臨時国会の報告と片山さつき財務大臣への質疑~真に「責任ある」積極財政を実現するための提案を続けます~
- 松田学

- 7 時間前
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臨時国会への対応に追われ、このメルマガも一か月以上ブランクが生じてしまいました。この国会で私は5回ほど質疑に立ちましたが、最後まで取り扱いがもめた定数削減法案を通常国会へと先送りすることで国会は会期末を迎え、12月17日に無事?閉会となりました。
衆議院では無所属の3議員の自民党会派入りで与党はギリギリの過半数を確保しましたが、参議院では自民と維新を合わせても過半数には6議席足らず、相変わらずの少数与党。決して安定政権とは言えません。そのような中で法案や予算を成立させるためには野党の協力が必要。連立入りした維新のみならず、野党各党が高市政権から色々な譲歩を引き出す構図が見られ、今回の経済対策や補正予算にも反映されています。
代替財源が未定のままでのガソリン減税、公明などが要望して盛り込まれた子供一人当たり2万円の給付金、国民民主が求めた年収の壁の引上げや自賠責保険料の特会への繰り戻しなどがそうでしょう。結果として連立を組む維新は当然のこととして、公明、国民民主からも賛成を得て補正予算は無事に成立しました。
さすがは「責任ある積極財政」、第一に国民生活の安定と物価高対策、第二に危機管理投資と成長危機による強い経済、第三に防衛費のGDP比2%前倒し達成を柱とする補正予算は総額18・3兆円の追加歳出に対して追加財源は12兆円近くを国債増発で賄いますが、うち、特例公債すなわち赤字国債を8兆円以上堂々と増発するものとなっています。これは積極財政のリフレ派とされた安倍総理のもとでの補正予算でも見られなかったことです。
早速、マーケットは長期金利の上昇と円安で反応し、さすがの高市総理も日銀の12月の利上げを容認するなど市場の状況も気にするようになったようですが、では、何によって「責任ある」を担保するのかといえば、金利を上回る経済成長率によって債務残高の対GDP比を引き下げていくことで財政への信任を確保するというのが国会で繰り返しなされている答弁。しかし、金利は市場で、成長率も民間経済の動きで決まるもの。どこまで政府が「責任」を持って実現できるものか疑問といえば疑問でしょう。
すでに海外では、ミアシャイマー氏やジェフリー・サックス氏といった著名人たちが、そうでなくても多額の国債残高を抱える日本が積極財政に転じることで大変な事態になると警告を発しているとも耳にします。国債増発は問題ない、それによって経済成長が高まればかえってマーケットからの信任は高まるという論者も数多くいらっしゃいますが、国際金融市場は何をもって投機的な売りの材料とするかわからない面もあります。
ならばこそ、政府が自らの措置で「責任」を担保する仕組みを別途講じることが積極財政を盤石なものにする。「松田プラン」はそのための提案でもあります。私が所属する参院財政金融委員会で12月4日、片山さつき財務大臣を相手に質疑をいたしましたが、この提案にいずれつなげる趣旨で今回は、国に借金を原則禁じる財政法4条の見直しと、バランスシートで予算編成をする手法の導入を提案いたしました。
今回の臨時国会ではこのほか、医療法改正についての参院本会議での代表質問、ガソリン減税に関する財政金融委員会での質疑、拉致問題と対ロシア外交について拉致問題特別委員会での質疑、歴史認識問題に関する総務委員会の質疑に立ち、いずれもこれまでは国会で出たことがほとんどない参政党独自の立場からの論点提起をすることで、党員の皆さんの長きにわたる思いを国政の場にぶつけることとなりました。
今回は以下、片山大臣に対する質疑について簡単にご紹介いたします。
●「革命的な質疑」との評も
この質疑についてはジャーナリストの山口敬之氏がご自身のチャンネルで取り上げ、革命的な質疑だった、マスコミではあまり取り上げられていないが、ぜひ、注目してほしいとして紹介してくれました。特に財政法4条を見直せとの部分です。
これは故・安倍元総理も着目していた法律で、安倍さんの思いを引き継いでいる、と。私が質疑で提案した「投資国債」や資産負債のバランスシートでの予算編成は、「日本の形を変える」勇気ある発言だった、と。片山さんも相当、勇気をもって答えていた、と。
私がこの質疑の最後に触れた「松田プラン」も、実は、お亡くなりになる前に安倍氏が賛意を示していたと聞いています。単に減税を叫ぶだけでなく、本当に積極財政を実現するにはどうすればいいか、ここにこそ国会で極めるべき本質的な論点があると思います。
山口氏はこれ以外の他の国会議員の質疑についても、これまで出てこなかった本質的な議論がようやく出るようになった、国会がこのところ急に変わり始めているとしています。これも、参政党の台頭、高市政権の発足といった政治の流れが引き起こしている現象なのかもしれません。
