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  • 執筆者の写真松田学

自民党公約は岸田色よりも高市色…総選挙での選択肢とは?~矢野次官発言の欠陥&迫る台湾有事と専守防衛~

「新時代共創内閣」という、なぜか大変覚えにくいネーミングを掲げた岸田内閣が先週14日に衆議院を解散、「未来選択選挙、新しい時代を皆さんとともに」という、これも少し意味不明なキャッチを掲げた総選挙が本日、公示となります。岸田総理の所信表明演説では、人の話をよく聞くことが特技の岸田総理らしく、閣僚たちには「車座対話」を求め、リベラルらしく「多様性」や「格差、分断」を強調し、「日本の絆の力を呼び起こす」…。


ただ、中身の不明な「新しい資本主義」も「成長と分配」も、かつて下村治氏などを囲んで本格的な経済の勉強会を積み重ねて所得倍増などの政策を出していた頃の宏池会と比べると、あまりに付け焼刃的に見えます。所信表明でアフリカのことわざを出すぐらいなら、安岡正篤の言葉ぐらい探してみては…?どうも、近年の政治家は教養が浅く、思考も言葉も軽いように感じます。岸田さんも「しっかり」を連発しているようでは…。私としては、そもそもこの辺りが最近の政治家たちに対して抱く絶望感の一つです。


言葉の軽さは最近の官僚も同じ…?これまでの官邸一極集中の重石がとれたからか、政治家たちに「バラマキ」とモノ申したのが矢野君(財務事務次官)の文芸春秋への寄稿論文。あちこちで話題になっていますが、私も、これをどう思うかと、あちこちで訊かれます。現職官僚が発言するのはいいけれど、言うのであればきちんとしたことを言え…。


ただ、彼が言うように今度の総選挙が与野党「分配合戦」の様相を呈しそうなのは事実です。それより、日本には予想外の速さで、安全保障面で台湾有事の危機が差し迫っているようです。もしかすると、日本本土に核攻撃…?この危機にどう対処するのか。岸田総理の決断が問われるのも、総選挙の争点になるべきなのも、むしろこちらかもしれません。


●詰め甘で意味不明な「新しい資本主義」よりも、自国への危機感の醸成を

まず、岸田総理の所信表明演説のなかから売り物の「新しい資本主義」について何を言っているかを見てみますと…最初に「経済を立て直してから財政健全化をする」と、財政再建に言及した上で、「分配なくして次の成長なし、成長と分配の好循環」を謳っています。


そして、成長戦略には、①科学技術立国の実現、十兆円規模の大学ファンド、②「デジタル田園都市国家構想」、③経済安全保障、④人生百年時代の不安解消の4つの柱を立て、分配戦略には、①株主、経営者、従業員の「三方良し」の経営、四半期開示の見直し、賃上げ企業への税制支援、②教育費や住居費の支援、子育て世代への配慮、③看護、介護、保育などの収入増、④公的分配を担うものとして財政を捉え、その単年度主義の弊害の是正、科学技術振興、経済安全保障、重要インフラ整備…といった4つの柱を立てています。


問題は、これで何がどのように「新しい資本主義」なのか、「成長と分配の好循環」と言っても何のことなのかは、これからの検討だということ。総理として何かを打ち出すのであれば、もう少しきちんとしたものが準備されていなければならないと思うのですが…。


自民党政調に長年にわたって席を置き、数々の政権と苦楽をともにしてきた政治評論家の田村重信氏によると、同氏がかつて属していた宏池会では、例えば大平さんのときには、下村治、高橋亀吉など、そうそうたる人々が週一回集まって研究会を積み重ねていたそうです。どうも、それがいまの宏池会にはなくなっている…。


