国会では修正予算案が衆院を通過しましたが、当初の政府案と比較すると、103万円の壁を中途半端な引上げにとどめ、国民民主党の主張する178万円までの引上げで生じる財源の穴7~8兆円を、6,210億円の税収減へと10分の1以下に抑え、同党の予算案賛成は捨てた一方で、高校無償化による歳出増1,064億円で維新の予算案賛成をとりつけ、併せて七千億円余りに政策コストを抑えることで、与党は予算の衆院通過を実現したといえます。
その他、予備費の削減や基金からの召し上げといったやり繰りで国債発行額は政府の予算案よりも19億円減らしたのですから、これは財務省の勝利と言っていいでしょう。
このほか、高額療養費の自己負担上限引上げを多数回該当者については引き上げないこととしましたが、それによる歳出増は55億円で済んでいます。これはこの問題を追及してきた立憲民主党の勝利ではありましたが、修正予算案の衆院通過後に、がん患者関係者と面会した石破総理が、今年8月からの引上げそのものを見送る決断をしました。
人の命と財政規律のどっちが大事なのか…この物価高の中で8・8兆円の税収増を国民に還元せずに国債発行の減額に回したことで財務省解体デモが頻発していることと併せて、これでは参院選には勝てないという声は与党内からも出ていました。
しかし、これは最初から自明なことであり、自民党がいかに国民を向いていないかを印象付けたようです。3月10日発表のNHKの世論調査では、内閣支持率は前月比8ポイント低下して36%。不支持率の45%を大きく下回りました。財政規律のためには選挙で敗けてもいい?そうでなくても少数与党の自民党、今回の予算審議のような綱渡りはいつまでも続けられません。もはや財政規律そのものが政治的に成り立たなくなっているようです。
ただ、財政規律とは矛盾しない国民負担軽減策があります。それは再エネ賦課金の廃止です。これは一般的な世帯で年額1・7万円の負担になっており、電気代の形で国民が負担したこのおカネが、中国系資本によるメガソーラーや大型風力に回り、日本の自然環境や生態系を破壊し、中国を利している。その利権構造が与党にも…日本政府は10年間で150兆円を再エネに投資しようとしていますが、これもいずれ国民負担増に跳ね返ります。
こうして2050年カーボンニュートラルを日本が達成しても、それによる地球の気温の下がり方は誤差の範囲内。地球のどこかで大きな火山噴火があれば相殺されます。気候変動も果たして人類が排出するCO2が主因なのか、科学的証明はないそうです。そもそも脱炭素は人類史始まって以来、最もコスパの悪い政策。トランプ大統領は就任時に、これをインフレの原因とし、化石燃料を「掘って掘りまくれ」!世界の潮流は転換を始めました。
元々、産業界では、バイデン政権とEUなどグローバリストが進めてきた脱炭素原理主義という環境利権に対する疑念が燻っていました。早速、これを推進する団体からの脱退が相次ぎ、日本のメガバンクも米国の金融機関の脱退が相次いでいる「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」からの脱退を決定。EUでも、環境規制の負担で欧州の産業競争力が低下しているとして、行き過ぎた環境政策見直しの動きが出ています。
日本でも脱炭素が自国の製造業をダメにしていますが、分かりやすいのがEVでしょう。日本政府も脱炭素の一環で2030年代でのガソリン車中止を打ち出しましたが、世界的なEV推進のバックには中国のしたたかな戦略があります。内燃機関の従来の自動車だと部品が3万点、これに対し、EVは1万点。内燃機関は技術的な熟練や中小零細も含めた広い産業の裾野が不可欠で、中国が得意な模倣が困難です。AIでディープシークショックを起こした中国人の社長も、「我々にはオリジナリティない、あるのは模倣の技術だ」と。
EVは火事が多く、その火消しが困難であるなど、製品そのものに大きな欠陥があります。EVで世界を席巻する中国は、今や自動車生産1位になりましたが、それは環境原理主義のEUを取り込んでEVの振興に協力させるなど、世界戦略の結果です。狙うのはトヨタ潰しであり、自動車産業の裾野の広さを考えると、これは日本の製造業潰しでもある。
日本も早く脱炭素原理主義から目覚めねばなりませんが、もう一つ、中国との対抗でも中軸に据えねばならないのが汎用AI(AGI)です。今、これを巡って米中覇権最終戦争が繰り広げられようとしており、先に人間の頭脳を超えるシンギュラリティに達してAIを制した国が世界を制するとされます。AIは国家ごとに価値観が違うAIになります。
