、どう実を結ぶかは、一度、縛りがなくなってみてから進んでいく。甘利グループが何をやるか、一方で高市氏は原理的な政策は出すが、どこまで党がついてくるかわからないし、岸田氏は誰の話に基づいて決断していくのかがわからない。このように主要なプレーヤーが読めない状況は、むしろ望ましい。麻生氏も安倍氏も甘利氏も高市氏も、河野氏の周囲の若手たちも、それぞれが一家言持ちながら、流動化している。次の時代を創る上で悪いことではない。」


ただ、このなかで甘利氏については少し気になることがあります。同氏が今回の総選挙で小選挙区では落選となり、幹事長職を辞するまでに至ったのも、すでに司法では決着がついている同氏の「政治とカネ」の問題をマスコミが蒸し返したことが大きいでしょう。同氏が現在の中国共産党の利益には明らかに反する経済安全保障を党で主導していることを考えれば、そこにも何らかの「超限戦」による世論工作が働いていないか…。


左翼マスコミ勢力が今後も執拗に日本の政治を停滞させようとするなかにあって、岸田政権が国益では決してブレない姿勢を堅持することが、やはり何よりも問われること。今回の総選挙で「体制選択」を許さなかった日本の民意が、これを支持していると思います。


●「新しい資本主義」が対峙する新自由主義とは「株主資本主義」…その本質とは

そのもとで、これから別の意味での体制選択にも絡む論点として本格的な論争となるべきものが、岸田氏が掲げる「新しい資本主義」の具体的な意味は何なのかについてです。これは明らかに、維新の「改革」や小泉構造改革、これを引き継ごうとした菅政権や自民党内「改革派」が依拠する新自由主義に対するアンチテーゼですが、その本質は「株主資本主義」。これは、企業経営の理念として、株主利益の追求を最優先とする考え方です。すなわち、企業では利益追求のための人員削減を肯定し、市場では規制緩和を唱道する立場。


ここでは株式会社とは、事業活動で獲得した利益を、その所有者である株主に分配することを目的とする組織に過ぎないことになります。従って、従業員への給与・賞与、取引先(下請企業、仕入先等)に支払う代金は、会計上のコストに過ぎず、これらを削減しても、株主に配当を出す原資である利益が上がればそれで良いという考え方といえます。


弱肉強食、株主総取りの考え方でもあり、「企業は社会の公器とし、三方よしの経営」という、かつての日本型の経営のあり方を否定するものでもあります。持ち主である株主が企業を監視するのに便利であるため、3ケ月毎に決算をし、日本の強さである企業の長期的成長よりも、短期的な損益を重視する。関心事は株価の変動であり、企業は投資対象。


ピケティによる株主資本主義への考察では、資産運用によって得られる富は、労働によって得られる富よりも成長が速いことが明らかにされました。


r(資本収益率)>g(経済成長率)


この式をご記憶の方も多いと思いますが、これで裕福な人はより裕福に、労働者は相対的に貧困になることが証明されました。


この考え方のもとで、ファンドが投資家に勧誘し、年20~30%の利回りを約束、PEファンドが会社を買収して、平均5年間保有し、徹底したコストカット等を実施、リストラ、資産売却、自己株取得、増配、新規研究開発費の抑制、設備投資の抑制、賃金の抑制、下請けへのコストダウン要求などがなされます。こうして利益を絞り出す。最初に「デューディリ」、そこで潤うのが弁護士と会計士であり、彼らも法外な報酬を得ています。


●日本をしゃぶりつくす株主資本主義こそがデフレと日本経済停滞の原因

海外の年金資金が入れたとすると、それは日本人の所得を犠牲にして、日本はまるで植民地の如く、汗水たらして海外の年金生活者を潤す存在になっている…。日本はおいしい買収の市場とされています。ある欧州のビジネススクールで教える対日本市場戦略は…、


「日本市場が本格衰退する前に、日本企業に自社株買いや高い配当を要求する。それを継続することが不可能になるまでしゃぶりつくし、最終的に株価が下がる前に高値で売り抜けることが最も効率が良い」…。株主資本主義とは、投資家が日本企業をしゃぶりつくして投資家を肥え太らすことを正当化するための「理屈」であるともいえます。