所信表明演説の最後に出てくるのは、「『早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め。』一人であれば、目的地に早く着くことができるかもしれません。しかし、仲間とならもっと遠く、はるか遠くまで行くことができます。」これも意味不明。あまり聞かないアフリカの言葉だということですが、ピンと来ない…。そんなの出す?かつての総理は安岡正篤の言葉を引用したり…一国の宰相たるもの、哲学のようなものがほしいところ。そういう深みがなく、自分は何をやるかが出ているようには見えません。


まずは時代認識があるべきですし、全体として少し危機感が欠如しているようです。少子化、高齢化の問題は深刻であり、実質成長率では米英は2.5%成長なのに、日本は1%、一人当たりGDPでは購買力平価では韓国に抜かれている…。そういうことを国民によく分かっていただいて、その上で何をしなければならないかということを出すべきでしょう。


●自民党の公約は岸田公約よりも高市公約に…復活した「党高政低」

そもそも確固たるものがないからなのか、総選挙に向けて経済政策の軸はどんどんブレています。まず、総裁選のときの岸田氏は、所得倍増計画を掲げた池田勇人の宏池会らしく「令和版所得倍増計画」と「分配」を打ち出しましたが、前者は所信表明演説では消えました。これは、実現性の低い目標や政府与党との調整が必要な政策として、ふるい落とされたからのようです。早くも「岸田カラー」が薄まりました。


次に、これらに代わって所信表明演説では「新しい資本主義」が強調され、さすがに経済成長しなければ分配すべきパイもないということでしょうか、「分配」は「成長と分配」に置き換わりました。そして、代表質問への答弁の段階では、ついに「成長なくして分配なし」となり、立憲民主党が主張する「分配なくして成長なし」と一線を画さざるを得なくなりました。さらに総選挙向けに策定された自民党の公約では、スローガンとしては「新しい資本主義」は維持されながらも、その中身はといえば、高市氏が総裁選で唱えていた「大胆な危機管理投資・成長投資」が真っ先に掲げられています。


それだけではありません。「まずは、」として謳われたのが「『金融緩和』、『機動的な財政出動』、『成長戦略』を総動員し」、これはどこかで聞いたことのあるフレーズ、あの3本の矢のアベノミクスそのものです。高市氏は、財政出動の部分をプライマリーバランス凍結にまで、成長戦略を危機管理投資にまで、アベノミクスをバージョンアップして総裁選に臨みましたが、政調会長として岸田氏を押しのけて、これを党の公約にしてしまいました。


どうも、安倍政権で定着していた官邸一極の「政高党低」が、今回は「党高政低」へと転換したようです。公約作成過程では、岸田氏が総裁選で掲げていたものから抜け落ちた目玉政策が少なくなく、「岸田カラーが薄い」との声が漏れ聞こえてくるとか…。「公約はあくまでも党としての公約だ。抜けているものも多少あると思うが、内閣でしっかりと進めて(もらえばいい)」というのが、高市政調会長の弁。「財政健全化」も抜け落ちました。


「令和版所得倍増」や金融所得課税見直しのみならず、分配政策の柱だった子育て世帯の住居費・教育費支援も、健康危機管理庁や科学技術顧問の設置も、公約から脱落。党内からの強い反発を受けて、役員任期の3年制限を柱とする党改革も抜け落ちました。


公約の作成過程では官邸と党の間で激しいせめぎ合いがあり、公約案に対して、岸田総理に近い官邸幹部が赤ペンを入れて党に戻すと、政調幹部が「出入り禁止だ」と激高する場面もあったとか。党の政調は高市氏のもと、古屋圭司会長代行ら保守系議員で固められ、公約は高市氏や安倍氏が主張する保守的な政策が目立つ内容になりました。


●史上最速?へと衆院解散を急いだ理由~今回もアベノミクス選挙か?~

もともと自民党は、国民各層からのあらゆる要望に応える「国民政党」を自称する政党。野党の政策まで幅広く取り込んで選挙の争点にならないようにすることをもって政権を維持してきたことが強みです。特に今回は、「分配」や格差是正を掲げて思い切りレフトサイドにシフトした岸田総理の登場で、野党の立場をなくす戦法に出たかと思われました。


