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執筆者の写真松田学

コロナと五輪を経てどうなる、日本の政局~課題は新保守勢力の育成と日米協働での戦後レジームからの脱却~

不評続きだった東京五輪も、先週は開会式を迎えましたが、これがまた「あまりにチープ」だったと、各方面から不評を買っているようです。ただ、コロナ脳に苛まれる日本人があれだけ警戒してきた世界中のアスリートたちが、国や人種や民族を超えて一つのルールのもとでフェアプレイを競い合う場面をテレビで実際に見ていくうちに、国民の多くが、メディアや野党が煽ってきた反五輪モードとは別のものを感じるようになると思います。


8月22日までの今回の緊急事態宣言は、「東京五輪で感染拡大」と言われないための予防的措置だとも言われますが、東京五輪とは無関係に、変異株が国境を越えるのはとめられず、陽性者数は増える時には増え、減る時には減るもの。分子病態学や免疫学の第一人者でもある井上正康先生によると、新型コロナに自然感染すると数十種類ものポリクローナル抗体が出来て、その後の大抵の変異株は撃退するそうです。その意味で、ワクチンよりもずっと強力。感染は増えても、無症状という感染者がさらに多くなっていくようです。


「感染」は拡大しても死者が大きく増えていない限り、これを「危機的状況」と報道して国民を怖がらせ、これ以上五輪のマイナスイメージを強めるのはいかがなものでしょうか。国民としては五輪を応援しつつ、コロナニマケズで酷暑を乗り切りたいものです。


そもそも五輪は政権浮揚の場となることが期待されたものでしたが、メディアと野党の煽りによって、コロナと東京五輪は政権運営をここまで追いつめてしまいました。根底には「コロナ脳」があり、それが東京五輪への評価を貶め、国際社会からも日本人の見識を疑う論調まで出始めています。「おもてなし」は外国人に対する警戒心にとって代わり、「東京五輪は完全に失敗した」…と。


今回は、アゴラを飛び出して新メディアを立ち上げた新田哲史さんと、都議選や来たる総選挙、政局の動きなどについて語った内容をご紹介しますが、問われているのは、次なる社会を明確に展望する真の保守政治。これは、国際社会における新たな日本の存在のあり方の面からも問われてくる課題です。このことについて、先日、米国の保守系政治学者であるエルドリッジ氏と行った議論も併せてご紹介いたします。


●都議選と自民の不調…総選挙後は小池-二階ラインが政治の軸に!?

先般の都議選は小池さんが美味しい所を全部持って行った選挙。世論調査は今までの常識と違い、大きく外しました。自民の獲得議席は予想の50を大きく下回る33。09年7月の都議選では38議席の惨敗で、直後の総選挙で自民は政権から転落しました。当時は民主党という受皿があったのに対し、来る総選挙では現時点ではそれがないことがせめてもの救いか…。都議選ではどうも、コロナと五輪で国民のフラストレーションがたまっていることに加え、安倍自民党の頃は、野党よりはましだろうとの消極的な支持が多かったのに対し、今回はその効果まで薄れたようです。都ファという受皿があるだけで自公は過半数割れ。もし、総選挙で既存の野党以外に新たな受皿ができれば、自公は政権転落も…。


女性票の動きの潮流を自民党が捉え切れていないという面もありそうです。小池さんは何と言っても女性票。今回は久々に、判官びいき、よれよれになって小池さんかわいそう…同情票まで巧みな演出で獲得しました。先般の森会長発言も、女性に差別的な政治家がまだいっぱいいるという印象になっているようです。おじさんたちの古い政治への不信感が強まり、自民党の今のシステムでは女性が活躍できないというイメージも定着。


一般に、経済的危機や社会的大事変が起こると政権支持は下がるものですが、そこに今回は西村大臣の超法規的措置。酒販業界や金融機関から圧力をかけさせる…?これはかつて霞が関にいた私からみても禁じ手、およそ政権運営に当たる者としては常識外。そもそも自民の固定的な支持基盤である酒の業界がそっぽを向きました。中小の飲食をまとめる政治勢力がなく、コロナ魔女狩りの対象にもなりましたが、学校のクラス30人のうち2~3人は飲食業の子どもたち。本当はここをまとめるとかなりの票田になるはずですが…。


