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  • 執筆者の写真松田学

中東紛争で露呈した米国の没落と勃興するBRICs秩序~群雄割拠の国際社会で迫られる日本の真の自立~

現在、国会では今年度補正予算が審議中ですが、先週、衆議院を通過し、今週の参院での審議を経て月内にも成立する見込みです。本来なら、成立後ただちに衆院解散…だったのですが、とても解散どころではないまでに岸田内閣の支持率を急落させたのは、国民には単なる選挙対策にしかみえないほど筋の通らない減税方針の表明でした。政策のちぐはぐさは今回の補正予算の全体像にも現れています。それは8・9兆円にものぼる国債増発。


あれっ?増えた税収の還元と言っていたのでは?補正予算での13・2兆円の歳出増のうち税収増で賄われるのはたったの1,700億円。つまり、還元するおカネなど国庫にはなく、結局は国債の大幅増発なくしては補正予算も組めないことが示されました。そもそも税収は増えても当年度の支出や国債償還で民間に「還元」されてしまい、なくなっています。


財務省の私の一年先輩である高橋洋一氏は、本当は8兆円ぐらいは税収増が見込めるのに、財政の厳しさをアピールするためにそのことを隠し、わざと国債発行額を積んだ財務省の策略だと主張していますが、そこまで財務省は姑息ではないでしょう。現に、今年度に入って税収は前年度より減少しており、同氏の主張の根拠である、名目GDPの政府見通しが改定試算で4・4兆円増加×税収弾性値=補正予算に計上すべき税収、という計算自体も初歩的な間違いです。わざと言っているなら、影響力の強い人だけに、罪な話…。


あまり考えたくないことですが、もしセンセーショナルな発信でYoutubeの視聴数を稼ごうとしているなら、これこそ姑息でしょう。そもそも積極財政を唱えるネット著名人には「政府の債務は民間の資産」、「国債はおカネと同じ」などと、耳目に入りやすいウソを平気でつく論者が多く、要注意です。それらをウソでなくするためには、日銀保有国債を政府発行のデジタル円で償還し、これを民間で流通させる松田プランが不可欠なはず。


いずれにせよ、財政や通貨の仕組みの根本改革なくして、もはや経済と財政のつじつまの合う形での両立が不可能なまで行き詰まってしまったのが、日本の経済政策の姿です。


もう一つ、つじつまの合う落としどころが見えない直近の話題として挙げられるのが、イスラム組織ハマスによるガザ地区での人質解放をめぐるイスラエルの対応でしょう。人質の今般の一部解放は4日間の戦闘休止合意に伴う措置。ハマスが追加で人質を解放するたびに戦闘休止を延ばすとされていますが、ハマス壊滅と人質全員奪還というイスラエルとしての二つの目標の同時達成には、そもそも大きな矛盾があるのは明らかです。


戦闘休止はガザでのハマスの態勢立て直しに直結しますから、ネタニヤフの苦悩は深いはず。今回、苦悩しているのは米国もそうです。聖地奪還のためには何でもありのイスラエル。同国を支援するのは米国の長年の国是ですが、今回はそうもいかないようです。その背景あるのは、もはや超大国として世界秩序を安定させるパワーが米国にはないこと。今回の米国の苦悩は、群雄割拠に向かう今後の国際社会の苦悩にもなるでしょう。


そんな中で、日本にとって国家存立の上でつじまの合う国家路線は何かを考えれば、それは自衛核武装も含めた自立路線かもしれません。今や、財政も外交安全保障政策も、これまで当たり前のように営まれてきた考え方からの大転換が問われる局面に入っているように感じます。今回は、後者について考える素材として、中東危機とウクライナ戦争で露呈する米国の堕落について、先般、宇山卓栄氏と行った対談をご紹介したいと思います。