そこで野党は、相変わらずの「もりかけさくら」や甘利氏のカネの問題追及へと走らざるを得なかった。しかし、これでは、岸田総理が「未来選択選挙」を掲げたにも関わらず、有権者は総選挙で何を選択したらよいのか分からなくなるところでした。


それが高市氏率いる党内保守派の力で、争点がかなり見える選挙になりそうです。安全保障は後述しますが、経済については明らかに、アベノミクスの是非をめぐる選挙に…。これは2012年以来繰り返されてきた国政選挙のテーマ。安倍政治は未だ健在…。


今回、新内閣誕生からわずか10日での史上最速の解散となりましたが、こうした電撃解散をした理由は、第一に、国民的人気がいま一つの岸田氏のもとでは、総裁選で支持率が高まった状態が続いているうちにと、選挙を急いだこと。第二に、答弁側がやり返すことのできない、野党の一方通行的な政権攻撃の場である予算委員会の開催による支持率低下を選挙を前に回避したこと。第三に、最も大きいのが「ファーストの会」だったようです。


4年前の総選挙における希望の党の動きには、当時の安倍総理も相当な危機感を抱いていたようで、それは小池氏の失言で失速したものの、今回、ファーストが10月3日に国政進出を発表したことは悪夢の再来になる。これが台風の目になりかねないことを恐れた安倍氏が、投開票日を仏滅の日にしてでも、その動きを潰すよう岸田総理に進言したという噂があります。現実問題として、新党を立ち上げて総選挙となれば、一週間は準備の上で極めて大きい。現に、この作戦が奏功し、ファーストの会は国政進出を断念しました。


これは逆にいえば、来年の参院選のときには本当に台風の目ができるかもしれません。小池(都知事)、上田(前埼玉県知事)、松沢(前神奈川県知事)…この人たちがじっとしているとは考えにくく、こうした知事連合が首都圏では大阪での維新のような勢力を築く可能性がないとはいえない。とはいえ、この方々も、もう古顔…というか、もういいんじゃないでしょうか。参政党が新しい政治を創ろうとしているのですから。


●今回の総選挙が本当に「未来選択選挙」なのか?~「体制選択選挙」との声も~

いずれにしても、いよいよ総選挙。衆院解散のとき、本会議場では議員たちが必ず「万歳」を叫びますが、国会議員をクビになった瞬間になぜ「万歳」なのか…。


「景気づけ」「やけっぱち」「内閣への降伏の意」「天皇陛下への万歳」など諸説ありますが、解散後の「万歳」が初めて記録されたのは1897年(明治30年)のこと。「第11回帝国議会」の会議録には、当時の鳩山和夫議長が解散詔書を読み上げて解散を宣言した後、「拍手起リ『萬歳』ト呼フ者アリ」と記載されているそうです。


思い返せば7年前の11月、まさかの「アベノミクス解散」のとき、本会議場で「またここに来る日があるのか」と思いながら万歳したときのことを思い出します。維新から分かれて結党した次世代の党は、まだ党名すら国民に浸透していない段階での解散でした。これでは比例復活も困難となる…絶望的な気分にならざるを得ません。まだ闘ってもいないのに、当時の藤井孝男・総務会長が私を前に、「君のような本当に国政に必要な人材を失うとは…」と涙していたぐらいですから。恐らく、多くの議員が同じような絶望的な気分で、博打のような「現代の戦争」に後先無しで突進していく瞬間なのでしょう。


