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トランプ関税交渉が日本に迫るのは戦後レジームからの脱却~一時的な消費減税が本当に参院選の論点なのか~

  • 執筆者の写真: 松田学
    松田学
  • 5月14日
  • 読了時間: 11分

GWが明けて今通常国会後半の国会論戦が続くなか、参院選を意識して消費税率引下げの議論が急に活発化しています。自民以外の政党はいずれも消費減税で出そろいました。

あの消費税率10%への引上げを総理大臣のときに決めた野田氏率いる立憲民主党までもが、食料品だけ1年に限って税率をゼロにする案でまとまり、維新は同じ案で2年、「手取りを増やす」で議席を4倍に増やした国民民主党は時限的に一律5%への引下げ…。


こんな目先だけの一時的な減税で果たして国民はもう一人子どもを産もうとするでしょうか?若者や就職氷河期世代の人々が未来への明るい展望を描けるようになるでしょうか。昨年も一年限りの定額減税が実施されましたが、経済効果も国民の実感もないままに終わっています。どうせ選挙対策向け、いずれ増税が待っている…国民は見抜いています。


予算委員会では、より踏み込んで消費税廃止を唱える「れいわ」の議員が、インフレになるまでは国債をどんどん発行しろと迫っていましたが、金融市場がどこまでも国債を買いますか?日銀も国債購入量を減らしました。やはり私が国会に出ていって政府通貨を活用するもう一つの選択肢を示さねば、将来にわたる本格減税も積極財政も実現できない…。


そんな閣下掻痒感のある与野党論戦ですが、孤立した財政規律派vs減税派包囲網の闘いとなる今度の参院選は、自民を更に追い込んで日本の政治を変えるチャンスでもあります。


最近、政治とカネをめぐって石破氏に新たな疑惑が「文春砲」で浮上していますが、現時点では、主要メディアも立民など野党も本気で追及して政局にまで持っていく気はないとか…。野党にとっては、不人気な石破氏のままなら参院選で闘いやすく、自民党を参院でも過半数割れに追い込めば立民との大連立になります。野田総理の再誕生も夢でない?


もしそうなれば、財政当局にとっては食料品1年限りの消費減税で済み、その後は財政再建派の安定政権のもとで消費税率引上げへ…背後には、大手メディアにも国税調査権で睨みをきかせる財務省の存在があると、一部の想像力たくましい論者が断じていますが…。


ちなみに、満身創痍の石破氏がしぶとく政権の座に居座り続けられる構造的な背景は与党側にもある、自民党の党内事情に詳しい宇山卓栄氏は5つほど理由を挙げています。いずれにしても、財務省は消費増税のためには、自民党は与党でさえあり続けるなら、総理は誰でもいい…。いくら野党が結束しても、本格減税への道は開かれないかもしれません。


ただ、今の日本に問われる本質的な問題は、少し違うところにあると思います。無茶な要求で日本の政界を騒がせているトランプ関税ですが、トランプ氏は本音では、関税や貿易、経済で日本と協議する気はないのでは?だから、日本で売れるタイプの小型セダン乗用車などそもそも作っていないのに、日本でアメ車が売れないとか、輸入自動車にボーリング球をぶつけて検査しているとか、無茶苦茶であることが分かっているのに言っている。


真っ先に日本と交渉したのに、最初に妥結した相手は英国でした。英国は米国と特別な関係にある、そうトランプ氏が述べたように、同国は例えば今世紀の中東での紛争でも、米国とタッグを組んで軍事行動で米国の足らざるところを補ってきた同志です。この点、今回、日本はみせしめになったのか…石破政権はトランプ氏の期待に応えられていない…。


対中国包囲網と反覇権連合で、日本が米国と歩調を合わせるだけでなく、対等のパートナーになれるかどうかをトランプ氏はじっと見ているのかもしれません。石破氏は安保と経済を切り離して議論すべきだと言いますが、それは違うのではないでしょうか。フルスペックの集団的自衛権、軍事的な自立と極東地域での安全保障イニシアチブ、DS支配の戦後レジームからの脱却…これを「シンゾウの敵」である石破氏が決断できるのか。


トランプ氏にとっての真の敵であるグローバリズムを共通の敵として闘う姿勢を示せるかどうかが日本に問われている現在は、やはり、その方向を向く唯一の国政政党である参政党の出番でしょう。軍事専門家の矢野義昭氏は、トランプ政権が日本に求めているのは対中国での「ショルダー・ツー・ショルダー」の関係だとしています。今回は以下、前述の宇山氏と、この矢野氏との間でそれぞれ行った対談の内容をご紹介します。


●不人気なのに石破降ろしが党内で起きない理由…実は、みんな居心地が良い

今般の関税交渉で赤澤大臣がトランプ大統領と向き合った頃、「石破官邸はいま意気揚々、少数与党でも予算が通った。関税交渉でトランプ大統領が出てきて日本を最優先国にすると。甘い。関税交渉で泣きをみる。」と喝破していたのが宇山氏です。同氏によると…、