コロナ脳が導くコロナ原理主義による視野狭窄の弊は、政権にまで及んでいるようです。


そんななか、小池さんはどう出てくるか…。みんなが予想し始めたことはやらず、意表を突く行動の人だそうです。少なくともネットメディアや日刊紙で予想されているようなことはやらない。源義経の「ひよどり越えの逆落とし」にたとえる人もいます。なので、予想は難しい面はありますが、新田氏によると、いま囁かれているのは…、


まず、ご本人の年齢。先日、69歳の誕生日を迎えましたが、総理を狙うなら、今度の総選挙でそろそろ国政に戻らねばならないかもしれません。二階幹事長も、次の次の衆院選では区割りの変更で、ご自身の選挙区がなくなるかもしれず、今回出たら引退か…。小池氏としては、今度の選挙で出ないと二階さんがいなくなる?そもそも二階派は、二階氏がいなくなると崩壊だと言われている派閥です。小池さんが二階派を継承する形にしなければならない。二階氏としては引退まで幹事長ポストを維持したい。そのためには小池カードが必要ですが、この秋に小池さんが国政に戻ってこないとカードでなくなる…。


やはり、次の総選挙では小池新党が二階氏を通じて自民と組むか、ご自身が自民復党で出るか…二階-小池ラインが総選挙後の日本の政界の軸になるということでしょうか。


●波乱要因となりかねない横浜市長選と解散総選挙の時期

もう一つ、自民党には有力なポスト菅がいないという問題もあります。国民的な人気の高い河野氏も、党内で本気で総裁にと思っている人はあまりいないようです。ここは小池氏のチャンス…?いずれにせよ、小池氏を含め、新勢力が出てきたときに、自民党はかなりの打撃になる可能性があります。その前に、もう一つの政局の芽があるかもしれません。


それは8月22日投開票の横浜市長選。候補者には現職の大臣が名乗りをあげ、現職の横浜市長、現職の参議院議員でもある前神奈川県知事、元長野県知事の田中康夫氏、元検事として知られる郷原信郎氏といった知名度全国版の著名人がズラリ…現時点では候補者10人という、この市長選始まって以来の乱立状態ですが、横浜市は菅総理のおひざ元。既に地元のハンドリングもできないのかという不評が立っていますが、この市長選を落とすと、さすがに菅さんでは総選挙は戦えないという声が出るかもしれません。


どうも、麻生政権末期と同じとの見方も出てきたようで、そうなると、解散総選挙の時期は、自民の損失が最も少ない時期を考えるでしょう。それは遅ければ遅いほど良い。つまり、ワクチン接種が十分に行き渡り、経済再開への期待が強まっている時期。政界で囁かれている現在の有力説は、10月に臨時国会を召集して経済対策と補正予算を成立させ、衆院任期満了の10月21日間際で衆院解散、11月半ばに総選挙公示、11月28日投開票…。


五輪の間にも水面下の動きがあり、横浜市長選を経て8月下旬には動きは熾烈なものになっていく…政治好きの人にとってはたまらなく面白い日々が待っているようです。


●自民党からますます保守派が離反?…求められる新しい保守主義勢力

ただ、現在の政局をどんなに論じてみても、決定的に虚しいことがあります。それは、これだけメディアが菅政権を貶めたとしても、それに代わる政権の受け皿が自民党内にも党外にも、日本の政界には存在しないということです。党内では安倍前総理以外にこれはという人がいるわけではなく、自民党は近年、人材の吸収と育成に大失敗してきた政党だと言わざるを得ません。もちろん、既存の野党はもってのほか。だから、小池さん…?


最近では、本来の自民党岩盤支持層であるはずの保守派が自民離れを始めているそうです。LGBT法案、夫婦別姓…。もちろん、保守派のエースとされた安倍前総理が必ずしも保守派が満足する政策で一貫していたわけではありません。それでも、二階氏を中心とする親中派がマジョリティの党内や連立相手の公明党のリベラル寄りの動きを抑える重石になっていたのが、安倍総理でした。それが、国家観の見えない菅総理に代わり、抑えが効かなくなっている…。岩盤支持層の離反も、総選挙で自民を不利にするかもしれません。


