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  • 執筆者の写真松田学

なぜ選挙にカネがかかる?裏金問題、安倍派前議員の告白~政治の仕組みの再構築で信頼回復への説明責任を~

「見ざる言わざる聞かざる」の「三猿」ではありませんが、政治の世界には「三ない」があるようです。「見せない、言わない、聞かせない」…。先週ようやく開催に漕ぎつけた衆院の政治倫理審査会に向けて、自民党が当初、テレビ入りの拒否も含めて非公開を主張したことには多くの国民があきれたことと思います。そんなに恥ずかしいのですか?


人は隠されると見たくなるもの。全部見せるよりも「チラリズム」の方が欲情を掻き立てられるものです。隠せば、やっぱり何かある…と追及したくなるのに、危機管理のイロハすら知らないのか?ガバナンスの欠如した自民党、ここまで落ちぶれたかと思わせるものがありました。さすがに岸田総理自ら出席するとの決断でフルオープンで6人の出席となりましたが、この往生際の悪さが自民党に対する不信感をさらに強めることに…。


かつて私が財務省で全国の税関約1万人の人事管理の責任者の立場にあったときに、不祥事対応も色々といたしましたが、その中で特に印象に残っているのが、定額で支給される出張旅費について、実際には格安の航空券などを購入することで浮いた差額を出張先での懇親会費など私用に充てていたという「事件」です。これは税関だけでなく、恐らく何の疑問もなく多くの官庁で行われていた「慣習」で、特に給与が高くない若手職員は助かっていた慣行だったと思いますが、会計検査院からの厳しい指摘で表沙汰になりました。


確かに、公費使用の在り方として望ましくないのは事実。結果として私は百数十人の税関職員の「処分」に携わることになったのですが、真面目に仕事をしていただけの職員たちを内心、可哀そうに思ったものです。しかし、不正は不正。毅然と対応しなければ税関に対する信用は傷ついてしまいます。そこで打って出たのが先手対応でした。


まず、主要な国会議員たちへの「根回し」。私たちはこんな不正をやっていたと説明し謝罪して回りましたが、議員のなかには、「何が悪いの?民間でもやっているんじゃない?」、「役人だから悪いということになるんだ」などという同情の声も…。そして、記者から言われる前に当方から記者クラブに申し入れ、洗いざらい「不正」の手口?を詳細に明らかにしつつ「謝罪会見」をいたしました。結果としてメディアでの取り上げ方は、官僚バッシングが盛んだった当時としては、予想よりもはるかに小さな扱いで済みました。


かつてバブル崩壊後の不良債権処理もそうでした。不良債権の規模をまだ隠しているのではないかという疑心暗鬼がマーケットに不透明感を蔓延させ、それがさらに資産価格を下落させて不良債権額が膨らんでいくという悪循環に陥っていた時期が長く続きました。資産デフレがようやく止まったのは、これですべてが開示されたという前提で某銀行への公的資金注入に至り、金融当局に対する不信感が払拭された時点だったと記憶しています。


今回の政倫審の問題も、岸田総理が自ら政倫審に出る決断をすることで局面が打開され、政府予算案も自然成立を待つのみのタイミングでの衆院通過となりましたが、では、これで政治への不信感の払拭に至ったかといえば、先般の「自派閥解散」と同様、全くそうではないでしょう。政倫審での総理の説明はすでに報告された内容を繰り返すだけ、他の5名の自民党からの出席議員も知らぬ存ぜぬを繰り返すだけ、「三ない」のうち改善したのは「見ない」、「聞かせない」だけで、「言わない」は依然として続きました。


これではフルオープンにしたところで、そもそも何のための政倫審だったのかと言われかねない「茶番」?またも岸田総理の単なるパフォーマンス?不信はかえって増幅した?


やはり、求められているのは空疎な説明ではなく、国民が成程と納得するような新たな仕組みの構築でしょう。そもそも「責任」(responsibility)と「説明責任」(accountability)とは異なる概念です。前者は、辞職であれ懲罰であれ、事態に対して負うべき義務の遂行ですが、後者は、事態を打開し改善する方策や行動を遂行することで信頼を取り戻すことをも含む意味での責任です。これは政治が果たすべき機能そのものともいえます。


過日、松田政策研究所CHでは、かつては民主党、その後、自民党で安倍派の衆議院議員を経験された長尾たかし氏をお呼びして、政治とカネの問題について思うところを語っていただきましたが、予想以上に踏み込んだ発言でした。


ここでも強調されたのは、疑惑をかけられた議員であるがゆえに為すべき責任として、現職国会議員にしかできない新たな立法措置に率先垂範して当たること。正に与党に問われているのは「説明責任」。今回は、この長尾氏との対談の内容をご紹介いたします。


知ることも疑問を抱くこともなかった…最初から記載していればよいこと

長尾氏によると…「実は自分も当事者。5年間で612万円の不記載があった。12月から1月にかけて自分も秘書も任意聴取を特捜部から受けた。不記載を認め、派閥の慣習に疑問を持たず、そのままこんにちに至った。派閥からのキックバックは記載するなとの指示は受けていない。20年間近く続いている慣習なので、よもや派閥自体が不記載をしていたことは今回初めて知った。うちは使途を明らかにしていたので、特捜の任意聴取の中で、全額政治資金に使われたと判断するということだった。他の事務所は分からないが…。」


