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  • 執筆者の写真松田学

中国の野望と世界の「新常態」~経済活動から日本人の人生観にまで迫られる新思考~

東京都で新規感染者が200人を超え、過去最高を連日更新…。疫学的にはこれで多くの国民が怯える必要はないとしても、未だに私たちの精神や経済社会を萎縮させ続ける「武漢ウィルス」。ベストセラーの「疫病2020」の著者、門田隆将氏との対談で感じたのは、中国共産党が支配する中国という国家そのものを国際社会の管理下に置かないと人類社会が危ないのではないか…。新型コロナで中国は何を隠そうとしたのかを見事に暴いた書です。


その中国が信じられない挙に出たのが香港国家安全維持法。香港だけでなく国際社会全体に言論の自由への挑戦状を突き付けています。中国はもはや領土領海だけでなく、世界秩序そのものを中国秩序に変更する意思を明確に示し始めました。新型コロナを契機に、歴史は明らかに局面転換。私たちはこれまでとは異なる世界に入りつつあるようです。


●中国共産党がコロナで隠蔽しようとしたもの…もはや国際管理下に置くしかない?

この門田氏の新著では、日本の官僚システムの病理もが一刀両断されていますが、私の言葉が実名入りで2か所、引用されています。p37では「霞が関は退官後の生活保障共同体…云々」、p243では「東京五輪の開催予定国として危機管理を間違えた…云々」。膨大な取材でコロナで起こった事態をこれだけ生々しく抉り出した本はなかなかないでしょう。


「みんな、中国が何を隠蔽しようとしたのかがわかっていない。武漢肺炎の存在自体を隠蔽したのではない。真の発生源を隠している。発生源は別の場所だと思い込ませた。それが海鮮卸市場。証拠がない。コウモリはそこでは売られていない。」


「武漢病毒研究所の管理がいかに杜撰かを、本で書いた。コウモリを素手で触り、マスクもせず、コウモリのおしっこを浴びて二週間自主隔離…。2017年にすっぱ抜かれている。18年1月に米国科学者が訪れたときの報告の公電をワシントンポストがすっぱ抜いた。恐ろしいほど安全への配慮がない…と。ウィルスがここから出ているとの記事は数時間で消された。人から人への感染は起こっていない、武漢研究所から出ていない、そう偽装するための工作が1月の最初の3日間に行われたことだった。」


「しかも、もともとコウモリから人間にはうつらないのに、研究所では、うつるようにしていた。ウィルスの突起を人間の受容体に感染するよう、マウスで実験していた。研究のために中国の学者はやってしまう。しかし、これは危険なこと、こんな実験はしてはならないと、ネイチャー誌に掲載されていた。もし漏れ出したら、跡を追えなくなると警鐘を鳴らしたのが2015年だった。これら一連のことの末に、今回の新型コロナ問題がある。病毒研究所から出たとの疑惑が出ることを防ごうとしたことで、多数の犠牲者が出た。」


危険な実験動物を売って巨利を得ようとした研究者もいたようです。管理もモラルも滅茶苦茶な中国は、そういう実験をやっていい国ではない。生物兵器かどうかではなく、中国とはそもそも、そういうことが起こる国だと考えたほうがいいでしょう。


●使命感のかけらもないのが日本の官僚…本当なのか?

門田氏は続けます。「霞が関官僚は国民の命のことをなんにも考えていない。製薬業界は守るが…。そうした官僚の実態を書いた。その締めの言葉が松田さんの言葉。」


「面倒な仕事はまず、したくない、しかも今回は相手が中国、中国との間で困ることはしたくない。『いえ、コロナですから、コロナは風邪ですから』…1月はそうだった。」…


確かに、コロナはただの風邪のウィルスですが、この厚労官僚の言い分は、少なくとも、私の友人である臨床名医のA氏が「日本ではPCRで陽性反応しているのは、ほとんどが未解明の亜種コロナ」と言っているような、現場での根拠に基づく見方とは全く異質のものでしょう。(ちなみにA氏は、最近の東京都での「新規感染」の99%が、この亜種による擬陽性と断定しています。)当時の政府にとって大事なのは、現地の情報をとることでした。