コロナ禍を通じて国際社会で明らかになったのは、グローバル全体主義勢力に対抗する軸として、自由社会と民主主義を守る新たな国民国家の役割であり、ここに保守政治の新しい使命が誕生しています。しかし、以上述べた政界の現状からも明らかなように、この使命を担える既成政党は日本にはありません。この重責は二階氏と結んだ小池氏では無理。


そもそも、人々の意識がこれだけ変わり、日本も世界も新しい時代を迎えようとしているいまや、多くの国民が納得する新しい社会の姿を示して強力なメッセージを出す政治勢力がこれほど求められるときはありません。自民党が保守政党としての期待に応えられていないことも併せ考えれば、この期待に応えられる政党があるとすれば、それは参政党だと思います。そこで、私の周囲では、参政党は早くやれ、という声が高まっています。


しかし、参政党は政党として期待されている役割に踏み出すことが遅れており、それとは別に、私、松田としての全体ビジョンを、ぜひ示すべきだというお声も各方面からいただいているところです。これから、これまで発信してきた財政や通貨に関する「松田プラン」やブロックチェーン革命、協働型コモンズなどをパーツとして入れ込んだ、次なる社会の基本思想やビジョンの体系を世に示していく所存です。


●現下の国際情勢が問いかける日米両国それぞれの課題

日本を取り巻く現下の国際情勢をみても、日本の政治にいま必要なのは、中国の全体主義に対して毅然と対峙していくだけではなく、歴史認識の根本的な修正にまで遡って「戦後レジームからの脱却」を実現する真の保守政治だといえます。


ロバート・エルドリッジさんといえば、日本滞在が長い知日派で、米国保守系の論客ですが、世界の安全保障環境が激変するなかで日米協力関係をどう進めていくべきか、日米間の忌憚なき意見交換、情報交換のチャンネルになる方として、最近、親しくしています。


先の日米首脳会談は、「インド太平洋」秩序のもとで日本に大きな役割が迫られることを示したものでした。日本は中国抜きの秩序を新たに創造していかないと、中国に飲み込まれてしまうでしょう。これらが日本の宿題だとすれば、米国にも大きな宿題があります。


一つは、かつて台湾や中国に気兼ねして、米国は尖閣に対する日本の領有権を明確に認めなくなっていますが、これをきちんと元に戻さないと、プロパガンダが得意な中国が事を起こしたとき、尖閣に対する中国の正当性を最終的に排除できなくなってしまうこと。エルドリッジさんはこのことを、米国政府に強く働きかけているそうです。


もう一つは、これは私が何としても確認する必要があると考えて突っ込んだことですが、日本に対する歴史認識を修正して正しい歴史認識を日米間で、そして西側諸国の間で共有すること。このことを通じて、戦後の国連戦勝国秩序から脱皮しないと、中国の覇権的拡大を抑止できないのではないかということでした。


これについては米国も反省しなければならないし、日本の功績を世界に発信していく上で、自分もお手伝いしたいということです。


●日本は中国抜きでのポストチャイナの秩序形成を

以下、エルドリッジさんが述べたところでは…、まず、先の日米首脳会談やG7サミットで台湾海峡が明記され、クアッド、インド太平洋での日本への期待高まっていることについては、「台湾海峡への言及はありがたいことだが、『台湾海峡』だけでなく、もう少し『台湾』そのものへの言及がほしかったし、台湾を国家として認めてほしい。台湾こそが日本の安全保障にとって死活的。台湾有事は日本の有事。いまの時代に後方支援という線引きはもうない。一緒だ。知らないということはできなくなっている。日本の貢献がものすごく期待されている。米国は中国と対抗できなくなっている。そのギャップを日本が埋めなければならなくなっている。」


「中国とのデカップリングは、日本の国益の観点から進めてほしい。日本は再び、中国抜きの経済を創造してほしい。今までの延長ではなく、『ポストチャイナ』でやるべきだ。そうしないと日本は完全に飲み込まれて奴隷の国になる。同じ悩みの多くの国々とサプライチェーンを組んで、日本のノウハウを共有して、日本の基準を広めてほしい。そうすれば、彼らも中国に依存しなくて済むようになる。50年代後半から岸信介がやった東南アジア外交、南アジア外交、そして福田ドクトリン、それをやってほしい。台湾との関係強化で台湾が自信をもって中国に対峙できるようにしてほしい。」


