• 松田学

自粛からの出口をどうする、「神の国」ニッポン~今回の経済対策で消費税減税は筋違い~

このところ感染者数が急増し、小池さんからはStay at home!!、安倍総理も油断禁物!!との週末の記者会見。いよいよ緊急事態宣言か、コロナとの戦いは長期戦…の声も出ていますが、他方で多くの国民の最大の関心事は、この自粛はいつまで続くのか…?


現実問題、いまの状態を半年も1年も続けるわけにはいきません。そろそろ出口を見据えた議論も必要です。では、どこで切り替えるのか。これは政治判断だと言われますが、英国では肝心のジョンソン首相は陽性反応、ドイツではメルケルまで隔離状態…彼ら政治家たちにとって、このウィルスが手に負えない難問であることを象徴するかのようです。


政治家として有権者に先行きの展望を示せないなら、せめて経済で…、大統領選を控えるトランプは2兆ドル、安倍総理も週末の会見で「かつてない規模」の経済対策を表明しました。一部論者は消費税の減税を声高に叫んでいますが、何が妥当な政策なのか…。


●イタリアからの便りと「東京土着ウィルス」

街が死んでいるのが欧州。いつも私のFB記事を熱心に読んでくださっている、イタリア在住の日本人オペラ歌手、山田恵子さんから週末にこんな記事が届きました。(抜粋)


「企業やお店もほとんどお休みで、外を歩く人もまれです。用のない外出をする人への罰金が、200ユーロから 400~3,000ユーロ(36万円)に値上げされ、それも怖くて外に出られません。どんどん規則が厳しくなっています。ランニングや犬のお散歩も家から200m以内。家の周りをグルグル回れと…。食品のお買い物も町内から出てはいけない…で、私の住む小さな町には 八百屋さんやお肉屋さんなどの個人商店がありません。普段は週1~2回の青空マーケットでお買い物をしていたのに、それもなくなり、スーパーマーケットしかないです。あの薬品臭いお魚は頂けませんが…。スーパーも少人数しか中に入れず、1m以上間隔を空けた、長い行列です。


自分の畑に アスパラガスの収穫に向かった人が罰金を取られたそうで、感染の危険のなさそうなことまで、ずいぶん厳しく取り締まっているようです。


この小さな町にも感染者数人と死者も出ています。でも、この州最大の都市ミラノが、爆発的な感染の拡大にはなっていなくて、まだ救われています。ミラノがもしベルガモのような状態になったら、どんなに大変なことになるか…」


これと比べれば、これまで、抑え込みに成功している日本は世界の中でも優等生といえます。以前も本欄でご紹介した東大医学部出の私の友人で、某国立大学病院などで現場の第一線で活躍している臨床医は、「小池声明につながった『東京での増加』は、それが武漢ウィルスか東京土着のウィルスか確証はありませんが、見つかり方から見て後者が殆どだと思っています。原因の第一は『検査数の増加』にあると思っています。」


他のウィルスにも「交差反応」するPCR検査は、私たちと日頃から共存し、普通の風邪の原因となっている土着ウィルスにも陽性反応している場合が多い…現場をみている彼は、この考えはいまも変わっていないとしています。だとすれば、ますます出口の議論が必要。当面は自粛継続による抑え込みが優先されるとしても、いつまでも続ければ経済も社会も人々の人生も崩壊します。最終的な出口をどうするのか…。


●集団免疫と出口へのリスクコミュニケーション

この問題を考える上で、最近出てきたのが集団免疫の考え方。ウィルスが感染拡大を続け、最終的に多くの人が感染して免疫ができれば、ウィルスは新たな宿主を見つけるのが難しくなり、感染拡大は自ずと止まるだろう。このような現象を「集団免疫」と呼びます。


感染症に対する一般的な考え方として、そもそも全員が予防摂取を受ける必要はなく、1人が何人にうつすかという「再生産数」が1だとすると、半分の人が免疫を持てば、それ以上は爆発的な流行にならない、ウィルスをゼロにするということではない、それではコストが大きい、とされています。

Imperial College論文もそうした見方であり、時間をかけて人口の半分が免疫を持てばよいと割り切りをするしかない。日本であれば、最大6,000万人の感染まで行くことぐらいは覚悟する。問題は重症患者をケアする対応ができるかどうかだということになります。


