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  • 執筆者の写真松田学

世界は「学級崩壊」、日本はグローバル勢力に依存しない国民経済主導の戦略を~脱炭素原理主義も時代遅れ~

このところ日経平均はバブル期超えに至るなど株価は好調ですが、他方で、経済が良くなったという生活実感は殆どの国民にはありません。実質GDPの伸びは昨年10-12月期はわずかなプラス改定でしたが、7-9月期はマイナス成長で、今年1-3月期もマイナスを見込む機関が多く、一部に「経済は調整局面入り」との見方も…。実質賃金も前年比マイナスを続けており、日本経済では株価と実体経済との乖離が大きくなっているようです。


先週の春闘の結果は予想以上の賃上げとはいえ、これが岸田総理の言う「好循環」に結びつくかどうかは、持続的な賃上げの前提である持続的な生産性の上昇が実現するかどうか次第。今週は18、19日に日銀の金融政策決定会合が開かれ、今回の春闘の情勢を受けて、マイナス金利の解除、YCC(イールドカーブ・コントロール:長短金利の差を拡大することで銀行の利ザヤを確保し、信用創造の拡大を促す形での金融緩和促進策)の撤廃などが予想されていますが、これを緩和政策からの転換と捉えるのは間違いでしょう。


そもそもこれらは、2013年4月からの金融緩和がなかなか奏功しないことに業を煮やした当局が、これでもかと打ち出した緊急対応的な政策でした。今回は、元々これらがなかった黒田前日銀総裁以来の国債購入を軸とする「異次元緩和」策に戻るだけのこと。


マイナス金利自体が異常でしたし、YCCの撤廃も、米長期金利の上昇で国内の長期金利に上昇圧力が強まった昨年は、YCCでの上限金利の範囲内に市中金利を抑え込むために日銀の国債購入が膨らみ、通年での国債購入額が113兆9380億円と、過去最高だった16年(119兆2416億円)に次ぐ規模になった事態を是正するものといえます。今後も金利高騰の恐れがあれば、指値での限界なき国債大量購入は続けられるはずです。


今回は過剰な政策を是正するだけで、緩和政策自体は維持。国民の多くが経済の温まりを実感していないなら、金融緩和が目指してきた、需要が牽引する形での「インフレ期待」が定着したとは言えないはず。余計な「規律」重視政策は経済回復の芽を潰しかねません。


35年ぶりの株価水準と言っても、今の株価は、売買の7割を占める外国人投資家に左右されており、国民経済とは無関係に市場が動く構造が長年にわたり続いています。特に今世紀に入ってから日本経済で顕著なのは、海外の成長と結びついて伸びるグローバル部門と、内需型、地方、中小零細などの停滞するドメスティック部門との二極分化です。日本経済が二つに分断されてきたと言ってよいかもしれません。


今回の株価上昇局面でも、世界的な中国経済デカップリングの中で産油国マネーなどが投資先を中国から日本に振り向けているという背景があります。日本企業の実力が買われたと言っても、円安の影響が大きく、特に輸出関連は円換算で見かけの収益は膨らみます。この円安も米国の高金利が原因。米国の株価の上昇傾向で投資家が「リスク・オン」となったことも日本の株価に連れ高をもたらしていますが、その米株価も米主導のAIブームが牽引しており、日本の株価上昇もその関連企業の株価が牽引役。日本発ではありません。


実は、この35年間の期間においても、日本は世界最大の対外純資産残高を続けてきた国です。日本にマネーがないわけではありません。問題は、それがむしろ海外を豊かにする方に回ってきたこと。これを国内に力強く回し、内需主導の日本発の成長パターンを取り戻すことが日本経済の一丁目一番地の課題です。インバウンドで地方経済を中国人に依存する姿も、世界一の債権国の姿として決して健全とはいえないでしょう。


バブル期の日本の株価をけん引したのはNTTなどの内需関連株でした。当時は、世界の株式時価総額上位に日本の金融機関が名を連ねていた時代。同じ「最高値」でも、今回はその内容が当時とは全く異なります。日経平均がようやく35年前の水準を取り戻し、日本は新たなスタートラインに立ったかのようにみえますが、この間、国境をなくして各国の独自性をマネーで壊していくグローバリズムに富を奪われてきたのが、失われた35年の日本の姿でした。今の株価もグローバル勢力によって押し上げられたもの。日本がその支配下に入っていることを象徴しており、厳しいスタートラインです。


そのグローバリズムも、どうも最近、変調をきたし始めているようです。目を経済から世界秩序へと転じれば、いわば生徒たちが米国という先生の言うことを聞かなくなった「学級崩壊」状態が現在の世界…そう喝破する藤和彦氏のこのたとえは、実にわかりやすい。


