• 松田学

円安で顕在化した日本の脆弱性はデジタル化で克服する~スマホマイナンバーの次はブロックチェーン革命~

とまらない円安が話題になっています。円安が日米金利差によるものだとしても、体質的にはデフレ経済の日本では日銀も利上げの選択ができません。国債発行残高がこれだけ巨額だと、金利上昇は利払費を増やして財政赤字も一挙に拡大させます。利上げができる米国と、利上げもできない脆弱な日本経済…。この対比が円安の最大の要因でしょう。


「為替レートは経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましい」…私が財務省にいた頃は、為替について何を訊かれても、これしか想定問答は書かなかったものです。もちろん、急激な変動には「注視してまいりたい」とも。それが先般、鈴木財務大臣が「悪い円安」と国会で述べたのには驚きました。それぐらい、参院選を控える与党・政府にとっては円安は困った事態。政府は早速、円安や資源高などに伴う物価上昇による国民負担を軽減することを主目的に、事業規模13兆円あまりの経済対策を決めましたが、円安そのものの是正の妙手は正直言って、無いということでしょう。


福島原発事故以降、原発を停止して化石燃料の輸入が増え、日本が貿易黒字国ではなくなったことなど、日本経済のファンダメンタルズの脆弱性が為替市場で強く認識されるようになっているなかで、そもそもデフレ経済の根本にある人口減少など、日本経済の将来の成長に向けた長期的なストーリーが描かれていないことも、最近の円安として顕在化しているのではないかと思います。2100年には日本の人口が半減することは、避けられない未来。人口減少をどう克服していくのかのビジョンが欠如しています。


言うまでもなく、その答は一人当たり生産性の上昇にしかありません。近年、日本がITを中心に資本装備の伸びが主要国のなかでも最も低い国だったことも考えれば、やはりDX(デジタルトランスフォーメーション)が喫緊の課題だということになります。


ルーティンワークはAIに、介護での物理的ケアや建設現場などではロボットに、真正性の証明や手続き・契約作業などはブロックチェーンに委ね、人口減少というマイナス要因を克服する生産性の向上を実現するとともに、それで浮いた時間を、人間にしかできないアナログの付加価値創出に充て、人間らしいコミュニティ型で日本型の経済社会システムを各人の創意工夫で展開していく…私はデジタル革命の意義をこのように捉えています。


さて、その日本のデジタル基盤に、画期的な進歩が起こります。来年3月までに日本国民のスマホにマイナンバーカードのアプリが装着されるようになります。これに関して、私が代表理事を務める(一社)「デジタルアイデンティティ推進コンソーシアム」の主催により、4月21日に都内でデジタル庁後援によるキックオフシンポジウムが開催されました。


このアプリの装着で、これから日本ではいつでもどこでもスマホ一つで信頼度の高い公的個人認証(本人確認)ができる世の中が目指されることになります。当社団は、デジタル庁と連携しながら、この機能の民間でのユースケースの拡大に邁進していくことになりますが、話はここで終わりません。本人確認の次は、ブロックチェーンの国内共通基盤の整備です。自律分散型のWEB3.0の仕組みを基礎に、その上でさまざまなタイプのブロックチェーンコミュニティが自由に展開していく姿を想定しています。


こうなると、政府がデジタル円を発行する「松田プラン」が視野に入ってきます。これは、財政を改善し、金融政策の出口を円滑化しつつ、新たな通貨基盤を創ることで、国債発行の制約を無くし、積極財政を可能にするプランです。


今回は、とりあえず実現することになった「スマホマイナンバー」の意味と、自民党ではデジタル関係の第一人者である平井卓也・衆議院議員のご発言をご紹介いたします。


●スマホマイナンバーの意味と、これを実現へと持ち込んだ経緯

デジタル社会の基盤中の基盤が認証機能です。これまでバラバラだった本人確認機能が、信頼度と安全度の高い公的な基盤によって実現することになります。まずは、政府がマイナンバーを通じて提供するサービスが対象となりますが、当社団では、これの主管官庁であるデジタル庁と連携しながら、民間でのユースケースの拡大や、これに伴うさまざまなイノベーションの推進、それに必要な政策提言などを、民間企業などの会員参加を通じて推進していくこととしています。