●地に堕ちた米国の信用…対イスラエルではどっちつかず

米国のハマス-イスラエル紛争に対するスタンスをみると、イスラエルを支援しながらも、他方で同国に自制を求めているという、どっちつかずのものに見えます。現に、米国は一連の中東危機の対応に揺れており、苦慮しているようです。ウクライナ戦争では戦争を煽りまくって、武器弾薬を送り、戦火を拡大させることに専心したのとは大違い。


米国のホンネはといえば、今、イスラエルの面倒まで見きれないというものでしょう。武器商人は紛争を歓迎しているかもしれません。ウクライナ戦争も終わりそうですから、彼らには新たなマーケットになります。しかし、政府当局者はそうもいきません。支援予算を通すのも一苦労です。


そんな中でブリンケン国務長官は11月8日、日本で開催されたG7外相会合後の記者会見でガザ地区での停戦に反対し、イスラエルのガザ侵攻を支持する姿勢を示しながらも、米国としてイスラエル軍によるガザ地区占領には反対であることを強調しました。同長官は11月5日、ガザの住民を「強制移動させてはならない」とも表明しました。矛盾しています。ガザの住民を移動させずして、どう戦うのか。侵攻した区域を占領せずして、どう戦うのか。言っていることが論理的に破綻しています。


さらに、米国はイスラエル首脳らに対し、ハマスとの紛争の人道的な一時停止を求めました。イスラエルからみると、「停戦を求めることは、イスラエルにハマスに降伏しろと言うのと同じだ」として、いったんは一蹴。ホワイトハウスは人道目的での戦闘の「一時停止」が必要と述べたまでで「停戦」を言っているのではないとしていますが、「一時停止」であれ「停戦」であれ、ハマス勢力を再結集させるだけの猶予を与えることになるのは同じです。だから、イスラエルは最初は拒否しました。結局、アメリカのご都合主義。


このように米国の信用が地に墜ちている状況を理解した上で、日本は独自の外交を考えねばなりません。これはすでに、米国のアフガン撤退から始まっていた現象ともいえます。


●核戦争も辞さないイスラエルの危険性

前述の宇山氏によると…「イスラエルには危険な自信過剰がある。強硬にガザ占領を事実上、進めている。流出したイスラエル諜報省『政策文書』では、『住民をガザからシナイに避難させる』とある。つまり、ガザ住民をシナイ半島ヘ追い出す。その上で、『エジプトはガザ住民が境界を通過することを認める国際法上の義務を負う』。つまり、エジプトにガザ住民受け容れの責任を負わせる。責任を負わぬならば、然るべき措置をとると…エジプトを敵に回して、まるでかつての中東戦争を再現するようなことを平気で言っている。イスラエルは、一般国際社会が考えるところとは遥かに異なる次元でモノを考えている。」


「11月5日、エリヤフ遺産相は、ハマスとの戦闘を巡り『核兵器使用が選択肢の一つだ』と発言。その背後には宗教的使命がある。彼らは人質解放やテロとの戦いといった大義名分を掲げてはいるが、神が与えた『約束の地カナン』を取り戻すことが使命。宗教的使命を果たすためならば何でもする。10月7日のハマスによる奇襲もモサドが知らなかったことはあり得ない。ガザ侵攻の口実になった。」


「イスラエルは核爆弾を落とすことも厭わない。アラブ連盟はイスラエル閣僚の発言について『イスラエルが核兵器を保有している証し』としており、それは『公然の秘密』。米国はイスラエルの事実上の核保有を黙認してきた。北朝鮮やイランの核開発に介入しながら、イスラエルは黙認。この米国のダブルスタンダードに国際的な批判が向けられている。」


●米国の複雑な国内事情…強力なユダヤロビーvs世論の反対とインフレ再燃の懸念

「イスラエルの強硬右派には、リベラルなバイデン民主党政権はついていけない。大統領選を控えて、米国内の世論にも配慮せねばならない。イスラエル支援一辺倒では、どのような世論の反発を食らうかわからない。」