そこで、ピークを遅らせ、人工呼吸器が必要な人を人工呼吸器の数の中に収める。再生産数が2を超えると、日本でも人工呼吸器のキャパシティを超えてしまうようです。アゴラ代表の池田信夫氏は、3月23日の時点での私との対談の際に、日本の現状は再生産数が1を下回っており、すでに日本では集団免疫に近づきつつある、問題はそれが安定しているかどうか。現時点では、自粛をやめると再生産数が上がっていく、としていました。


ここで重要なのは、自粛モードからの切り換えのためには、ある時点で、再生産数が1をある程度上回ることを容認せざるを得ないということです。インフルエンザなどもそうであるように、新型コロナウィルスと共存するとの割り切りがどこかで必要ですが、それでワクチンができるまで抑えられるのかという話になってしまいますし、世界中で感染者が増える中でこうした議論はしにくいのが現状です。すでに日本の国民の多くの間には過剰なまでの規範意識ができてしまっており、それは意外と長く続くでしょう。


1を上回ってもオーバーシュート(この言葉は感染爆発を意味するものとしては間違った使い方だと思いますが…)はさせないようにしていく、その状態を容認しながら、影響が少ないものから活動を再開してゆっくりと切り替える。インフルエンザで毎年、1万人が亡くなっています。最終的に、通常のインフルエンザ警戒並みの体制に戻していく。


そもそも世の中にリスクゼロはありません。再生産数を1のままで永遠に抑えられるならリスクゼロの考え方になりますが、いまの厳戒態勢を解けば、いずれ1以上になるのは必定だとすれば、大事なのは爆発的にならないようコントロールしていくこと。


池田氏は、そうした「かじ取り」を、インフレ目標のような再生産数の目標設定で行い、そのための指標を考えるべきだと提言しています。これは政治家の手に余る、まさに専門家会議が判断していく問題。このオペレーションの制約条件は、医療資源が枯渇しない範囲ということになります。イタリアは医療崩壊、韓国はギリギリ、日本はまだ余裕…。


リスクコミュニケーションにおいて、政治家には一般受けしないような説得の努力が求められますが、これが政治家にとっては難題です。


民主党政権はそれをやらずに「原発ゼロ」と言ったから大変なことになりました。安倍総理なら大人の対応ができるどうかです。しかし、これをしないと、民主党政権と同じことになってしまう。リーダーとしての鼎の軽重がまさに問われる仕事です。


国民としても、いつまで自粛?で先の見通しがないと、ビジネスも成り立ちません。逆に、見通しがないと、かえって抜け駆けで、K1のようなことが起こってしまいます。中国や欧米のような政府の強権ではなく、日本でできる危機対応は国民が納得してついてくる範囲が限度だと、前埼玉県知事として現場を知る上田清司・参議院議員が語っています。


いま何よりも大事なことは、国民に先の見通し、パースペクティブを与えること。現政権で、そんなことが言える政治家は…?麻生さんとの声も…。こんなときこそ、元総理のあの開き直りが国家国民のために生きる?


●トンチンカンな消費税減税論と緊急経済対策で考えるべきこと

その麻生氏が総理だったときのリーマンショック後の経済対策56.8兆円を上回る規模の経済対策の策定を、安倍総理は表明しました。規模は良いとして、ここで留意すべきなのは、今回の対策は通常の景気対策とは性格が異なり、総需要対策が主眼ではないこと。


今回のショックは需要でも金融でもない「所得ショック」です。ポイントは、自粛期間において、①家計には、所得を補填して安心を与える。②売上げの急減で固定費負担に耐えられない企業には、資金繰りをつけ事業体制を継続させて雇用を維持してもらう。③金融市場には、市場からの資産の購入で流動性を供給して金融の安定を維持する。


どうも、普通の景気対策と混同して、この際、消費税減税を、との声がかまびすしいですが、筋違いでしょう。事業者の対応も考えると実際に小売店で値段が下がるまでには時間がかかります。それが自粛の出口のあとまで長引けば、増税時とは逆の買い控えが起こって、回復すべき消費の足を引っ張りますし、出口の前なら、経理の対応や値札の貼り換えで従業員に余計な仕事で出勤させ、消費者を消費の現場に誘い出して活動させるなど、自粛とは真っ向から反することを国が奨励することになってしまいます。


給付金を出しても貯蓄に回って消費に向かわないという議論もナンセンスです。自粛が終われば、先延ばしされていた消費需要がほっておいても一斉に出てきます。そのときに消費者の手元にお金があるよう、自粛期間中は貯蓄しておいてもらうもの。