こうして開始された今回の解散総選挙、毎回のようにつけられるネーミングですが、岸田総理は「未来選択選挙」、「新しい時代を皆さんとともに」を、公明党は「コロナ克服、日本再生選挙」を、立憲民主は「逃げ恥解散」(国会で実質審議すればボロが出るから逃げ切りたい)を、共産党は「ブレ隠し解散」(金融所得課税を引っ込めるなど最初から政権はブレている)を、国民民主は「自己都合解散」(岸田氏を総理にしたのも選挙に勝つための自己都合)を、社民党は「ボロ隠し解散、自民党は変わらない解散」を、れいわは「棄民解散」を掲げました。かつては吉田茂のバカヤロー解散、小泉純一郎の郵政解散、安倍氏のアベノミクス解散、森総理のときの「神の国解散」など、色々ありましたが…。


この総選挙、図らずも岸田氏が掲げる「未来選択選挙」に一定の意味合いが出てきたようです。それは、立憲民主が共産党と選挙協力で組んだこと。各選挙区での野党の候補一本化が自民の獲得議席を減らすことへの懸念から、早速、甘利幹事長からは、これは共産の入った社会主義か、資本主義を選ぶのかの「体制選択選挙」だとの発言が出ています。


●給付金と消費減税による分配合戦は本当に成り立つのか

しかし、各政党や個々の候補にとっては命がけの闘い、一票でも多く票を獲得するためには、コロナで傷ついた国民に向けたリップサービスのために、今回は「分配合戦」に走らざるを得ないようです。ここで給付金や消費税での各党の分配政策を見てみますと…


自民は「非正規や学生に支援」、公明「0~18歳に一律10万+数万円マイナポイント」、立憲民主「消費税率時限的5%+年収1,000万円程度まで所得税免除」、共産「消費税率5%+減収者基本10万」、維新「2年目安に消費減税」、国民民主「時限的消費減税+一律10万円給付(低所得者+10万)」(但し、注目は後述の永久国債)、れいわ「消費税廃止+20万毎月給付」、社民「消費税年間ゼロ」…。自民以外は華々しい分配の競い合いです。


では、分配の財源は?富裕層が一層豊かになることで格差が拡大した米国などとは異なり、中間層から低所得層に脱落する者が増えたことで格差が拡大した日本では、有為な分配政策を採ろうとすれば、その財源は中間層に求めざるを得ず、これは岸田自民党も枝野立憲民主党もともに掲げている中間層の復活にかえって反する結果にならざるを得ません。


例えば、岸田氏が「選択の一つ」として後退させた株式譲渡益などに対する金融所得課税は、立憲民主が増税を掲げ、対立軸になりましたが、その源泉分離の税率を20%から25%に引き上げたところで、税収増は3,000億円。消費税の場合1%で3兆円近くの税収ですから、桁が違います。金融所得増税も、むしろ中間層の税負担のほうを増やすことに…。


結局、本格的な分配政策は、「国債発行競争」になることになります。


●「財政破綻」の定義もない矢野発言は大人気ない…?

そんな分配合戦のなかで危機感を募らせているのが財務省。ここで以下、話題となっている矢野発言についての私の見解を述べてみたいと思います。


政治が最終決断する前に官僚が信念に基づいて発言することも、「万機公論に決すべし」の精神で国民に対して広くこれを発信することも、私としては、大いにやるべし。これまでの官邸一極集中のもとで霞が関の官僚が「宦官」的サラリーマンに堕していたことを考えると、矢野発言は快挙でしょう。言うべきことを言った上で、政治が決断するのであれば、それに従う、それが理想の官僚像。某元文科次官が座右の銘を「面従腹背」としていたのは邪道であり、某財務省の先輩が「面背服従」こそが官僚道だと述べている通りです。


しかし…、私もかつては真面目な?大蔵官僚として矢野君と同じような信念のもと、大先輩である某元大蔵事務次官に「このままでは財政破綻する…」などと書いた論文を、これでオピニョン誌に出してほしいと持ち込んだことがありました。その元次官は「当局の関係者が財政破綻するなどと世間に向かって言っても、かえって効果はない。そういうことはチラリと盛り込めばいいんだ」と私をたしなめ、論文を大幅に直して世に出したことがありました。それに比べて、矢野君はやや大人気ない…。