「これはトランプ陣営も同じ。イスラエルの強硬右派と連携してきたのがトランプ大統領だった。いずれにしても、米国はこの問題に頭を悩ませている。トランプ氏はイスラエル支持と言いながらも、『ネタニヤフに和平を仲介したが、彼は前向きではなかったことに失望した』と発言。和平ということでバランスをとり、有権者の共感獲得に成功している。」


「停戦させたいのが米国のホンネだが、イスラエル国家の生みの親として、見捨てる訳にもいかない。米国在住のユダヤ人は800万人程度、イスラエルの人口に匹敵するが、全国民の約2.5%に過ぎない。しかし、金融をはじめとする各界の枢要な地位を占める。」


「『アメリカ・イスラエル公共問題委員会』は、米国で最も強大なロビイスト団体であり、強力にイスラエルを支援。駐日『提督』とも言われるエマニュエル駐日米大使も、この団体によって育てられた人物である。彼の父はイスラエルのエルサレム出身のユダヤ人小児科医で、若い頃には、イスラエル過激派武装組織『イルグン』のメンバーであった。」


「だが、シカゴ大のミアシャイマー教授は、米国の中東政策の展開の上でユダヤのロビイスト団体が重荷となっているとしている。また、米国では、ユダヤ問題はタブーでありながらも、ユダヤ人エスタブリッシュメントに対する反感が強い。今回の中東危機で、ユダヤ人に対する世論の反発も少なからず高まっている。」


「しかし、米国が強硬なイスラエルを支援するのが難しい理由は他にもある。中東紛争が激化することになれば、米国はイランに対し制裁を掛けねばならなくなる。イラン産原油の輸入国にも圧力を掛けることになろう。そうでなくとも、イランが米国の友好国に原油輸出を制限することになる。その事態は、イランによるホルムズ海峡封鎖を懸念させるもの。そこで米国としてサウジアラビアの協力をどこまで得られるかも難しい。」


「そうなると、原油価格が上昇する。米国は今や中東に石油を依存してないが、原油価格はグローバルに決定される。これまで、米国は極端なインフレにハイペースな金利引き上げで対応してきた。高金利で家計に重い負担を背負わせ、米国の消費者物価指数は2022年ピーク時の9%越えから現在、3%後半でようやく落ち着いている。中東情勢悪化で再度、インフレが高進すれば、バイデンは来年、まともに選挙にならない。米国はこの問題にも頭を悩ませ、揺れている。」


●BRICs秩序の台頭と、アテにならないクァッド(日米豪印戦略対話)

「米国の影響力の低下が見透かされる中、世界秩序の再編が進んでいる。8月のBRICs首脳会議では、サウジアラビアやイランなど六か国が新たに加盟した。いずれ40か国体制に。BRICsが欧米への対抗軸として浮上し、これをロシアと中国が主導している。」


「先のG7広島サミットでは『グローバルサウス』という言葉が頻繁に使われたが、グローバルサウスとは、そもそも南側の発展途上国から中国とロシアを外す言い方である。中国とロシアはグローバルサウスを取り込むために、拡大BRICsで対抗している。」


「この拡大BRICsを貧乏クラブの寄せ集めとする向きがあるが、軽視すべきではない。ウクライナ戦争や中東紛争が起こっている現在、これまでのBRICsとは異なる。BRICs諸国は旧植民地国がほとんどだ。ウクライナを支援しろ、イスラエルを支援しろという、欧米からの圧力を激しく嫌う。その反発で今回の拡大BRICsになった。」


「価値観や経済力、人口規模、政治体制も異なるが、BRICsの結束はひとえに欧米への反発が原動力になっている。これは意外と強い。ロシアはもう二度と欧米とは協調しないと言っている。そのロシアがサウジアラビアやイランと組んで、エネルギー産出国の結束を図る。特に、ロシアがイランを動かし、拡大BRICsに加わらせたことは大きい。」