話題のディープシークは習近平や天安門広場について尋ねても、まともに答えません。全体主義思想の中国がAIで世界を支配することになれば、世界は万能のビッグ・ブラザーに人類が支配される、ジョージ・オーウェルのディストピアになる。これに対抗すべく、トランプ政権の米国は、スターゲート計画でAIに75兆円を集中投資するなど、必死です。
そこに孫正義氏が15兆円の巨額投資をすると言うのであれば、この際、日本の国柄や国民性を反映した日本型AIに、日本政府が毎年度、国債増発によって10兆円規模の投資をすべきでしょう。現在、日本のAI拠点となりつつある東大をシリコンバレーならぬ「本郷バレー」として世界中の人材を呼び込み、世界のAI開発のメッカを目指す…。
いま、予想を超えるスピードで進化を遂げているAGIへの投資こそ、国の盛衰を分ける国家戦略の中軸に来るべきテーマです。日本は世界一の対外純資産残高の国です。対米投資残高世界一の国が米国に回すおカネを151兆円まで増やすと言うなら、むしろそれを国債で吸収して国家投資を…国債増発のネックを解消する松田プランがあればできます。
これだけではありません。AGIの進化は人類史始まって以来の大変革を人類社会にもたらすでしょう。人間の価値観や生き方まで変えてしまいます。日本で早くからAIに着目し、これを幅広い社会的な視点から研究してきた経済学者の井上智洋氏からお聴きした話は、予想を超える内容でした。今回は以下、その内容をご紹介します。
●どこまで知性を代替?推論をするAIが出現、完璧な報告書を書く、人間は勝てない
井上氏によると、「AIを制する者が世界を制すると2013年頃に言っていたが、みんなポカンとしていた。他の技術とはレベルが違う。10年ぐらい、話が日本では伝わらなかったが、米中はいち早く気付いた。スターゲート計画、そこにソフトバンク。」
「去年、汎用人工知能が出現した。人工超知能までが出現する。人間の知性のレベルをはるかに超える。シンギュラリティの到来は、カーツワイルが2045年と言ったが、早まっている。そう遠くない未来だ。」
「世の中のデータを収集し終えるとそれ以上進歩しない飽和状態になり、それでAIの進歩も止まると言われていた。しかし、止まっておらず、チャットGPTの中に、推論ができるシリーズが登場した。今までのAIは暗記型。データを収集して知識にしてそのベースでユーザーからの質問に答えるタイプ。受験秀才型。暗記マシーンだった。」
「それに対して、演繹的推論。数学の込み入った問題に答えられる。物理学や化学などでは博士課程の学生が勝てなくなりつつある。コンピュータが答えやすい形に設問しなくても答える。帰納をベースに演繹ができるようになった。元々人間がそう。」
「ディープリサーチと言う。AIが報告書をきっちりと作ってくれる。これでコンサルが要らなくなる。コンサル業界がいずれ潰れると言われている。官僚、学者も…。何かを提言する、リサーチの結果を伝える、そういう仕事にはAIを有効に使える。」
「ただ、独創的な発想や自分の体験でというのはAIにはできない。AIに勝る付加価値をどう生み出すか、それが課題。世の中の最大公約数を集約するというのは、人間は勝てない。労働市場の中で人が要らなくなる。だが、人間の価値が失われるものではない。それは所詮、労働市場での価値だと軽く見なければならない。今までの価値観だと、人類全体がアイデンティティクライシスに陥る。」
●汎用ロボット、フィジカルAI、AIエージェント…秘書も肉体労働者も代替
「肉体労働も代替するだろう。フィジカルAIと言う。汎用AIの次は汎用ロボットと言われている。ただ、まだ料理はできない。お手伝いさんの代替にまでは。それはもう少し先だが、2030年代には汎用ロボットが登場。」
「その前の汎用AIの登場も、予測が早まっている。2030年が予測の平均。2030年より早いかもしれない。2030年には汎用ロボットともに『人工超知能』が。今年は汎用人工知能につながる流れ。AIエージェントが誕生し、フィジカルAIとセットになる。もう、サービスが出ている。人間の代わりに自律的にコンピュータを操作してくれる。ブラウザ操作。」
「こういうもの買い物しておいて、飛行機の予約しておいて。まるで秘書の人に頼むようにお願いができる。自分で検索して悩む必要がない。今年はAIエージェント元年。パソコンでできることなら何でもやってくれる。抽象的なお願いも。金儲けしといて、といえば、自分でアプリを創って金儲けを勝手にする…。」