「経済界にとって対中デカップリングは辛いことだと思うが、これをやりきらないと日本は生き残らない。中国は日本を貶めようとしている点で、北朝鮮よりも脅威だ。米国を追い出して日本を孤立させようとしている。日本の立場こそが世界の誇りであり、小さい日本、発言できない日本は世界の損失である。」


●米国は早く、尖閣に対する日本の領有権を再主張せよ

「尖閣諸島の領有権が日本にあることについて、かつて米国は意思表示をしていたが、現在、領有権については米国は中立的だ。それは同盟国である日本に対して失礼だし、非合理的である。沖縄の占領統治の時代の27年間、その前の50年間は、米国は尖閣は日本の領土と認めていた。沖縄返還協定の調印のときに曖昧にした。それまでの政策と180度違うのは一貫性がない。一つは、台湾も蒋介石が尖閣の領有権を主張、台湾も同盟国だった。二つの同盟国が争っているのは米国にとつては困ることだった。もう一つは、中国が領有権を主張。71年6月の返還協定とは別ルートでキッシンジャーが中国と交渉してニクソン訪中を相談していた。そのとき、米国は中国を意識していた。両人とも日本が好きではなかった。領有権は当事者の間で決めよ、と。それは無責任なことだった。」


「米国でも、中国の脅威を本当に分かっている人たちは、なぜこんなことをしてしまったのかと思っている。安保第5条で日本が安心するのは間違いだ。海上で何かあったときに、中国は情報戦がうまく、日本は鈍い。先に日本が撃ったというストーリーになりかねない。日本が先に撃つと、第5条は適用されない。国内海外の反日メディアと連携して、日本の軍国主義復活というストーリーになり、米国がストーリーを把握しないうちに尖閣を取ってしまう。バイデン政権が和解のために入る。和解は中国に正当性を与えてしまう。」


「中国が軍隊を尖閣に派遣して米国が中国に注意すると、中国は論破できる。中国の領有権を米国は正面から否定しておらず、中国の主張性に正当性が残っており、その穴を中国が使えるからだ。だから、その穴を埋めねばならない。米国政府に対して早く、日本の尖閣主権を再び認めよと言っている。」


●究極的に問われるのは正しい歴史認識の日米間での共有~戦後レジームからの脱却~

私がさらにエルドリッジ氏にぶつけた論点は、現在、西側各国が連携して採っている対中強硬策は、戦後の「国連戦勝国秩序」とは真っ向から矛盾するものであり、喫緊に議論しなければならなくなるのが歴史認識であるということでした。これについて同氏は…「まず、日本の広報外交が足りない。相手がわかってくれるだろう、と。日本が積み重ねてきた良いことは自ら言わない。日本政府が日本人の国民性そのものになっている。相手が間違っていることに対して、もっとプレッシャーをかけるべきだ。」


その上で、同氏はこう述べています。「日本は米国ときちんと議論しなければならないが、米国も、特に第二次大戦についての『war guilt information program』(WGIP:日本が戦争犯罪国であるとしてGHQが行った日本人再教育計画)を米国も反省しなければならない。日本の良い所をもっと取り上げるべきだ。戦争では不幸もあったが、日本の素晴らしい功績もある。その発信を、さらにお手伝いしたい。」


歴史認識問題の修正と共有については、米国側としては、それによって原爆投下が戦争犯罪とされかねないという問題があります。米国側にとって現実には難しい問題であることは重々承知しています。しかし、これをきちんと整理しないと、中国の全体主義を抑止していく上での新たな国際秩序形成に世界は入れないという現実があります。


だからこそ、建前しか言えない政府間とは別に、米国有識者との間で信頼関係に基づいた価値観ネットワークを構築していかねばならないでしょう。エルドリッジ氏とは、そのような作業も始めています。


内政と外交両面にわたって、21世紀にふさわしい新しい日本の存在を築かねば、日本を待っているのは国力のさらなる衰退と、中国共産党による「見えざる」支配ということになるでしょう。これを決然とできる政治を構築できないでいる状況は、もはや政界の問題を超えて、日本国全体の問題になっていると思います。目先の政局を超えて大事なのは、こうしたマクロの観点からの政治の根本的な立て直しに向けた国民合意の形成です。私として、この点にも微力を尽くしていく所存です。

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