「すでにSNSには武漢の悲惨な光景が山のように出ていた。官僚も見ていたはず。国立感染症研究所の情報源はWHOだった。その情報源はもちろん、中国…。」


「日本は常に現場力で戦ってきた国。作戦部が作った作戦がいかに酷かったか。自分たちは選ばれた人間だと思い込み、図上演習で駒だけ回している官僚には、現場の実情が見えていない。これは自分たちの使命だからどうするという発想も能力もない。ただ、マニュアルの処理能力は高いので、国民が選んだ政治家が指令を出すしかない…。」


ただ、私の経験では、官僚が全く使命感がないかといえば、決してそうではありません。かつて阪神淡路大震災のときなど、私の上司先輩が皆さん、役人にできることの無力さに結構、本気で打ちひしがれていたことを記憶しています。これが組織になると別になります。今回はコロナ危機に対する厚労省医系技官たちの意味不明な行動が指摘されています。


現場は本当にどこも頑張っています。特に、現場のノンキャリアを大切にするのが大蔵省の伝統であり、森友で自殺者が出たのは考えられないこと。文書改ざんは本当に財務省の判断だけでなされたのか…?財務省関係者が口をつぐんでいる理由があるのでしょう。


官僚の行動を規定しているのは政権の体質や既存の仕組み。今回は厚労技官が危機管理の壁になりましたが、中国を非難するだけでなく、日本としても国のガバナンスの仕組みを再構築する必要がありそうです。本来、その役割を担う見識が政治に問われるはずですが、現政権は…?表面的な官邸優位へと暴走する政権に警鐘を鳴らしたのが河合前法相夫妻の無理筋での逮捕、起訴?これが検察による世直しだとすれば、何とも情けない話です。


●追い詰められた習近平と香港国家安全維持法

さて、世界を驚かせた香港国家安全維持法で、私たちも中国を批判すれば、香港に行ったときに逮捕されて中国で裁判に…?そう読めるのが同法38条です。宮崎正弘氏の見方では、同法は習近平がそこまで追い詰められたことを示すもの。目先の国内権力闘争でもある。中国は次はどこかと戦争…?油断ならない。確かに、中国は何重もの窮境にあります。


この法律で米国による制裁発動は決定的になりましたが、世界の金融都市の自由度4位の香港が6位に転落し、東京が上に…。金融で何が最も大事かといえば、情報の自由度。これが香港で潰されたことが大きいでしょう。さぁ、東京にいらっしゃい…。


中国の外貨保有は3.1兆ドルとされますが、人民元はドルとの取引がほとんどなく、みな香港を通じ、3つの発券銀行が発行する香港ドルを米ドルで香港当局に預託。その香港ドルと人民元が自由に交換できるのであり、香港でドルに両替できるからこそ世界との国際金融取引ができるのが中国です。なのに、中国はなんと愚かなことを…。


中国にはあのバッタの大軍も飛んできそうですが、その前に大洪水で、2000万人が避難。これで農地がやられると、2年ぐらい使えないようです。宮崎氏は続けます…


「去年までは一帯一路を掲げる習近平は元気いっぱいだったのが、いまは完全に息切れ、プロジェクトは止まり、お金も続かない。対米黒字が激減して、今年は黒字ゼロに。外貨収入になるのが外国からの直接投資だが、あのトヨタもお金を持って帰ってこれないので、中国で再投資しているだけ。外貨が入ってこない。米国の制裁が続き、中国を中心とするサプライチェーンに相当な変化が起こっている。特に半導体。TSMCも鴻海も、中国離れに。台湾が米国移転に迅速な決断をした。英国もファーウェイを除外へ。」