●イデオロギーによる偏向は…各国に都合の良いAIに
「ディープシークに天安門事件について訊いたら中国語で返事、その問いには答えられませんと。各国に都合の良いAIに。中国だけでなく、米国も若干権威主義的に?イーロンマスクが主導すれば、トランプ政権に都合の悪いことには答えないかも。」
「そんなAIをどこまで信用していいか。一般的な質問なら疑う必要はないが、政治的な話はAIに限らない。テレビもそう。ゆがめられた判断と共に伝えられる可能性。洗脳されてしまう。」
●AIが科学者に、科学は爆発的に進歩、知能爆発、人間は不老不死に
「化学者でない人がノーベル化学賞を受賞した。AIが発見した成果だった。科学的発見にAIが使われ始めている。科学者の役割も減っていく。方向性を指示するだけで、あとはAIが。科学技術が爆発的に進歩する。2030年代にそれが起きる。」
「そこで重要なのは、AIがAIに関する研究をすること。AIが爆発的に進化する。知能爆発。AIを無数に増やせる。10年間でそれまでより多くの科学的発見をしてしまうだろう。」
「医療も発達し過ぎとなり、皆、200~300歳も生きる。今、既に、不老不死が視野に。若返りも。『寿命脱出速度』。一年間に一年以上寿命が延びる。いつまでも寿命に追いつけない。老いてはいくが、平均的な健康に気遣っている人はなかなか死なない。2030年ぐらいに。その後、老いも無くなる。次に、2030年代に若返りに。永遠の若さを手にできる。」
「カーツワイルは1日100錠以上のサプリで2030年代まで生きて、永遠の生命を手に入れると。彼の予測はおおまかに当たってきている。少子化も経済的な問題ではなくなる。」
●根本的に違う社会に、脱労働社会での価値観とは?
「狩猟から農耕に1万年前、産業革命、何度か変革。そこから3つめの変化が訪れる。それは産業革命の変化を超える。人間はやることがなくて永遠に生きる?のんびり過ごすことにいずれ人類は慣れる。昔の貴族。社交をする。遊んで仲良くする。」
「AIに勝てなくても自己表現は楽しい。Youtubeは皆さん今もやっている。たとえ売れなくても。囲碁や将棋では、人間なのに皆さん頑張っているね、の世界にもうなっている。」
「働かなくて良い社会に。労働は人間にとって本質ではなく、近世の国家が他国と競争するために国民に押し付けたもの。労働しなければというのは洗脳。今後必要か?その道徳を疑い始める時代に。労働をしたい人はそれでいいし、趣味や家庭を軸に生きていく人はそうすればいい。脱労働社会。労働は人生の一つでしかない。」
「基本はベーシックインカムで生きていくことになるが、もう一つは資本家として生きていく。労働分配率は賃金の取り分。資本分配率は利子と配当、投資のリターン。世界的に6:4だが、後者の資本分配率が上がっていく。労働者を必要としない。AI購入にカネ。資本を持っている人が有利な社会に。国が丸ごと資本家として生きていく。」
●米中AI覇権戦争と日本の立ち位置、毎年10兆円の国家投資で「本郷バレー」を
「科学技術が爆発的に進歩し、中国が先にシンギュラリティに達すると、覇権。経済も発展するから、日本との紛争になると、アリと象の闘いに。ゆえに日本もいかにAIの技術の進歩をするか。」
「必要なのは、日本が世界で最初にシンギュラリティに到達する心構えだ。それでも4~6位か。米中に敗けないぞ。国家予算の10%をAIに投資。10兆円、国債を発行して、将来の為だから。」
「日本には人材が少ない。もっと力を入れて人材を育てていたら良かったが。秘策がある。10兆円の一部で世界中のAI研究者を日本に引っ張って来る。それも根こそぎという気持ちでやって、来るのは1割ぐらいか。東大の横に住まわせて研究センターをつくる。」
「日本政府も最近はがんばっている。規制も緩い。他国からも日本に出てきている。AI研究のメッカに。東京に行けば世界最先端のAI技術に触れられると。『本郷バレー』。本郷の辺りに関連企業の集積。松尾豊先生が既に東大で。シリコンバレーに勝つ勢いで。」
「1980年代なら、よし、やろうだった。半導体もそうだった。そういう意気込みがなくなっているのがいまの日本。アニマルスピリッツを取り戻して世界一を目指すべし。」
「人間は義務で動くのではなく、何をしたいのかで動く。価値観の転換がうまくいけばユートピアになる。」
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