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  • 執筆者の写真松田学

世界のなかで信を失うニッポン~中国とともに沈む道を歩まないために~

中国と日本は一衣帯水の隣国どうし…日中友好の場で常に言われてきた言葉です。そこには、隣り合った国どうしは離れることができないという意味が込められていますが、現在ふうに解釈すれば、ともに新型肺炎の感染国として一緒に沈んでいく国どうしということになってしまうのか…。早速、日本は本当にオリパラの開催国としての自覚があるのかという声が出ています。政府も為政者も危機管理のイロハを心得ていなかった日本国は国際社会からの信頼を一挙に失いかねない危機に直面しているようです。


●中国はさらなるデカップリングか崩壊か?

21世紀は、台頭する中国にどう向き合うかが国際社会全体のテーマになる。今世紀に入る頃、これが論壇の共通認識だったことを記憶しています。14億人の人口が、まさに自らのサバイバルのために闇雲に経済成長を続けていくと、エネルギーも食料も中国が食い尽くし、環境を汚染し、やがて地球は中国を支えられなくなる。そんな懸念でした。


1989年の東西冷戦終結やベルリンの壁の崩壊と同じ年から始まった平成時代の30年間、世界の潮流は、①グローバリゼーション、②IT革命、③金融主導の3つの流れで特徴付けられるものでした。その当初の90年代にこれで世界の盟主として君臨したのは米国でしたが、21世紀に入る頃から様子が変わり始めました。グローバル、オープンのパラダイムを活用した中国の勃興著しく、リーマンショックのあとは、金融主導は中国主導に置き換わりました。そして、グローバリゼーションとは要するに、「世界の中国化」になりました。


これに待ったをかけたのが米トランプ政権。表向きは貿易戦争や技術覇権競争のかたちをとっていますが、情報技術が全体主義独裁体制と結びつくことによってもたらされる経済と安全保障の両面からの脅威の根っ子を絶つために、米国の対中政策の照準は、中国の政体レジームを崩壊させることに合わせられているとみるべきでしょう。


この中国デカップリングにまた一つ、大義名分を与えることになったのが、今回の新型コロナウイルス。歴史的にみて、公衆衛生のずさんな中国は、ペストを始めさまざまな疫病の発生地域であり続けてきました。中国内においても、ほとんどの王朝交代は疫病が原因だとされています。その中国は今世紀に入ってから、サイバー空間にウイルスをまき散らしてきただけでなく、感染症の発生で世界に迷惑をかけるのも今回で5度目です。


歴史は繰り返す…チェルノブイリの5年後にソ連が崩壊したように、今回の新型ウィルスは中国のレジーム崩壊のきっかけになるとも言われています。特に、今回の未知のウイルスへの対応を遅らせ、ここまで事態を悪化させた大きな原因は中国共産党の隠蔽体質。もはや、国連の常任理事国として国際社会に君臨する資格すらない…。国際社会全体が中国の政体レジームの崩壊を望むようになってもおかしくありません。


しかし、これが日本でいえば保守派の願望に過ぎない可能性があります。今回の事態は、逆に、習近平政権が中央集権をさらに強化する契機になる…?武漢への派遣チームが感染症対策チームというよりは、感染症世論対策チームだったとされるように、中国共産党政権は事態を政治的プロセスへと組み込んでいます。隠蔽は確かに存在し、共産党の責任は認めましたが、それは党のガバナンスの問題に置き換えられ、責任の所在は曖昧。地方政府も含め、300~400名を処分して、情報を中央に上げなかった中間管理職に責任をなすりつけ、習近平は安泰。これを契機に監察機能を強化する…。


中国共産党は9,000万人の巨大組織であるがゆえに、これまでも中国は、問題が起こると何度も失敗してきましたが、そこはしたたかな共産党政権。マイナスをプラスにする芸当をしてきた国です。これで一層の中央集権化が進む可能性があるとも指摘されています。

中国経済のダメージが今後、深刻化し、経済が本当に止まることになれば、そのときが習近平の危機でしょう。ただ、国民の不満が高まると出てくるのが長老。大衆の不満で共産党自体が危ないとなると、トップに引導を渡す動きになる国です。政体レジームチェンジではなく、習個人の円満な引退、共産党の政体自体は安泰ということかもしれません。


●日本が国際社会からの信頼を失うプロセス

さて、中国共産党が隠蔽体質で事態を悪化させたのは対岸の火事ではないかもしれません。最近の安倍政権も、どうも、隠蔽体質で墓穴を掘っているような印象があります。あるいは、今回の新型肺炎対策が後手後手に回ったことで日本が予想以上の感染国になっていくなら、こちらのほうが安倍政権の首を絞めることになるのか…、心配です。