いずれ、日本では、スマホでワンタッチで確実な本人確認がどこでも行われ、官民によるプッシュ型のサービス情報の提供と、その手続きがスマホを通じて行われるという、大変利便性の高い世の中が、これで実現することになります。


この「スマホマイナンバー」を実現させたのは、私が東大大学院客員教授としてサイバーセキュリティを研究していた頃から私に知恵を提供してくれてきた二人の情報セキュリティの学者たちが開発した技術を、私が与党と政府に持ち込んだことが契機でした。その後、総務省で検討会が設けられ、昨年の通常国会で成立したデジタル改革関連法で法的な手当てがなされ、現在ではデジタル庁に所要の予算がついて実現へと進められています。


本人確認の基盤ができれば、次は、ブロックチェーンの国内共通基盤を日本で構築することが課題になります。当社団はそれをも視野に、官民での協働を進めていく所存です。そしていずれは、私が提唱する「松田プラン」を始め、日本に世界を先導するトークンエコノミーを構築したいと考えています。


なお、当社団については、こちらのHPをご参照ください。私からのメッセージもご覧いただけます。

https://dipc.jp/%ef%bd%84%ef%bd%89%ef%bd%90%ef%bd%83%e3%81%a8%e3%81%af/


●ブロックチェーン革命と自律分散型のWEB3.0

では、そもそも日本のデジタル革命の現状や課題はどうなっているのか。自分で言うのもおかしいかもしれませんが、平井卓也氏との松田政策研究所CHでの対談は、そのことを実によくまとめた内容になりました。


私は衆議院議員の頃、内閣委員会の理事をしておりましたが、当時、内閣委員長だった平井議員とは、ITの関係で、ずいぶんと一緒に仕事をしました。個人番号制度の運用状況についてエストニアを始めとする欧州各国にともに視察に行ったり、マイナンバーの法案を国会で通したり、サイバーセキュリティ基本法の議員立法は一緒にやりました。


私が東大でサイバーセキュリティの研究に携わることになったのも、こうした私の経験が契機となったものです。そして、情報セキュリティの世界に入り、いまでは日本のブロックチェーン革命の旗振り役を自認しています。


ブロックチェーンは仮想通貨などではなく、社会のさまざまな仕組みに実装してこそ、その本領を発揮します。これから世界はブロックチェーン革命の時代に入ります。そのような未来も展望しながら、以下、平井議員との対談内容をご紹介したいと思います。


まず、30年を超えたインターネットの歴史のなかで、様々なビジネスモデルが生まれ、いまやスマホなしでは生活できなくなっています。WEB3.0(ブロックチェーンを活用した分散型インターネット)も何年か一度に起きるビジネスモデルの入れ替えであり、社会の進化をもたらすでしょう。これは、WEB1.0がホームページの一方通行の時代、WEB2.0が、本来は分散型だったはずのインターネットの世界をGAFAなどのプラットフォーマーたちが中央集権的に支配する時代だとすれば、WEB3.0は、ブロックチェーンの活用で真に自律分散型の仕組みが主流になる時代を迎えるという意味です。


米中勢に占められるプラットフォーマーを取れなかった日本は、電子データが最大の付加価値の源泉となる世の中にあって、寺銭をとられるのみの存在になるところでした。自由で自律的…これは日本の国民性にも適合します。WEB3.0は日本にとって大チャンスです。


●自民党と政府のデジタル施策の現状~スマホの時代とデジタル田園都市構想~

しかし、現状では、冒頭に述べたとおり日本のIT化は遅れが目立っています。ただ、光ファイバーの敷設率が99.9%なのが日本。こんな国はほかにありません。離島でも遠隔診療が可能です。「日本は国民の生命と財産を守るインフラには長けているが、新しいビジネスモデルは遅れている。インフラは進んだが、今までのやり方を変えるのが日本は苦手。今までのやり方を変えずにデジタルを実装しても大したことは起きない。」(平井氏)


「日本にも優れた技術者やデジタルと親和性の高い才能を持っている人は大勢いる。ブロックチェーンもそう。負けていない。量子コンピューターも。しかし、技術をビジネス化してマネタイズするのが苦手。自民党のデジタル社会推進本部では、現在は既存のシステムの保守にほとんどの予算が使われているという状況を変えていこうとしている。」