「本当に悪しき慣習だ。まずは政治資金規正法の中で、連座制や外国人へのパーティー券販売を規制するべきだ。もう一つ、注目されていないのは政党助成法。政治家個人への支給は使途に制限を設けていない。この第4条を変えようという議論が与野党からも出ていない。いずれにせよ、政治資金規正法がザル法だと言われない法構築が必要だ。」


「疑問を抱くことは全くなかった。キックバックそのものは良い。不記載がなぜ行われたのかといえば、グレーゾーンがある。いろんな永田町のたしなみ、人間関係の構築もそうだ。霞が関との付き合いなども派閥で教わる。なかでも清和研のパーティー券は売れる。来ていただくと大物政治家が勢ぞろいだから。疑問に思わなかったことが最大の落ち度。今となっては、とんでもないことをしていたと言うしかない。」


では、事件の背景は…?「共産党の赤旗が発覚の一年前から記事に。学者が告発した。かつて安倍さんが知り、ダメだと言ったことがあったが…。今思えば、昨年の直近の5月の清和研のパーティー券は売らせていただけなかった。売れないので、と。その時は不記載問題があるとは知らなかった。その時点で派閥の幹部の中で深刻化していたのだろう。」


では、何がネックになるから不記載の慣行ができたのか…?「自覚はなかったが、派閥全体の流れの中で秘密を持つことが結束につながるとか…。そういうことを考えないと、なぜ不記載にしたのか?うちの事務所の場合は、最初から不記載にする必要がなかった。慣習に流されたという以外にない。最初から記載すればよいこと。」


実際にはどんなことにおカネがかかっているのか…普通にやって年間5~6千万円

「自分クラスの国会議員はみんな多額の政治資金を使っている。議員同士が集まると、今月の支払いどうしようかと…。潤沢ではない。裏金にするほど、私的流用するほど、良からぬところに使うほどの余裕がない。おカネに困っていた中で、ありがたく使っていた。」


「政治活動や選挙におカネがとにかくかかる。元々そこのところがある。普通にかかるおカネで考えても、うちの場合は秘書が9人いた。それは中規模。普通で5~6千万円の出入りになり、選挙の時は1億円の出入りになる。そこには、秘書を抱え、地元回りに普通にかかるおカネの話と、よもやという話がある。要求されても受けてはいけない話がある。あとはグレーゾーンだ。」


「政治とカネの本質は、衆議院と参議院では地元活動の質と量が違う。なかには、有権者と政治家との間で好ましくないやり取りを振られたり、受けたらズブズブいくとか。衆議院議員の場合、それをやらなければやらないで、常在戦場の選挙に勝てるかといえば勝てないということになる。結局は選挙活動につながるので…。」


「与党の場合、とにかく陳情が多い。公のためになるものもあれば、個人的なものも地元にはある。受けないと、役に立たない議員だと触れ回られる。自分はいっとき300件以上、陳情を抱えたことがある。さばくためにどうするか。特に国会中は代わりに秘書が対応するしかない。その秘書もわかっている人でなければならない。10~20万円では優秀な人材がこない。中小零細企業並みに経費がかかる。いい人材がほしいし、手放したくない。」


「地元の有権者からの期待があり、応えねばならない。有権者の側の意識の問題は確かにあるが、現実には常にジレンマがある。議員事務所でなんとでもなる話でもない陳情も多い。それらを追及すれば汚職につながりかねない。」


「補助金の申請の仕方が分からないからと、一緒に書いてあげるぐらいはいいし、アドバイスはできるが、『なんとかしてくれ』となると…昔は黒電話一本で予算付けというシーンがあったが、今はあれはできない。こちらはおっかなくてやれない。国会開会中でも一日二往復、地元の宴会に行きます、と。果たして国会議員の仕事の本分か?選挙対策だ。選挙が仕事になっている。参議院だと地元対策の質が違うだろうが…。」


不記載の裏金と政策調査費とは分けて考えるべき…前者の「雑所得」の認定は国税で

国民が納得するまともな改革案は出てくるのか?…「こういうときだからこそ、当事者だった不記載組は連座制と外国人によるパーティー券購入の規制といった改革に率先して取り組むべきだ。3月に党大会がある。ここで起訴された会計責任者について、党規約の中での処分ということで落ち着きそうだ。やはり皆さん、国会議員なので、法律に落とし込む作業をしなければ、永久に政治不信は払拭されない。」


連座制については、外国勢力によってスパイが事務所に入り込むケースのことを考えると、色々と問題があるのでは?…「その問題は確かにある。それを含めて議論すべきだ。議員を貶めるために故意に不正をする。それに対してはどうしたらいいかの議論すらない。全部パッケージで連座制をやることの不具合も議論すべきだ。」