「10万円分の商品券を配布した問題などがあっても、石破おろしがなかなか起きない。西田昌司参院議員発言があっても、ムーブメントとして石破おろしになっていない。支持率が10%台にでもなれば別だが、一応、30%程度はある。党内力学的には倒閣運動を興す力が派閥にはない。世論調査でも、辞めなくていいというのが6~7割。」


「石破おろしと言っても、誰が中心になって誰を担ぐのか。次の総裁が首班指名で総理に選ばれるとは限らない。選ばれないと自民は野党に転落。少数与党が強みになっている。」

そう述べる宇山氏は、「石破おろし」が起きない要因として、次の5点を挙げています。①地方の自民党議員や党員、②高齢者、③リベラル層、④公明党、⑤経団連。


まず、①の地方ですが、「地方議員に石破ファンが多い。地方の要望が中央に通らない。大阪の自民党が維新で困っている時に石破氏が手を差し伸べた。各地方でも同様。大変だねぇ、君たち、で。この蓄積。幹事長や地方創生相として地方回りを重ねた成果でもある。」

次に、②の高齢者ですが、「高齢層はテレビしか見ない。テレビが石破を持ち上げる。『あの話し方、切々と、トクトクと、説得力あるじゃないか』となる。」


次に、③のリベラル…「この点が一番重要。自民党はもはや保守の党でない。夫婦別姓制度の導入への賛否を尋ねたところ、自民党支持層の63.7%が賛成と答えた。その支持を得るためリベラル政策を次々と。昨年のLGBT法でも、リベラルにウイングを拡げた。選挙戦略上の作戦だ。候補者選定でもそう。酷いリベラルを公認しようとする。理念も矜持もない。岩盤保守層を捨ててでも…それなら立憲民主と変わりない。」


次に、④の公明党…「石破だとやりやすい。高市氏などが出てくると大変。親中・媚中の石破でないと協力できない、となる。公明党や中核となるリベラル層を引き寄せるために、自民党にとって石破は好都合。」


最後に、⑤の経団連ですが、「親中・媚中の石破&岩屋。高市氏が総理総裁になったら中国と険悪になり、商売にならない。多くの自民党議員が彼らの企業献金で飯を食っている。」

結局…「皆、石破総理で座り心地がよい。党内力学的には動かない。」


●内閣不信任案で迷う野党…石破のほうが闘いやすいが、衆参ダブルも野党に有利

では、野党はどうか。「内閣不信任案出せとの国民からの圧力があり、出すこともありだろう。確かに、石破政権相手のほうが参院選を有利に戦えるという計算があり、そこで、野党は商品券10万円配布問題の説明をキチンとさせるためにも内閣不信任案決議で幕引きにはさせず、『追及をし続ける』と言えば、不信任案を出さない言い訳になる。ただ、さすがに国会会期末には、参院選を前に、出すという決断も…。」


「野党がまとまって内閣不信任案を出して可決になれば、石破首相は衆議院解散に打って出る可能性も野党は見込んでいる。衆参ダブル選は野党に好都合だ。ここまで与党がガタガタしているからだ。」


「東京都議会議員選挙は6月13日告示、22日投開票で決定、参院選の日程は7月3日公示、20日投開票が有力。1ヶ月の間が空く。与党が都議選で敗ければ必ず参院選で敗けるというジンクスがある。東京都議選で自民党が大敗して、石破おろしの声が高まることもあり得る。石破おろしで、先手を打つべしという考えもある。新しい総理総裁の下で参院選を戦おうと。」


「しかし、現実には、グタグタとこのまま石破のままでいこうとなろう。どうせ、自民党は勝てないんだ。石破を降ろしても、誰も火中の栗を拾いたくはない、と。」


ただ、日本の国益を考えれば、このまま中国との協調を続ける石破政権が継続すると、トランプ政権から手痛い打撃を受けることになるという懸念があります。


「日本はトランプ関税で、米中いずれかの踏み絵を踏まされている。対中経済包囲網を形成する上で日米協調は不可避。米国が中国と対峙する上で、日本があてにできる協働者がどうか。それにも関わらず、森山幹事長はじめ超党派の日中友好議連は中国を訪問、公明党・斉藤代表が中国訪問、石破総理が習主席宛ての親書。このタイミングで間違ったメッセージになる。まるで中国と協調するような話だ。」


●弱体化する習近平体制のもと、高まる中国による軍事力行使の可能性

その中国は、トランプ氏に対抗する上で日本との関係を改善しようとしているやにみえますが、現実には、中国の日本にとっての脅威は高まっています。矢野氏によると…


「中国はいま習近平体制が権力闘争に移行して弱体化している。軍の掌握に問題。習近平の側近として抜擢された人物が次々と動静不明で逮捕、失脚。粛軍したが、逆に跳ね返って習近平自身が軍を把握できず、思い通り動かせなくなっている。」