「自治体もそうだ。ガバメントクラウドも整備して自治体も乗ってもらう。クラウドで全体を作り変える。あとはマイナンバーだ。本当はデジタル庁は規制改革と成長戦略の象徴となるはずだった。そこがまだなので、自民党で自分が中心となって進めている。」


以下、平井氏の言葉を続けますと…「岸田政権が進めているデジタル田園都市構想は、1970年に大平総理が施政方針演説で言っていた田園都市国家構想の思想をデジタルで実現するもの。分散国家の考え方。当時、中央と地方とのいかんともしがたい格差は情報格差だったが、今はそれがなくなった。ならば、大平総理が望んだ地方のサステイナブルな発展は、今なら実現できる。分散しても成長できる国家、人口が減少しても各地域のクオリティ・オブ・ライフが実現できる。」


「デジタル系の企業は本社機能を地方に移している。社員は全国に。今までの仕事をテレワークでというのではなく、新しい仕事のやり方を。東京にいるよりコストが下がり、厚生も高まる。二拠点居住。地方でイノベーションを起こしやすい環境。」


「人間は一人では生活できず、デジタルで人がつながるのがインターネット。それだけではつながったことにならず、リアルな関係を皆が望んでいる。そういう社会を創れる。」


「デジタル庁の役割はデジタル化の司令塔。次の時代を早く引き寄せる。民間とフラットな意見交換で進める。システムの作り方の考え方が変わっていく。まずはマイナンバーカードの普及、企画がデジタル庁、発行普及が総務省、もう普及率は半分になった。これからが大変。登録してマイナポイントと健康保険証と公金受取口座の全部をやると2万円もらえる。そして来年3月にはスマホにマイナンバーカードのアプリが装着される。スマホだけ持っていれば全て完結する世の中になる。しかもセキュリティがさらに上がる。」


「IDチップをスマホに搭載する。そして、いずれ、何もなくなる。自分自身がIDになる。身体の中に入る。まずは今度のスマホマイナンバーにより、スマホで本人確認とサービスが結びつく。お年寄りにとっては、もうIDパスワードは勘弁してくれ…それがなくなる。」


「高齢者はスマホを扱えないと言われるが、そもそもスマホの全ての機能を使いこなしている人はいない。お年寄りにとってみれば、それでも難しいが、80歳ぐらいまではイキイキとして使っている例もある。人が人を助けるのは、どんなにデジタル化してもなくならない。どなたかのスマホで誰かのやりたいことをすることはできる。登録しておけば、どなたのスマホでもできる。助け合いにつながる。」


●すでに始まろうとしているトークンエコノミー

「これからブロックチェーン革命の時代になる。Web3.0にこれだけお金が集まっている。インターネット上に契約書が行きかうのが大革命である。想定していなかった社会になる。世の中を変える。弱点は、電気代が相当高いこと。そこを技術開発しているところだ。」


「これからブロックチェーンが知らず知らずに実装され、レコードが残る。エストニアの国民が自分のログを管理しているのは分散台帳。これが当たり前になる。自分の個人情報がどう使われているかを把握でき、そのログをブロックチェーンで改竄できなくなる。」


「地域通貨…かつてICO(仮想通貨の発行による資金調達)を自治体が一斉に検討したが、どこもやらなかった。今回は知らないうちに、山古志村がトークンを発行してお金を集めて、Eレジデンスを始めている。彼らは集まったお金の使い方にモノ申せる。一斉に各自治体が始める。すでに800人の方々にトークンを配っている。これからは自治体、宗教法人、NPO法人がトークンを発行することが流行るだろう。自民党もトークンを発行する。党員の方々の間で使われる。党員証のようなもの。特典としては、例えば、トークンを10個集めたら総理に会えるなど。ポイントに日本人は慣れている。」


「3~4年前とは違って、今度はいっせいに。いま、その相談を受けている。」


「ブロックチェーンはプロセスの管理はきちんとできるが、KYC(本人確認)は別。そこは今回のスマホマイナンバーの機能だ。本人確認をきっちりとすることが、これから問われる。法改正を考えている。本人確認は厳しくすべき。」


