• 松田学

デジタル人民元vs「デジタル円」~日銀コインではなく政府暗号通貨を~

2020/01/27

おかげさまで松田政策研究所からこのようなかたちで毎週、メールマガジンを発信するようになってから、今回で100回目となりました。特に、そのときどきの時事問題を切り口に、私、松田学が考えをまとめております本コラム欄は、その内容には賛否両論あると思いますが、その通り…とのご賛同や、自分はこう考える…と、新たな論点や事実をご教示賜るなど、色々なご反応が返ってくることを楽しみにしながら書いております。なかには、毎号楽しみにしている、いつも大学での授業に使っている…といったお声もあり、もう、やめるわけにはいかなくなりました。引き続き、よろしくお願い申し上げます。

第100回目の今回取り上げる時事問題は、「デジタル人民元」。仮想通貨の基盤として知られるブロックチェーンが、いよいよ法定通貨にも使われる…?私は21世紀は「ブロックチェーン革命」の時代だと述べてきましたが、これが世界を大きく変える動きが本格化し始めました。では、日本はどうするのか?どうも、「デジタル円」が誕生しそうです。

●デジタル通貨で揺れ動く既存の通貨システム 少し前までは、私が「中国が人民元建て暗号通貨を発行する」と警鐘を鳴らしても、あまり反応はありませんでした。それが昨年10月に、中国人民銀行幹部がデジタル人民元構想を発表して以降、急速に話の現実味が増すようになり、最近では新聞やテレビでも頻繁に取り上げられ、私が言っていたとおりの解説まで流れるようになっています。

中国だけでなく、いまや世界主要金融当局の70%がデジタル通貨発行について研究しているとの国際決済銀行(BIS)の調査結果もあります。ただ、すでにフェイブックが提起するリブラ(Libra)が、各国の通貨当局に大きな衝撃を与えていました。

リブラは単に、各国の経済政策のハンドリングを侵害するとか、国際金融情勢を不安定化させるといった経済面を超えるインパクトを生むものです。そもそも通貨とは国家主権そのもの、人々に日常生活で最も頻繁に国家の存在を意識させているものです。もし、27億人とも言われるフェイスブックのユーザーたちがリブラを使い始めたら、国境を超えた「リブラ帝国」が誕生し、世界の政治レジームまで揺り動かすことになる…。

スマホで手数料なしで一瞬で1ドル程度の少額でも世界中どこでも送金できるとなれば、新興国や途上国の金融包摂やユーザーの利便性を十分に顧みなかった既存の通貨システムの側は、言い訳のしようもないでしょう。

中国人民銀行はすでに2014年にデジタル通貨に関する研究チームを結成し、17年には「デジタル通貨研究所」を設立。中国でのブロックチェーン技術のイノベーションには凄まじいものがあり、ビットコインがバージョン1とすれば、現在はインテリジェンス機能を備えたバージョン6まで開発済みとの噂も…。人民銀行も多数の特許を持っています。

●デジタル人民元の脅威 ブロックチェーンはビットコインのように「パブリックチェーン」として使われれば、中央に管理者が存在しないP2Pの分散型の仕組みになりますが、これを中央に管理者が存在する「プライベートチェーン」として通貨を発行すると、発行元が、例えば日本のマイナンバーなどとは比較にならない精度の高いユーザー情報を得ることになります。日本にとっての大きな脅威の一つがこの点にあります。

現時点で中国当局は、国内で使用するだけだ、あるいは人民銀行と銀行の間の決済システムに使用するに過ぎないなどとしていますが、表向きの発言でしょう。いずれ中国が主宰する国際秩序形成ともいえる「一帯一路」構想にデジタル人民元が乗り、米ドルを脅かす基軸通貨化が図られる…。そもそも米ドル基軸通貨体制からの脱却は中国の長年の悲願。米中新冷戦による世界の分断が国際通貨の世界でも起こる…。

思い返すと、リーマンショック直後に私が個人の立場で内々、北京で意見交換した通貨当局関係者たちは「自分たちは米ドル基軸通貨体制から離れたい、まずは米国債を大量売却したいが、どうか?」と私に尋ねていました。それでは世界経済は大変なことになる、中国経済にもマイナスだとして、私は強い反対意見を述べましたが、帰国数日後の日本の新聞に、人民銀行が米国債売却方針を撤回、と出ていた記事をみてホッとしたものです。

中国は現在、ドル建て債務の返済で困っているようですが、「債務トラップ」で知られる一帯一路での手法は、相手国に人民元建てで貸し付け、ドル建てで返済を迫るというものだと言われます。そもそも暗号通貨は貿易金融や国際決済の上で最もメリットが大きいとされますから、デジタル人民元の国際的な普及は急速かもしれません。

すでに日本では中国系電子マネーアプリが急速に普及しています。インバウンドを期待して中国人を「おもてなし」する日本で、一帯一路で使われているデジタル人民元を中国人が使いたいと言ったらどうなるか…。中国当局が人民に対する監視の手段としても普及させたいデジタル人民元や、これと接続する電子マネーを日本人が使用したらどうなる…。