「エネルギーのサプライチェーンが再編されることになると大変なことになる。その音頭をロシアがとっている。ますますロシアの世界に対するエネルギーのプレゼンスが大きくなっている。世界戦略にロシアが手をかけている。また、中国が仲介してサウジとイランを関係改善させていると報道されている。ここでのロシアの役割も大きかったはず。来年はBRICsの議長国がロシアだ。拡大BRICsをテコに、大きく仕掛けるだろう。」


「一方で、クアッドこそハリボテ。クアッドがありながら、英米はオーカスを締結。これはオーストラリアの軍事力強化(原子力潜水艦の配備など)を英米が支援するための枠組みだが、中国に対抗する前線の日本に対し、このAUKUSを前方戦線に対する後方の備えとして捉えれば、前方戦線を構成するのは、日本、台湾になる。」


「彼らは、お前たちが先ず中国と戦えと考えている。白人は高見の見物。米国が日本を一心同体の同盟国として見ているか疑問であるし、その力もなくなってくる。いわんや、インドも巻き込んだクアッドなどがまともに機能するとは考えるべきではない。インドはむしろBRICsに軸足。拡大BRICsなどで中露が接近すれば、一番困るのが日本だ。」


●日本が採るべき路線は…対欧米従属をやめ、独自の安全保障を

「中東紛争は長期化する可能性がある。イスラエルも簡単にはガザを制圧できない。米国のパワーや信用が地に墜ちている状況を踏まえた上で、日本は自衛のための然るべき手を打つべきだ。そこには自衛のための核武装も含まれるのではないか。『正義』を掲げる言論を信じて欧米に追従しても、欧米が我々を守ってくれるということはない。」


「我々日本は、中東紛争でも、ウクライナ戦争でも、どちらにも肩入れするのではなく、中立なる第三者の立場で欧米追従路線から脱却しながら、日本の国益を第一に考えた言説や外交を独自に展開すべきだ。」


「米国の財政に余裕がある訳ではない。対外支援の予算は縮減されざるを得ない。1823年以降、米国が歴史的な前提としてきたモンロー主義に回帰せざるを得ない。大統領が誰になろうとそうだ。米国がマンパワーや資源をウクライナのみならず、中東にも向けると、アジアにおける力の空白が生じ、中国がますます増長し、その冒険主義を誘発する可能性。米国のアジアでのプレゼンスは低下し続ける。日本の孤立が深まっていくことは必然。」


「中国とロシアの連携が今後も強化されていくことになれば、それが安全保障上の脅威。インドなどはそれを見越して、BRICsに既に軸足を移している。日本のメディアは、インドが全方位外交などというが、実際は違う。このような外交上の再編成についていけず、ジリ貧路線に自ら嵌っているのが日本だ。」


「今からでも遅くない。中ロの連携に楔を打ち込むべきだ。対中国でもロシアを利用することを考えるべきだ。日本の『自衛核武装』の議論も避けることができなくなっている。」


…最近結成された日本保守党が「親米保守」だとすれば、参政党は決して反米保守などではなく、むしろ「自立保守」です。これはウクライナ戦争をめぐっても、前者が親ウクライナ、プーチンけしからんの「正義感情派」だとすれば、参政党は決して親ロでもなく、いずれにも与しない「リアリズム国益派」でした。


もはや民主主義や市場経済など何らかの「正義」を掲げつつ特定の大国が国際秩序の安定を主導する時代は終焉し、これから訪れるのは、世界中が自国の国益を最優先して「群雄割拠」する時代でしょう。今回の中東紛争は、このことを決定づけるものだと思います。


その中で日本のキーワードになるのが、自立とリアリズムと国益ですが、その上に立って考えるべきことがもう一つあります。それは、日本のリードにより、群雄割拠する国々が共存し合う「大調和」を生み出すこと。戦後、「根無し草」になった日本にはいま、自ら独自の軸足を再構築し、世界に新たな価値観を打ち出すべき局面が訪れていると思います。

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