日本は名誉白人として褒められたい、先生の言うことを忠実にきく6人の優等生の中の模範生でいたいでは、もう通りません。新興国の台頭で中ロという「不良」?を中心に出来上がりつつあるBRICs秩序が、世界をコントロール不能状態へと導いています。


さらに、世界屈指の産油国となった米国のグローバリズムが中東から手を引き、この地域がカオスになれば、中東に原油の殆どを依存する日本は、堺屋太一氏の「油断」を上回る深刻な事態に…。いま米国という国家を使って世界を統治しようとしてきたグローバリズム勢力が衰退しようとするとき、新しい国際秩序に日本はいかに向き合い、総合安全保障を組み立てるか、この面でも、日本を取り巻く事態はかなり緊迫しています。


今回は、松田政策研究所CHでこのことを「大油断」として警鐘を鳴らしてくれた経済産業研究所の藤和彦氏のご発言をご紹介いたします。


世界秩序は米国のパワー劣化で「学級崩壊」状態に

藤氏が最近出版したのが、堺屋太一の「油断」を意識した「大油断」という本です。石油が来なくなる「油断」のリスクは50年前と比べても高まっているようです。現在の日本では石油安定供給の意識がものすごく低く、原油や天然ガスがCOPによってオワコンにされてしまっている事態こそが「大油断」だというのは、その通りかもしれません。


その藤氏によると…「国際秩序が大きく変動しており、現状は『学級崩壊』の状態。米国という国が存在するために国際情勢が悪くなっているとも言われる。これまでは、米国という先生がいて、6人の優等生がクラスを仕切っていたのが、この7人(G7)の言うことを生徒たちはきかなくなった。中ロという不良がいて、サイレントマジョリティーが、俺たちは勝手なことをしていいのではないかと。その中でBRICs秩序ができた。」


「これはグローバルサウスを代表する国々であり、冷戦後30年間、先進国からのアウトソーシングで生産能力を持ってしまった。モノを創る力では、グローバルサウスが強い。経済制裁も、その力を借りないとロシアを制裁できない。これまで先進国が働きかける客体だったのが、発言権を持ってしまった。それが学級崩壊の一番の原因。」


「グローバルサウスが中ロに接近している。かつては7人が怖かったが…。最初にそれをやったのがインドやトルコであり、米国の神通力はすっかり低下した。」


「世界経済も混乱。中国経済は、リーマン以降の金融緩和と、コロナ以降のフリーマネーがはびこった中で、ロシアショックによる金利引上げでバブル崩壊に。米欧の金融引き締めの効果はこれから時間差で出る。今後、高金利への借り換えの時にドカンと出るだろう。中国は日本のバブル崩壊のときと同様、2022年に総量規制で一気にバブルが崩壊した。」


中国も米国も壊れている

「米国も国内が崩れている。外交問題評議会のハース元議長が、去年の辞任のインタビューで、米国が世界最大の安全保障の脅威だと述べた。大統領による分断。リベラルと保守、高学歴と高卒の人との分断など、いろんな面で分断。中絶問題をめぐっても。」


「軍隊も弱体化。ウクライナでも中東でも、米国人の命のコストが高く、腰が引けている。ウには武器しか出さないし、中東には空母を出したが、2隻目はすぐに帰ってきた。フーシ派に三人兵隊が殺されたらいきなり報復攻撃している。果たして米軍が日本を守ってくれるか。徴兵制をやめて志願制にしてから、米軍はリクルートに困っている。黒人とヒスパニックのマイノリティの貧しい人たちはジャンクフードで肥満化し、軍務に適する人が減少。兵士の自殺者も多く、一般人の4倍以上だ。」


「中国は改革開放に逆行してソ連のようになっている。1920年代のレーニンのNEPのようだ。まずは経済を自由化して、困ったらもとに戻す。クリントン政権時代以降の対中国政策は大失敗に終わった。」


米国が手を引く中東は大混乱の時代に…次なるアラブの春も

「米国は長年、中東を原油供給源として重視してきたが、現在、米国は1日2,000万バーレルの原油の需要、国内生産力は1,300万、輸入は600万、輸入先も今は殆ど、カナダ、ブラジル、メキシコだ。中東側では、反米感情が高まっている。5万人の米国中央軍が中東に展開していても、米国と同じぐらいロシアが頼りになるというのが、中東での世論調査の結果であり、これは相当、米国が嫌われている証左だ。」


「20年のアブラハム合意でイスラエルとUAE、バーレーンが国交を樹立。当時のトランプ大統領は米国ファーストなので、中東から手を引くとして、米国抜きでの中東秩序を構築すべく、この合意に持ち込んだ。他方で中国が仲介し、サウジとイランが手打ち。最後はサウジとイスラエルが手打ちを、と来たが、それだとパレスチナは孤立してしまう。そこで乾坤一擲、イスラエルをハマスが攻撃し、それは成功した。元の状態に戻った。」