前回のメルマガの本欄コラムで、医師の上昌広先生の見解をご紹介したように、すでに感染が広がっている日本では、水際対策は意味がなく、検査体制の拡充と通常のインフルエンザ対策の強化が必要だというのは、医学的にはそうなのかもしれません。しかし、事はそう単純なものではない…、国際情報戦の専門家である山岡鉄秀氏が指摘しています。


日本は2月1日から湖北省に滞在していた外国人らの入国拒否を始め、2月13日からは「14日以内に湖北省、浙江省に滞在歴のある外国人、及び、湖北省、浙江省が発給した中国旅券を保持する中国人の入国を禁止」しました。これは、危機管理の観点からみれば、日頃から膨大な中国人観光客が訪れ、しかも今年は東京オリパラの開催国でもある国の対応として、国際社会では異様に映るようです。例えば、米国は中国内の地域を限定せず、2月2日から「14日以内に中国への渡航歴のある外国人」の入国を禁止、豪州は2月1日から「14日以内に中国から及び中国を経由した、豪州国民以外のすべての入国を禁止し、豪州人については入国は認めるものの、14日間の自主隔離が必要」としています。


こうした早期の全面的な対中国入国拒否の措置は、台湾、フィリピン、シンガポール、北朝鮮等々、多くの諸国が講じています。豪州では、離陸した飛行機に乗った人もダメ。春節で中国に帰っていた留学生もダメで、結婚した夫婦ですら離れ離れとなっても、政府は仕方ないで片付け、弁償の対象にもしていない。そこまで徹底してやっているようです。


Mitigation strategies(緩和戦略)という言葉があります。これは、事態を完全には止められない場合でも、事態を緩和するためにさまざまな対応策を併用するという意味です。流行のピークの山を低くするためには、入国制限もその一環として位置づける。一か月のノーガードがあり、時期を逸しているからといって、水際対策の徹底が意味がないことにはなりません。現在も多数の中国人が日本に入国している姿は、国際社会のなかで突出…。


日本は五輪のホスト国であるならば、どの国よりも厳しく、迅速に対応できる姿を、今回、世界に示すチャンスだった、できることは何でもやる決意を示すべき局面だった…。ところが、日本はどんどん感染者を増やし、中国と同じだ、あのクルーズ船の対応もおかしかった、中国の外では最も感染者が多い国なのに、未だに限定的な規制しかしていない、中国本土は70都市を閉鎖しているのに、日本は門戸を開いている、中国人が日本にはたくさんいる、ならば、日本に行くのはやめよう…。


すでにそんな見方が海外では出ているようです。中国と同列の汚染国というイメージを持たれることのマイナスは、計り知れないでしょう。中国人からのインバウンド消費と引き替えに、世界からのインバウントを失い、もっと大きなものを失ってしまう…。


●国家の役割と為政者の心得

こうした懸念を表明した上で、山岡氏は偏差値教育の弊害を指摘しています。受験で育った頭の良い人は、条件反射的に正解を探します。マークシートならどこかに答えがあります。しかし、今回のウイルスでクリティカルなのは、感染していても潜伏期間の間にうつしてしまう、陽性になっても症状が出ないといったことであり、そこは未知の新しい領域。そこで、米国も豪州もニュージーランドもシンガポールも、元から攻めた…。国家の危機管理に答はありません。明確なのは、「わからない」ということです。


どんな論文や分析も、限られた情報とサンプルでしか考えていません。平時ならOKですが、何が起こるかわからない有事の発想が日本には欠如していた。そのときは、根本から対策を講じるべき。塞ぐものは塞ぐ、止めるものは止める、タイムラグがあっても、それでもやる。効果の評価はあとで検証する。効果のあるなしの議論ではない…。アクションファーストで、その後は走りながら考える。完全な答が見えないと動かない、としている間に、事態はどんどん悪化します。


そもそも国家とは、こういうときに総合的な判断で決断するために存在するものだと思います。国際的にみるとどうか、ロングタームでは、という総合的な判断が抜けています。


やはり、内閣が超法規的な措置をとっても免責となる仕組みやコンセンサスが必要でしょう。もちろん、為政者が決断するのが基本。批判されてもやり抜く鍛錬ができている人が政界には必要でしょう。世界を俯瞰してマクロで考える。為政者に必要な見識です。


日本が果断な対応ができなかった理由として、政界に親中派が多いことや、インバウンドの激減を懸念する業界からの票が気になったことなどが原因かもしれません。日本の政界も経済界もマネーやハニー?で中国には籠絡されている人が多いとの信じたくない噂も絶えません。しかし、少なくとも、国の政策としてそもそもインバウンドを成長戦略の柱に位置付けること自体、邪道でしょう。


課題先進国としてさまざまな社会的課題を解決するところから、内需を中心とする力強い成長路線をめざす。このことこそが政策の王道であるべきことを、今回の新型肺炎は再認識させてくれているのではないかと思います。

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