そもそも、対外純資産残高が世界一の状態を何十年も続けている日本は、債務国とは違いますし、事実上、通貨主権のない国々(ユーロ加盟国などもそう)とも違って、財政の資金繰り破綻はなかなかあり得ないこと。そのような日本で、「タイタニック号」が債務という「氷山」にぶつかって「財政破綻」するとまで言うのなら、どのような意味での「破綻」なのかをきちんと説明すべきでしょう。


もし、日本で「破綻」があり得るとすれば、それはインフレ目標を達成したあとに金利が急上昇することで、金融機関の資産が棄損してカネ詰まりが起こるという意味での経済破綻。確かに、財政面でも、金利が上がれば国債利払い費が何十兆円も膨らみますが、それと税収増とのバランスでどこまで財政が破綻するといえるのか、いままであまり明確な説明がなされたことはないと思います。


そんな状態で、単に国債残高がこんなにあるからと言って、破綻、破綻…将来の国民負担増…と当局のトップ官僚が決めつけのように言うと、「あなた方は不勉強で知らない、俺たちは知っているんだ」との「上から目線」的な感もなきにしもあらず…。


政治家を経験した立場でいえば、多くの政治家はそんなことぐらい分かっています(少なくとも与党議員は…)。しかし、いまの経済状況も政治課題も、それを許さない。だから、財務省も知恵を出してくれよ、でしょう。


●政策論争のレベルに達していない、次官たる者、言うのならきちんと言え

経済との関係でみても、世界最高の対外純資産残高が意味しているのは、個人+法人+政府を併せて4,000兆円近くにのぼる日本の金融資産が、国内で投資や財政に回りきらず、外にマネーが流れて海外を豊かにしている。その割には、日本はそれにふさわしい豊かさを享受していないということ。経済全体のバランスを見れば、日本経済の問題は国内投資が不足していることにあります。平成の30年間、主要国で唯一、成長しない国だったことを財政の立場からどう考えるのか。このデフレの中で民間投資の不足を補うべき財政の役割を十分に果たしてこれなかったことを、当局としてどう説明するのか。


一国の財務次官が政治や世の中に一石を投じたいのであれば、財政経済論として意味ある議論を喚起できるだけの素材を、明快な論理とエビデンスをもって提示すべきではないでしょうか。いろんなことを知っている立場であるなら、本来、こういうことを発信するのが役目なのではないか。少なくとも、世の積極財政論者に、主計官僚は経済を知らないなどといった批判を起こすような言い方はすべきではないのでは…。


要するに、言うのはいいけれど、言うのであればちゃんと言え、ということです。私はこのように答えることにしています。


もちろん、私には、日銀が大量に保有するに至った国債を政府発行デジタル円に変換していく「松田プラン」があります。これをやれば「氷山」は溶けます。これからの課題は、今の仕組みでのもとでは現実に減らすことなど到底不可能な水準になった国債残高を、どうストック処理するかです。


最近では、日本では私が元祖の永久国債論もようやく出てきました(私は現職の財務官僚だったときに「永久国債の研究」なる本を光文社から出版)。国民民主党の大塚耕平参議院議員が、日銀保有国債を永久国債に乗り換えていく案を出しており、私は以前から直接、大塚議員から聞いておりましたが、これは、異次元の金融緩和のおかげで膨らんだ日銀のバランスシートのなかで、国の債務を処理してしまう考え方。積極財政が可能になる現実的な前提が、これで整うことになります。これは同議員が言う前から、「松田プラン」の中に、そのパーツとして組み込まれているアイデアです。


これをデジタル革命と結合すれば、「松田プラン」まで、あと一歩。ですから、根本的なところでは矢野君とは違うメッセージこそが必要だというのが私の立場ですが、そこまでいかなくても、せめて、もう少し政策論争ができるレベルのことを言ってほしいものです。