「民間在野の団体、農民工、退役軍人、政治的関心をもっている層…これらが反体制の方向に。党内では、太子党、鄧小平のグループ、これと対決したのが習近平だが、結果として経済衰退、対米関係悪化。毛沢東派もいて、両勢力の板挟みに。」


「経済的には不動産バブルの崩壊、巨額の負債の抱え込み、一帯一路もうまくいかず。『人類運命共同体』も最近ではトーンダウン。」


「他方で中国は着々と戦争の準備を進めている。コメなど食料、レアメタルなどを備蓄。軍の近代化増強。軍事費7%増。25年度も36兆円以上、日本の3倍以上。それを最新鋭の戦闘機や艦艇に。中国自身は民生経済を犠牲にはしているが、統制計画経済、準戦時体制に。監視カメラなどで監視統制を国内でも強めている。」


「関税問題で米国ともめているが、その面で締め付けがきつくなるほど、増強した軍事力を行使し、国内で揺らいできた権力基盤強化をイチかバチかでやるかもしれない。台湾近海で現にやった。台湾包囲網を着々と。サイバー、宇宙も含めていつでも海上封鎖できるぞと。」


「侵攻をいつでもできる体制をつくっているのは間違いない。尖閣周辺にも次々と圧力。軍事力行使の可能性は以前より高まっている。トランプ政権も米本土防衛が第一だが、対外的には中国。軍事力は使うときには使う、ただ、一気に集中的に、終わればさっと退くと。台湾は万が一の時はそれなりの支援をすると。『前線国家』。ヘグセス国防長官は、日本も台湾もそうだとしている。その米側の姿勢を背景に、頼清徳台湾総統も強気の発言。」


●日本は中国のターゲット…トランプ政権は「肩を並べて」を日本に要求

「日本も、そうした中国のターゲットだ。しかし日本の場合、南西諸島は島が小さすぎて、兵力を送る上で限界。空母も戦力的には米国と違って攻撃型ではない。通常戦力で中国には対抗できない。核でも恫喝されている。台湾は国内問題だとして。政治工作で台湾に傀儡政権ができる可能性。一自治政府として宣言すれば、その保護を名目として進軍。」


「日本で対応できないなら米国との同盟が大事だが、ヘグセス長官は、日本は第一列島線のいちばん中国側の要石との認識。『ショルダーツーショルダー』、肩を並べて一緒に闘ってほしい。力による平和が基本的な考え方だと。対等な立場で。タダ乗りは許さないと。」


「その代わり、日本は主体的に決めていい。憲法も含め。これを石破は断った。『我々の判断だ』と、米側要請に応じていない。ヘグセス氏は失望、その後に関税の話が出た。」


●露中北に対抗できない米国の期待…憲法解釈の変更、技術、投資:日本を見捨てる?

「集団的自衛権のフルスペック化。憲法は芦田修正の解釈を変える道がある。自衛のための戦争を否定するものではないと。その辺りが日米間の焦点になる。日米安保もそうだ。有事のときだけの米軍駐留で良い。米国は本土防衛にシフト。」


「日本の『国軍』が普段は常駐し、必要なときに米軍が来る。そうした決断が自民党政権にできていない。ズルズル先送りすると、米国が日本を見捨てるかもしれない。」


「製造業が空洞化した米国としては、いま日本に投資してもらい、技術を入れてほしい。そのために関税を使っている面がある。主敵は中国。対米貿易黒字が脅威につながる連鎖を断ち切る。同盟国を巻き込んで。英国とは妥結した。」


「日本は技術力をもって米国の国防に貢献する道。造船、米国は年間6隻、中国は年間数百隻。民生用ドローンは9割が中国。無人ドローン、AI。AIでは中国に敗けないという政策を米国がとっている。中国では理系の優秀な人材は全部軍事産業に。」


「露中北に対抗できなくなった米国は、同盟国と共に安保を推進しようとしている。日本への期待には、技術と対米投資、防衛共同開発などもある。欧米全体で製造力や教育が低下。ドイツや欧州でも、ロシアと軍事生産力で比較にならなくなるまでの空洞化が生じている。計画経済の強みは軍事生産で活きる。」


「戦後のドグマにとらわれていると、日本の存立が危ない。」

 

…日本には目先の減税論に明け暮れている余裕はありません。どうせ減税をするなら、中長期的に国民負担率が低下することを可能にするだけの経済再興策によってこそ、本格減税が実現できるのであり、こうした経済再興なくしては、少子化を反転させて国家を永続させる道も拓かれないでしょう。


そして、いま喫緊の課題は、矢野氏も指摘するように、やはり、トランプ氏が同志とみなした安倍氏が掲げた「戦後レジームからの脱却」なのではないでしょうか。参院選に問われているものも、本来であれば、それを果たせるための政界再編だと思います。

 

 
 
 

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