「中国で起きているのは、まさに権力闘争。経済政策は李克強がやるべきなのに、全部習近平がとった。李が主導権をとると、すべて潰しにかかる。習の経済政策の失敗に長老たちが快く思っていない。去年の北戴河会議を乗り切ったあと、いまの習の権力基盤は去年からの香港情勢。追い込まれた状況の打開を、香港に求めている。」


「習はいま、3つの危機に直面している、一つは、目前のコロナ対策。死んでもコロナとは書くなとの情報統制。北京での二次感染では、厳重な取締りや封鎖。死者4,000人台との公表数字はゼロひとつ違うだろう。もう一つは、貿易の激減。さらにもう一つは、世界中からの敵視。ニコニコしていたアフリカとて借金の免除をIMFに陳情、80%削減とのIMFの救済案に中国が乗らない構図。アフリカへの中国の直接投資も中断状態。これらは習の責任、として李克強派が立ち上がるか。香港の次は戦争…?台湾、フィリピン…?」


●アフターコロナは「いかに生きるか」から「いかに死ぬか」の時代に

コロナ以後の変化について新著「What Next」を出された宮崎正弘氏の中国や世界への洞察は、コロナがもたらした人々の人生観の変化にまで及びました。日本は「いかに生きるか」から「いかに死ぬか」の時代に…。「『コロナ、心、孤独』の3点セットで人生観が変わった人が多い。連帯感や家族が大事。巣ごもりが続いていると、人間の孤独感や絶望感が宗教観にも影響。日本は『多死社会』に入りつつある。これからの基幹産業は、介護士から看取り士になっていく。輪廻転生を信じないと絶望になる。」


団塊の世代が後期高齢者世代に入れば、「超高齢化」社会の次に日本を訪れるのが、たくさんの人々が亡くなる「多死社会」であるのは事実です。すでに昨年の人口動態統計の推計値で、年間の死亡者数は137.6万人。出生者数86.4万人を51.2万人も上回っています。看取り士は全国ですでに約1,000人、看取りを支えるボランティアは約1万人。


私も「日本看取り士会」会長の柴田久美子さんと組み、看取りの際の幸福感や感謝の気持ちを価値化する「看取りコイン」の開発で、この活動の普及のお役に立つことを目指しているところです。コロナの影響で、病院ではない自宅での看取りも増えているそうです。


さらに宮崎氏はこう述べています。「意識がないというのは死んでいること。それを生かしているのは間違いだということを誰かが言わないと。そこも見直すべきとき。」


確かに、これまでの仕組みが果たして私たちに幸福をもたらしてきたのか、コロナでぶち当たった色々な困難をプラス思考で捉え、新しい生き方の契機にしたいものです。ただ、その前に、世界は大波乱、経済も今までの危機とは顔が異なります。ここで必要なパラダイムチェンジに求められているのは、いままでなかった政治と国民意識かもしれません。


●世界はこうして中国秩序へと塗り替えられ始めた

コロナで本格化した国際社会での大変化は、これまで領土拡張主義を示してきた中国が、いまや、日米欧が主導してきた世界の秩序そのものを、自分たちの都合の良いものへと変えていくという明確な意思を示し始めたことでしょう。松田政策研究所チャンネルで鼎談をした有村治子・参議院議員が先日、「調べてみて分かってきた」として国会で質疑をしました。やや遅きに失した面はありますが、これが、私がかねてから問題提起してきた中国の謀略論に日本の政治がようやく正面から向き合う契機となったことを期待しています。


巨大な市場と経済を武器に各国への支配力を着々と強める中国は、新型コロナを奇貨としてあらゆる手段で世界制覇を目指しています。まさにSilent Invasion「目に見えぬ侵略」。豪州が直面してきた事態は対岸の火事ではありません。もはや日本は中国と従来の関係を続けるわけにはいかなくなった。このことに日本の政治はどう向き合っていくのか・・・。