日本としては、通貨主権と国民の個人情報を守り、さまざまな情報技術がフル動員されている「ハイブリッド戦」からも国家を守る必要があります。やはり日本としても、独自のデジタル法定通貨を発行しなければならないでしょう。安全保障の観点からも米ドル基軸通貨体制を死守したい米国は、その保守的立場から「デジタルドル」には未だ消極的ですが、欧州ではECBが「デジタルユーロ」を検討、日銀も欧州の中央銀行とCBDC(中央銀行発行デジタル通貨:Central Bank Digital Currency)の共同研究に入るようです。

自民党の甘利明衆議院議員(党税制調査会長)といえば、私のみるところ、経済と国家安全保障とを結び付ける問題意識では政界を代表する政治家だと思います。私はその甘利氏に対して、昨年4月頃、ある勉強会でデジタル人民元を警戒すべきである旨を建言し、本年1月24日の別のセミナーで講師をされた甘利氏は、これが一帯一路と結び付くことの脅威を訴えておられました。自民党も提言を出す動きが報じられていますが、この1月のセミナーで、私からの質問に答えて甘利氏は、「デジタル円をやります」と明言しました。

●デジタル円が政府発行の通貨でなければならない理由(松田プラン)さて、日本が暗号通貨としてデジタル円を発行するにしても、それは同じ法定通貨であっても、中央銀行である日銀が発行する「日銀コイン」であっては意味がなく、政府が有する通貨発行権に基づいて発行される「政府暗号通貨」でなければなりません。

その理由は、第一に、発行元に集まる個人情報などの膨大なデータを管理する上で、中央銀行はふさわしくないことです。現に、日銀はビッグデータを持ちたがっていないようです。それは、すでにマイナンバー制度で大量の個人情報を目的ごとに分別管理するシステムを運営している政府の役割でしょう。日本は個人情報の国家管理に抵抗感が強い特異な国ですが、中国政府に監視されるよりも日本政府による管理のほうがはるかにマシです。

第二に、通貨とは本来、一種の情報機能ですが、日銀コインは経済的価値にしか関われません。政府コインなら、納税や社会保障などの諸手続きや契約をスマートコントラクトとして内装することで、国民はトークンエコノミーに基づくワンストップ政府の利便性を享受できるようになります。これが、従来の法定通貨に加えて新たな通貨を発行するユーザー側からみたメリットです。それぐらいのメリットあってこそのデジタル円でしょう。

第三に、日銀が発行するコインは日銀の負債ですが、政府が発行すれば、それを日銀が保有することで日銀の資産になります。日銀は、市中銀行を通じて寄せられるデジタル円への購買需要に応じて、資産である政府コインを銀行に売却する。これが異次元緩和政策の円滑な出口になります。同じく日銀資産である日銀保有国債を売却すれば金利が急騰するリスクがありますが、こちらなら日銀のバランスシートが自然に縮小していくからです。

第四に、もし、国民や企業が日銀コインで日銀に口座(日銀ウオレット)を持つこととなれば、銀行業も、銀行による信用創造にとっても、「民業圧迫」になりかねません。

第五に、日銀は政府暗号通貨に対する市中銀行からの需要に応じて、日銀が保有する国債を政府暗号通貨で償還するよう、政府に求めることとすれば、その分、国債は消え、政府暗号通貨に姿を変えて民間に流通するお金になります。国の借金が貨幣になる…。

以上のルールを徹底さえすれば、こんなマジックが、インフレや財政規律の懸念なく実現します。異次元緩和で日銀保有国債は昨年度末で470兆円と、普通国債発行残高の半分程度。その裏側で日銀の負債である日銀当座預金は400兆円。これが、このマジックの上限ですが、十分な金額でしょう。国債を日銀に積み上げたアベノミクスの成果です。場合によっては国債の半分が消える、まさに究極の財政再建です。

以上を含む「松田プラン」の詳細の説明はここでは省略しますが、本プランはまだ、与党などにも持ち込んでいません。私しか説明できる者は恐らく存在しないので、お呼びならいつでも参上するつもりです。日本のためを考えれば、早急な実現が待たれます。

政府暗号通貨はマイナンバーと接続してスマホで使えるようにしなければなりません。ところが、マイナンバーとスマホの接続に必要なシステムの組み替えは、過去の成功体験で新技術への時代感覚を欠いた現在の各界エスタブリッシュメントたちが壁になるようです。私はこの分野の最先端の学者とともに、まずはこの辺りから行動を起こす所存です。

ここは政治の役割。安倍自民党政権が取り上げないなら、他の政権で、あるいは新党を創ってでも、日本の国益のために一年でも早い「松田プラン」の実行が必須と考えます。

最後に、今回のコラムへのご理解を深めていただくために、3つの動画をご紹介します。

・松田学【ニュースを斬る!】パラダイムチェンジに備えよ!デジタル人民元発行か?↓  http://y.bmd.jp/bm/p/aa/fw.php?d=70&i=matsuda_seisaku&c=1937&n=XXXX

・対談「世界の”分断”を生み出すのは?デジタル人民元で世界の通貨の形が変わる!」  ゲスト:早稲田大学公共政策研究所招聘研究員 渡瀬裕哉氏  http://y.bmd.jp/bm/p/aa/fw.php?d=70&i=matsuda_seisaku&c=1938&n=XXXX

・特番『Xcoinとは?日本発のデジタル通貨で対抗せよ!』  ゲスト:作家 竹田恒泰氏  http://y.bmd.jp/bm/p/aa/fw.php?d=70&i=matsuda_seisaku&c=1939&n=XXXX

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