大事なのは、家計であれ企業であれ金融市場であれ、先行きがみえずに高まっている不確実性を軽減するために、政府や日銀が民間のリスクを分担することです。


その上で大事なのは、即効性とメッセージ性で安心を与えること。給付金の支給対象を所得で区分して手続きに時間をかけるぐらいなら、すぐにでも国民全員一律に配る。公的融資も、この3月末の資金繰りが喫緊の課題なのに、順番待ちや信用保証協会などの手続きに1か月以上かかるという現状では意味がありません。


こうした短期即効性のほうにもう一つ、大事な視点があります。それは、今回のコロナ騒動が提起した教訓や課題に応える中長期の対策です。マスクや人工呼吸器の部品まで中国依存。サプライチェーンの組み替えに当たっては、市場に答えを委ねる経済政策の考え方を修正し、国家安全保障の観点から各産業の国産化比率を設定するぐらいのことを考えてはどうでしょうか。経済面での国家機能の強化が危機管理の上で問われています。


そして、IT革命に劣後し、中国のような遠隔検査や遠隔学習もままならなかった現状に対し、徹底的なデジタルトランスフォーメーションを促進する。その際、個人番号制の不徹底でできなかったことも多々ありました。ブロックチェーンやAIを活用してトークンエコノミーの基盤を創ることも、即効性ある政策の基盤づくりの上で不可欠です。


有事の際に政策が機動的に機能する仕組みづくりも課題です。消費税減税を言うなら、欧州諸国のように付加価値税率を上げ下げできるよう、インボイス方式や、現場への経理ソフト、電子的な管理を導入することが先です。即時の資金繰り支援を可能にするために、デジタル債権化やAIによる融資審査など情報技術の活用も考えられます。政府暗号通貨「松田プラン」は、緊急事態に国民に瞬時にお金を配れるためにも必要な仕組みです。


●「神の国」日本の感染症対策は古来からの伝統(続…イタリアからの便り)

今回、死者数の多い国は、やたらと検査する割には医療体制が不足する国々。それにひきかえ、日本は、ひょっとすると、強権発動に至ることなく新型コロナを鎮圧したモデルケースになるかもしれません。もしかすると土着コロナまで検出しているかもしれないのがPCR検査。検査をさせないと言って政府の対応が批判されていますが、日本の医療の現場はスクリーニングをかけた上で最後にPCR検査という、慎重な対応をしてきました。


政府が無策だったからうまく行っている…日本はやはり「神の国」?


国史啓蒙家の小名木善行さんは、私との対談で、日本は大昔から感染症対策が確立している国だったと指摘しています。日本は古代から大陸との往来が多く、大陸からの疫病が流行ることが多い国だったそうです。そこで、2,500年前に崇神天皇が神社での手水を義務付けた。手を洗い、口をゆすぐ習慣です。挨拶も握手やハグではなく、畳一枚分1.8m空けて、お辞儀をする。それなら飛沫から身を守れる…。14世紀にペストで欧州の人口が6割減り、中国の人口が1.2億人から2,500万人へと8割減ったときも、当時の日本の南北朝時代に疫病で国内で多数の死者が出たという記録が全くない…。


前述の山田恵子さんからのFBの記事が、こう続けています。但し( )内は私の挿入。

「世の中が悲観的に傾いていますが、楽観論も書いておきます。これが普通のインフルエンザ(通常のコロナウィルスによる風邪?)の一種だというウィルス学者は、日本だけでなく、イタリアにも複数います。5日ぐらい前の段階で、イタリアで本当に新型コロナウィルスで亡くなった人は12人だということです。今年は従来のインフルエンザが抑えられていて、死亡者が去年の10分の1、風邪やインフルエンザとそれがきっかけとなった病気で亡くなった人数とコロナウイルスを合わせると、まあ去年並みか、と…。


今も昔も疫病って感染源は大体中国だそうです。国民の半分が死んだという垂仁天皇の時とか、14世紀のヨーロッパのペストとか…。日本もイタリアも、中国とのお付き合いは慎重にした方が良さそうです。


疫病といえば、イタリアでは、疫病によって偉大な文学作品が生まれています。ボッカッチョのデカメロンとか、マンゾーニの婚約者とか…。疫病と文化とのつながりが…?」


今回の自粛措置でイベントを止められたのは文化に対する弾圧だ…という声も聞かれますが、案外と、みんなで力を合わせて災害を克服してきた清潔で協調性に富んだ日本人が、感染症に強い次の生活様式に向けた新しい文化を生み出すきっかけになるかもしれません。

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