もはや安全保障の概念は変わり、軍事力を使わない「超限戦」の時代です。相手に依存すればするほど、コントロールを握られるという本質的な力学は、恋愛だけでなく、国際社会もそうです。サプライチェーンの依存など、コストだけを基準に考えていいのか…。


国連の15の国際機関では、どの国もやっと一つの機関のトップをとっており、日本はゼロ、中国だけが4つもとっています。ここで重要なのは、中国が国家としての意図を実現する戦略的なトップの取り方をしていることです。人事は政治そのもの。これら以外にも、たった1.51%しか拠出していないWHOが新型コロナでなぜ、中国の代弁者になったのか…。


中国がトップの国連の4機関とは、ICAO(国際民間航空機関)、ITU(国際電気通信連合)、FAO(国連食糧農業機関)、UNIDO(国連工業開発機関)。うちITUは世界のサイバーセキュリティの技術指導をする機関です。最もサイバー攻撃をする国が・・・。しかも、5Gの標準規格を決定する機関。中国がここに君臨した2015年は、次は5Gだとここが打ち出した年。5Gのメインプレーヤーはファーウェイ。すべてが中国のトップのデスクを通る。IoTにマルウェアを入れられれば、世界の全てが握られてしまう…。


UNIDOは途上国などの産業開発や工業分野での国際協力機関で、米国、フランス等はすでに脱退しており、まさに一帯一路を中国主導で国際社会でやっていこうということ。


国連は一国一票主義ですから、カネをアフリカなどの途上国に撒く、アフリカは票を買う最高においしい国々。WHOでテドロスでやったようなことが・・・。


●中国がもたらしたのは、これまでの常識が通用しない世界

大学や研究機関などでも、留学生だけでなく、豪州では大学そのものが中国の考え方で運営されるように…。「魂に工作する」。中国に反することをすると怖いぞ…と。西側の大学すら自分たちの色で染めていく。地球規模で自分たちのやり方に…、中国は躊躇しなくなりました。民主主義のシステムそれ自体をも利用して、影響力を拡大しています。


有名なのは「千人計画」。改革開放以降、自力で日米欧の技術水準に到達できないことを悟った中国は、ひたすら海外からの技術盗用に奔り、2008年頃からは世界中のトップ頭脳を中国に集め、世界の技術の覇者を目指しています。月540~550万円の報酬+1,500万円の生活費を家族に支給し、配偶者の仕事の面倒、子女の教育の面倒も。研究者一人につき1億円のオペレーション、日本人も第一人者の研究者が…。参画していることを口封じ…。


これで国の根幹を揺るがす技術が中国に渡っていることが米国では大きな問題になり、千人計画参加禁止やビザの厳格化の措置が講じられています。残念ながら日本の文科省は、何も把握していなかったようです。有村議員の質疑を受けたのか、新聞報道では、日本政府もようやく実態把握に乗り出すそうですが…。


私たちがまだ意識していない中国の動きに対し、米国など国際社会は動き出しており、経済界を始め日本国民がそのことを知らないわけにはいかなくなっています。トヨタ自動車が中国と共同開発している技術も、軍事転用のリスクがあるとの指摘があります。もし米国が、これをもってトヨタを米国市場から締め出すことになれば…。利益のことを考えざるを得ない民間企業は国の安全保障まで視野に入らないとされてきましたが、中国の巨大市場がちらつかせる目先の利益を求めることが、実は、もっと大きな利益の逸失につながる…これも「新常態」なのだということに官民挙げて取り組むべき時代になりました。


かつては軍事技術の民への転用が経済を成長させたこともあるのが「軍民一体」。それがいまや、民の活動がいつどのように軍事転用されるか見えない時代になりました。


もはや、これまでの常識が通用しない世界へと、私たちはあらゆる面で否応なく突入しようとしているようです。松田政策研究所では、リアリズムの視点から、このことについてもさらに発信を強化してまいります。

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