●デジタル通貨と中ロの集権モデルとは異なる日本型ブロックチェーンモデル

「デジタル化が怖いと言っている方々が、今晩のおかずをどうするかにLineを使っている。スマホを使えない社会は誰もが受け容れない。特に、日本は中国やロシアと違って民主的な国。通信の秘密、国家権力もみることはできない。銀行口座も脱税か犯罪者を調べるときしか見ることができない。税金も年金も国民の情報はそれぞれの責任ある役所で分散管理。だから、ログを残して、コストをかけて、中央管理にしていない。バカみたいに分散している。誰もが一元管理できない仕組み。効率は悪いが、国家管理を嫌がる国民への配慮。本人の意思がある時に、それをくっつけるのがマイナンバー。」


「Web3.0でも、日本はまだ出遅れている。民主主義で価値観が同じ国々と一緒になって新しい世界を創っていこう。米国と一緒に、日本にも技術者はいるし、企業も出てきた。」


「どんな分野もディープテックはデジタルと切り離せない。デジタルで本来の基礎研究も促進される。大胆な政策で日本は変わる。」


「中ロのモデルは受け容れられないが、彼らはある一定の枠を超えては広がらない。CBDC、中央銀行が出すデジタルマネーも、中国のいまの国家体制だとデジタル人民元を外に拓けない。彼らは中央管理以外のブロックチェーンはやらない。それ以外の経済圏、民主主義の国々の間で基軸通貨になるのは、ドル、ポンド、ユーロ、円の4つ。それらがデジタル時代の基軸通貨になることを望む国々でやっていく。」


「次は光。今のままだと電力コスト大。電気消費がとんでもない。光は、日本は官民挙げていいところにいっている。それでIDチップも全部変わる。次のチップは全部日本がやるくらいの心構えで臨みたい。日本は何事も最初はいい所に行くが、標準化が苦手なのと、お金を突っ込まないのが欠点。今度はそれを繰り返さない。」


「ブロックチェーンとは考え方である。スマートコントラクトをいかようにもデザインしながら、あとで検証できる。トレーサビリティがある。クラウドのほうは、所有から利用への流れは止まらない。セキュリティも含めて考えれば、ブロックチェーンは実装されていくだろう。日本は結構良いポジションにいる。悪いことをしない国なので、各国が日本に協力する。日本人の潔癖なところが信頼の源泉になっている。」


●自律分散型の上に中央集権型の社会実装~ブロックチェーン革命の未来ビジョンを~

現在、私の社団では、WEB3.0の自律分散型の仕組みに即した国産のブロックチェーン基盤との提携を考えていますが、その上では、パブリックチェーン(誰もが参加でき、参加者が情報を共有し合う方式。ビットコインなどの現在の仮想通貨がそう)も、プライベートチェーン(中央に管理者を置く方式)も、コンソーシアム方式(複数の管理者の合意により運営)も、いずれの方式のブロックチェーンもが、それぞれコミュニティとして自律分散的に展開し、相互につながるクロスチェーンの姿を想定しています。


平井議員は中ロの全体主義=中央管理型と考えているようですが、およそブロックチェーンを社会の様々な仕組みに実装するに際しては、中央管理型が主流になると考えられます。これは中央銀行が発行する西側の法定デジタル通貨も同じでしょう。


「松田プラン」における政府発行デジタル円も、この自律分散型のブロックチェーン共通基盤を民間側で先行的に整備し、その上に展開する中央管理型ブロックチェーンシステムのワン・オブ・ゼムとして載せていくことが想定されると思います。


中国は世界共通のブロックチェーンプラットフォームであるBSNを運営し始めています。いずれ、この上で、世界中のブロックチェーンサービスや、各国のデジタル通貨が展開されるようになることだけは防がねばなりません。そうなってしまうと、中国による覇権的な世界支配は完成ということになりかねないからです。私たちの個人情報や通貨主権は日本の信頼できるブロックチェーンシステムで守り抜く必要があります。


「松田プラン」に向けて、日本では次なるブロックチェーン革命が急がれます。そのために、当社団としては、民間の知恵を合わせ、デジタル庁には、こうしたことを視野に入れた日本の将来ビジョンの構築を働きかけていく所存です。

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