「だから、既に、ハマスのバックにいるとされるイランは戦争目的を達しており、むしろ、フーシ派に過激な行動をとってほしくない。今回、サウジとイスラエルの国交正常化が断念されたので、これ以上、焦る理由がない。イランも持て余し気味。」


「米国抜きの中東では中東秩序は収まらないが、米国もコミットしたくない。だから、これから最も、中東情勢がおかしくなる。中東安定化のエージェントとしてイスラエルというのが米国の基本政策だった。それがもう、中東の原油は要らなくなった。」


「いま中東で経済力が大きいサウジやUAEは、パレスチナ問題に関心がない。しかし、フーシ派がここにきてパレスチナが大事だと言い始めたので、アラブ地域でパレスチナ問題の大義が広がってきた。かつてはパレスチナ問題はエジプトとシリアの問題だったが、これをアラブ地域全体の問題にフーシ派がしてしまった。」


「これにきちんと対応していない中東各国に対する民衆の怒りが爆発し、政府に対する反発の声が中東地域で広がりかねない。アラブの春のような現象が起きるかもしれない。」


「トランプが大統領になると、米国にとってますます中東は関係なくなる。メキシコとの国境の方が大事。中東はカオスに。戦後それが起きてこなかったのは、日本にとってラッキーなことだった。」


脱炭素からの脱却は世界の新潮流、日本も硬直的な原理主義からの脱却を

「エネルギー政策については、1930年代に日本は米国から原油の7割を輸入していたのに、それが来なくなって大東亜戦争に。いまこそ原油は米国に依存すべき。今まではあまり依存せず、中東依存度が上がり、経済制裁でロシアからも輸入せずで、去年の半ばには中東依存度が95%という異常な状態に。『日米原油同盟』が必要だ。」


「脱炭素といっても、太陽光も風力も、再エネは日本の場合、自然環境上厳しい。風も安定していない。FITというとんでもないインセンティブで日本は太陽光パネルだらけだが、持続可能ではなく、やはり化石燃料、原子力へと供給源の多様化を図るしかない。」


「脱炭素原理主義がここまでクレージーになるとは思わなかった。特にここ5年ぐらいがそうだ。5年前は天然ガスぐらいはOKだったか、それもオワコンになっている。英独でもそうなっているが、一般の生活を無視した脱炭素原理主義は困難に。揺り戻しが米国でも起きている。」


「日本では全ての政策を『グリーン』にしていて、他の選択肢に目が向いていない。脱炭素に補助金を数兆円出していても、石油へのケアはゼロだ。経産省でも、世代間の違いを感じている。寒い冬は石油がないと万単位の凍死者が出る。まだ石油の時代だ。EV?いま中国はスゴイ価格競争。大量の倒産。これも続かない。」


米国という先生の言うことを聞いて名誉白人として褒められたいでは、国益は守れない

「ルールを実施するには力が必要であり、力あっての法の支配。これからは米国が力を行使しない、ルールのない世界になる。学級崩壊の世界に。では、日本は?」


「日本はもう、自立するしかない。安保も経済も。その方が長い目で日本の生き残りに資する。トランプ再選は覚まし時計になる。」


「日本は常にG7の中でほめられたい、名誉白人でいたい。しかし、バランスが大事。軸とすべきは、やはり国益だろう。いまの政府の硬直的対応で、危機に弱い構造になっている。そこに危機の本質がある。その意味で『大油断』。」


「先生がにらみを利かしていた時は先生の言うことを聞いて優等生でいられたらよかったが、もはや先生に褒められようという優等生ではいられなくなった。日本にとっては厳しい選択。これから世界は個別のイシューごとに合従連衡していく時代だ。とにかく西側についていくでは取り残される。政治の主導で行政の硬直性を正して導いてほしい。」

 

…現在、日本国家を軸に体を張って国益を実現しようとする骨のある官僚はいなくなっているようです。皆さん、グローバリズムの流れに乗っているほうが予算もとりやすいし、安泰なのかもしれません。しかし、世界的にその流れが大きく変わり、「学級崩壊」状態となった今こそ、かつて「官僚たちの夏」で描かれた通産官僚たちのような国士ぶりを取り戻し、「大油断」を超えることが彼らには迫られているはず。


ただ、本来、こうした政府へと官僚たちを導くのは、国家のマネージメントに当たるべき政治家の役割でしょう。だからこそ、何事も日本国家に軸を据える参政党スピリッツを政官界に広げていきたいものです。

 

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