この株主資本主義にとって良い経営とは、従業員へ支払う給与・賞与、取引先(下請企業、仕入先等)に支払う代金は、会計上のコストに過ぎないので、コストダウンする、そのために、固定費となる正社員への給与は上昇を抑え、株主への配当原資を増やす。終身雇用制度をやめ、正規雇用を減らして非正規雇用を増やすことで、人件費を固定費から変動費にする。これでコスト調整を容易にし、株主への配当原資を増やす…。


加えて、株主への配当原資を増やすために…取引先に対しては安い外国製の部品や製品と相見積をとることで、取引先の適切な付加価値を犠牲にしても、買い叩く。国内の工場を閉鎖し、日本人従業員をリストラして固定費を削減し、賃金の安い外国に製造拠点を移転し、外国人を雇用して、コストダウンを行う。グローバル経営を推進し、経済安全保障を無視し、生殺与奪の権を外国に与えても、企業の利益を増やす。基礎研究など将来収益になることが確実でないものへの支出は無駄金だから止める。工場の老朽化には目をつぶり、設備投資は極力行わない。設備を更新すると減価償却費が増えるので、抑制させる…。


結局、生産性向上のための設備投資が抑制され、賃金が削減されて個人消費が停滞する。こうした要因で日本から富が吸い上げられていることこそが、デフレの真因だともいえます。


●成長戦略の「成長」とは株主が手にするおカネの成長だった…

確かに、「改革」を叫ぶ人たちが主張する客観的な無駄は改善する必要はあります。しかし、これは株主資本主義が導入される前から民間企業で行われてきたことです。株主総取りの考えは、雇用が不安定な非正規従業員を増やし、彼らは消費を控え、消費低迷をもたらすことになりました。収入が増えず結婚できない若者を増やし、結婚しても将来が見通せないため、子供をもうけることを諦め、少子化に拍車をかけていないか…。


コストダウンと、少子化による労働者不足を補うために、外国人労働者を呼び込み、実質的な移民政策を促進することになっていないか。日本の地方経済は、グローバル化で疲弊し、さながら、米国のラストベルトではないか。


「成長戦略」と言われますが、株主資本主義の言う「成長」とは、株主が総取りするおカネの成長のことではないか。「成長」という美辞麗句でオブラートに包んだ「会社の利益をみな寄こせ」という強欲投資家の本音を隠すものではないか…。


この株主資本主義で恩恵を受けている人々は…企業をしゃぶりつくしたい投資家、株主資本主義に忠実な経営を行い巨額の報酬を得る経営者、投資家から手数料がほしい金融機関、そして、日本の機微技術や軍民両用技術を有する企業や事業を中国などに売り飛ばし、一儲けを狙うM&A業者であり、千万円単位のデューデリジェンス費用を受け取る弁護士や会計士であり、彼らを顧客とする周回遅れの経済メディア…。中国にとっても、株主資本主義は日本の技術を盗めるメリットだということになります。


●日本型経営への回帰で「日本を取り戻す」ことこそが世界の新潮流

しかし、その本家本元の米国でも、株主資本主義の見直しへの動きが出ています。2019年8月には、米国の大手企業の経営者で構成されるNPO団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、株主資本主義からマルチステークホルダーへの転換にコミットする内容の声明を発出しました。そこでは「企業は、顧客への価値の提供、従業員の能力開発、取引先との公平で倫理的な関係の構築、地域社会への貢献を行い、全てのステークホルダー(利害関係者)に対するコミットメントを行う存在」とされました。


企業が説明責任を果たす相手は顧客、従業員、サプライヤー、コミュニティ、株主の5者であり、株主はその一つにすぎない。この株主資本主義から「ステークホルダー資本主義への転換」の宣言には、180社以上の最高経営責任者(CEO)たちが署名しました。あのダボス会議でも、同様の議論がなされていますが、よく考えてみると、これこそ、かつての日本型経営ではないでしょうか。世界的な潮流がここに来ているのに、日本だけが…。