確定申告で怒りが高まっているが、課税の関係は?…「課税されなければいけないのは政策活動費。これについては国税庁からの国会答弁で、年度の余りは雑所得になると。そもそも裏金には二種類ある。一つは不記載。もう一つは政策調査費。」


「前者は政治資金規正法のもとでのキックバック、中抜き、派閥のプールの問題であり、野党はほかに錬金術がある。限りになく黒に近い。だが、これらは所得の証明ができない。秘書が取りに行き、秘書の名前で持って帰るが、自分の預金通帳に入れるとなると、自分の所得になってしまう。脱税の前に業務上横領になる。しかし、所得が客観的に証明できない。だから、現金で残ったおカネをどうするかの議論が進まない。世論では『雑所得』と言うが、雑所得であることの書類上の証明が出来ない。コロナの持続化給付金の際も、昨年の所得証明ができないということが起きたのと同じ現象だ。」


「これに対し、政策調査費は法律ではめることができる。年度内に政治活動として使用しないと所得になる。戦々恐々としている先輩議員がいるだろう。しかし、使途を明らかにしなくてよいと法律に書いてあるので守られている。」


「もう一つの雑所得のほうをどう乗り越えるかだ。個人的な使途に使ったと言われても、証明できない。自分のことを言えば、銀行の資料は全部提出したが、もう特捜部は分かっていた。秘書がこの日に受け取ったという書類をもっているから。その後に自分の口座に入金があったかどうかを調べていた。実際は金庫にあった。だからと言って、政治資金なのか個人所得なのか認定ができない。現金は何色にも変わる。全てを銀行振り込みで受けて、特殊なカードを持たせる。そういう議論をすべき。」


(松田は)税務署長、国税局査察部長を経験したが、そもそも所得の認定自体、専門的な国税による積み上げが必要であり、国税が認定すれば良いのではないか?…「その通りだ。国税には『実質判定』という言葉がある。これを国税がやればいい。国税が調べればよい。特捜の捜査が終わってから、国税が全部入るのはありだと思う。」


●与野党ともに錬金術がある…派閥をなくしてもカネは必要で治らない

「派閥を解消しても不記載はなくならない。自分は3回、自分で収支報告書を書いたことがある。本当にこんなんでいいのかと思った。誰でも書けるお小遣い帳だ。金融機関にいたときに財務諸表や損益計算書などを扱ったが、それらはパッと見てすぐにわかる。しかし、こっちは見ても簡単なだけに、中身が分からない、どんなに帳簿をつけても、書くか書かないかで決まってしまう。真実を欠くか書かないかだけの違い。法律改正をしてもなくならないでしょう。」…そもそも全体を把握する仕組みがない


「いろんな錬金術がある。3,000万円入り、1,000万円は自分が使い、残り2,000万円は政治資金に入れれば非課税にできる。選挙が終わった残金も非課税だ。野党もそこはいじられたくない。現行では、選挙の残額でも非課税だと書いてあるので。」


では、野党は?…「旧民主党でいろんな景色を拝見した。自民党は自分たちで集める文化。旧民主党は上からおカネがおりてくる。給与天引きで組合員からの集金は楽勝だ。企業の人事課と経理課がやっている。効率の良いシステム。党本部からおりてくるおカネは、自民党のときより多かった。それを全部候補者や議員が使うわけでもない。」


「辻元清美氏が秘書給与疑惑で逮捕された。有罪判決だった。あれは旧民主党の錬金術の一つだった。ほかにもまだある。今やっているか知らないが…。派閥にも色合いの違いがある。パーティー券も不記載、中抜き、派閥が取る…色々なパターンがあり、政党間でも文化がそれぞれ違う。」


「政治に限らず、ビジネスをやると、従業員9人の会社で製造業なら、もっとカネがかかる。政治家事務所は設備投資がないからだ。ただ、こちらは寄付以上のおカネが増えない。組織を動かす以上、これだけの仕事のボリュームなら普通にかかるおカネだし、政治だけがおカネがかかるわけではない。次の選挙に勝つためにたくさん雇って、スタッフを増やして。選挙区の広さもある。小選挙区の中には山梨県や静岡県と同じ広さのところがある。事務所は3~5カ所必要だろう。何らかのビジネスであっても普通にお金はかかる。」

 

…以上、長尾氏の改革提案の方向には基本的に賛同しますが、やはり、そもそも問題の根っこにあるのは同氏が言うように、政治活動も選挙もおカネがかかるビジネスになっていることでしょう。そもそもおカネがなければ人が動かない政治の在り方を変える必要があります。その答えが、特定の理念のもとに集まった党員たちがボランティアで選挙活動を担う「近代型政党」ですが、日本でこれを営んでいるのは、収入の多くを機関誌収入などで賄う共産党と公明党だけでした。


参政党はこの近代型政党を、共産主義思想でも宗教思想でもない理念(日本の国柄)をもって実現している日本唯一の政党であり、政治活動への国民参加という本来の民主主義の在り方を体現している政党だと考えています。この党が党勢を拡大していくことこそが、政治が国民からの信頼を取り戻す上で最も有効な道かもしれません。

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