●東京が核攻撃で都市溶解!?~迫り来る有事で問われる専守防衛の見直しと国民選択~

ただ、総選挙に向けて国民の選択が問われるのは、そして岸田総理の決断力が本当に必要なのは、中身がよくわからない「新しい資本主義」よりも、台湾有事のほうでしょう。安全保障について、岸田氏のイメージよりも高市氏率いる党政調による保守色の強いものになった自民党の公約では、「NATO諸国の国防予算のGDP比目標(2%以上)も念頭に」、「相手国領域内で弾道ミサイル等を阻止する戦力の保有」などが盛り込まれました。


ここで重要なのは、公約にあるように「最先端技術を活用した『戦い方』の変化」に対応するためには、いよいよ専守防衛そのものを見直すことが迫られているのではないかということです。2025年には人民解放軍はほぼ無傷で台湾を統一可能とされていますが、某事情通によれば、もし、来年の北京五輪後に直ぐやるなら、離島だけ占領して、台湾に傀儡政権を樹立させ、第一列島線の尖閣も同時に占領する…とも。沖縄と北海道は中共の支配下に置かれる…とも。岸田総理は「核廃絶」とばかり言っていられないかもしれません。


中国国内は、恒大集団による不動産バブルの破裂、住居費や教育費の高騰、予想以上に進む人口減少のなかで急速に進展する高齢化など、矛盾や混乱に満ち始めています。そんなときに独裁体制が常套手段とするのが、関心を外に向けること。台湾への侵攻は冬季五輪を過ぎればいつあってもおかしくないかもしれません。現に、中国による台湾領空侵犯は頻度を増し、米国による台湾への軍事支援も急ピッチで進展。去る4月の日米首脳会談で、「インド太平洋」で重要な役割を与えられた日本は、そのとき、どうするのか。


人民解放軍は、「日本が台湾に関与したら、日本に核ミサイル攻撃を開始する、降伏するまで和平交渉には乗らない」旨、メディアから発表し、日本のマスコミは一斉に無視したようです。人民解放軍の極超音速ミサイル攻撃に、米国の空母打撃群は勝てず、日本政府には何一つ防衛手段はないとされています。この多弾頭核ミサイルから、東京23区を広島原爆の100~900倍の破壊力で攻撃したら、約10秒~3分で、都市溶解…とも。


自民党公約に盛り込まれた「AI-極超音速などのゲームチェンジャー技術」の中身が問われますが、しかし、それがどこまで確実なミサイル抑止になるのかについては、かつてサイバーセキュリティの研究を経験した私からみれば、敵も味方も技術は日進月歩で、いたちごっこです。確実な抑止技術というものは簡単には成り立たないと思います。


これも専守防衛で考えることから来る限界。基本は結局、国防とは「盾と矛」であり、核の脅威に対しては、やはり、相互確証破壊しかないということになる…。専ら「盾」の発想だけで相手の攻撃を無力化するというのは、ものすごいコストと、それに見合わない大きさの不確実性の問題があります。これは思想というよりも、技術的な問題。やはり、打てば打たれる、それが最大の抑止です。


ここは、専守防衛を公約に掲げる立憲民主とは明確に対立する点です。


中距離核弾道ミサイルが配備された米ソ冷戦時代の西ドイツと、米中新冷戦時代の現在の日本とは、同じような状況にあります。日本として核兵器そのものではなくても、核戦略は持たねばなりません。それが西側各国からの日本への要請であり、日本に核戦略がない状態は、西側陣営全体にとって迷惑な話になっています。今や「アジア最前線」にある日本の国土は、日本だけのものではなくなっている。この時代的要請に応える上で現行憲法では制約があるのなら、やはり憲法改正が不可欠ということになると思います。


いずれにしても、米国による愚民施策が成功した?まま平和ボケしているとされる多くの日本国民が想像もしない状況が着々と進んでいるのは事実。こうした危機感を国民と共有し、明確な選択肢を示すことこそが、今回の総選挙の意義ではないでしょうか。

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