日本は元々、株主資本主義ではなく、一億総中流でした。日本の経営は、「三方よし」(商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる)であり、会社は「社会の公器」と言われたものです。「脱・株主資本主義経営」に転換することで、株主への配当は減っても、本来、従業員や基礎研究、設備投資、下請け企業が得るべき付加価値を還元できることになる。日本の風土に合った考え方が三方よし。


今回の総選挙で自民党の政策パンフには、こう書かれました。「『分配』政策で『分厚い中間層』を再構築する。企業が長期的な目線に立ち、『株主』のみならず、『従業員』『消費者』『取引先』『社会』にも配慮した経営が出来るよう、環境整備を進めます。このため、コーポレート・ガバナンスや企業開示制度のあり方を検討します。『労働分配率の向上』に向けて、賃上げに積極的な企業への税制支援を行います。『四半期制度』を見直し、長期的な研究開発や人材投資を育成します。下請取引に対する監督体制を強化します。」


維新は一貫して「競争、競争」と唱えてきましたが、こう主張する「改革」政党は結局、株主利益を言っていたことにもなる。政権には徳がなければなりません。


競争は大事ですが、国民経済全体の成長を考えるのなら、利益の配分を見直すべきでしょう。国境なき経営から、国境のある経営への転換が必要。株主資本主義を見直し、経済安全保障を軸とした日本型の新しいステークホルダー資本主義にカジを切るときがきているのは確かです。加えて、経済安全保障を考えれば、国家もステークホルダーです。国内で高付加価値のものを創り、そうでないものを海外で、に切り替えるべきです。


●真の保守主義に裏付けられた「新しい資本主義」のバージョンアップ版を

さて、岸田総理はリベラルと言われますが、安倍政権時の外相として、外交安全保障については安倍路線を忠実に引き継ぐと言われていますし、リベラル色があるからこそ、安倍政権では実現できなかった、保守層が期待する政策もするすると実現させるかもしれないという期待もあります。「新しい資本主義」も、これを継承発展させる次なる保守勢力の台頭につながればよいのですが…。


競争だ、改革だ、規制緩和だ…それらを決して否定するものではありませんが、日本だけが何も考えずに、牢固として新自由主義をど真ん中に据え続ける国となっている可能性があり、その考え方自体がもう古くなっています。かつてのレーガン・サッチャー革命の時代からも、世界経済は大きく転換しています。やはり、維新は問題の本質には不勉強で時代遅れ…。現在において、日本が世界の潮流に乗り遅れているという意味は、日本が自らの本来の強さを捨てていることにあるのかもしれません。


しかし、新自由主義へのアンチテーゼが、闇雲に国家の経済への介入を強化する社会主義であってはなりません。これとの違いを「新しい資本主義」はどう出していくのか。


日本を知り、日本の歴史を学び、日本のアイデンティティを確立し、日本人の国民性に合った社会の仕組みを構築しよう、そこに成長の源泉を求めよう…これこそが本物の保守政党が掲げるべき経済政策であり、今回、参政党が総選挙には間に合わなかったのが残念です。もう一つの選択肢を有権者に示せたかもしれません。


考えてみれば、維新だけでなく、安倍政権も、ミクロの経済政策はグローバル株主資本主義の立場でしたし、それを継いだ菅政権は小泉構造改革に逆戻りしそうでした。その意味で、自民党が、「新しい資本主義」を掲げた岸田自民党になったことは、「日本を取り戻す」という意味で、安倍政権が成し遂げられなかった大きな前進でもあります。


今回、有権者からの信任を得た岸田政権が、少し、この路線をやってみる、その後に本物の「日本を取り戻す」政治勢力が国政進出をして、この路線をバージョンアップしていく。まだ本物の選択肢が出てきているとはいえなかった今回の総選挙も、そこにつなげる一つのステップだと位置付ければ、投票所に足を運んだ意味もあったといえるでしょう。


今回、参政党推薦の北神けいろう君が自民候補との接戦を制して議席を獲得しました。総選挙が終わったいま、いよいよ、参政党の参院選への挑戦が始まります。

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