私の質疑について取り上げておられるのは、27:52~です。ご参考まで↓
●財務官僚の意識改革と財政法4条の解説~投資国債の導入を~
片山大臣は大蔵省では私の一年後輩にあたり、私から何度か前任後任の関係で仕事の引継ぎをしたこともあります。在職中は共に緊縮財政のために仕事をし、政治家になってからは積極財政派に転じた点でも同じ立場の片山氏に私から最初にぶつけた質問は、財務官僚の意識改革をどう進めるのか?でした。片山氏は経済のための財政ということを省内で徹底しており、職員たちも理解するに至っている、さすがは優秀な職員たちだ、といった旨の答弁をいたしましたが、果たして財務官僚たちの本音はどうなのか。
私が大蔵省にいた頃は、大臣が何を言おうとも自分たちの使命を貫き通すという気概で仕事をしたものです。片山氏は省内で怖がられているそうですから面従腹背?いつかは元に戻してやると彼らが思っていても不思議ではありません。
そこで私からは、そもそも官僚は法律を守る存在であり、公共事業と出資金と貸付金以外は国が借金することを禁じている財政法4条が財政運営を根本から縛っている、これを改正すべきではないか、という質問をぶつけました。ちなみに財政法4条は、
「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。」と規定しています。
この条文で例外として発行が許されているのが建設国債。それ以外は赤字国債として法律違反になっています。
これを法律違反にしないために5年に一度、特例公債法の立法で赤字国債を特例として合法化して発行しているのですが、近年では国債の大半が赤字国債、とても特例とはいえません。これは根本法規である財政法の趣旨に反する事態。この状態を少しでも改善すべく赤字国債の発行を減らすのが使命と考えるのが、法を執行する立場である役人として当然の行動原理ということになります。真面目な役人ならそうでしょう。
そこで、前政権の時に編成された今年度当初予算では、インフレで増えた税収をインフレで苦しむ国民に減税で還元するのではなく、この税収を赤字国債発行額の減額に充てることが優先されました。これでは財政法あって国民無しと言われても仕方ありません。
特に今回の補正予算は、経済の生産性を高めて強い日本をつくることを主眼としていますが、そのために発行する8兆円もの特例公債は、「赤字国債」というよりも、投資のための借金といったほうがいいでしょう。どの企業も借金をして投資をしなければ成長しないのと同様、国も積極的に借金をして投資をしてこそ経済は成長します。
そのための国債は「投資国債」と呼んだほうがいいと思います。現在は公共事業という実物資産しか対象としていない「建設公債」の概念を、科学技術などの知的財産、人材育成など人的資本、国家(国防)といった無形資産にまで広げ、財政法4条を改正して「投資国債」として合法化してはどうかという私の持論を質疑ではぶつけました。
現行の財政法4条は、日本が二度と国債発行によって海軍力を増大させないよう、GHQが遺していったものだという説があります。現在の日本が当時のGHQが心配したような軍国主義に走る可能性はありません。むしろ、日本の防衛費の増大を求めているのは米国側。防衛費の対GDP比2%がこの補正予算で前倒しで達成されると政府は胸を張っていますが、ドイツは国防費増大のために政府債務のGDP比の上限を規定する憲法を改正するに至りました。防衛力は増税ではなく、堂々と投資国債の発行によって増強すべきでしょう。
●資産負債のバランスシート予算編成で積極投資を~やればできる公会計改革~
加えて、片山大臣への質疑では、国がバランスシートを用いて予算編成をすることで投資的な経費はプライマリーバランスから外し、資産と負債との関係で管理していくことを提案しました。これで資産とつじつまの合った負債を積極的に起こしていく財政運営へと転換し、財務省は国家投資の資産性や生産性を査定する官庁へと脱皮してはどうか、と。
過日、旧次世代の党の同僚の元衆議院議員が集まる会合がありましたが、その場で、私と片山大臣の大蔵省での後輩に当たる桜内文城氏が衆議院議員として取り組んだバランスシート予算編成を質疑で取り上げたことに対して、同氏が私に感謝していました。
当時、私たちは各省庁から概算要求のデータを取り寄せて、複式会計の発生主義に基づいて政府予算案を編成し直し、政府の予算案とは別に衆院本会議に上程しました。政府予算そのものを政党が編成して提出するという、憲政史上まれにみる快挙を成し遂げたことは意外と知られていません。これこそ「政治主導」でした。
片山大臣の答弁は、かつて大蔵省でまだ官僚だった桜内氏とバランスシート予算を試みたもののうまくいかなかったというものでしたが、その後、実際に、こうしてやり遂げていました。やればできることです。
さすがは積極財政派の片山大臣、立場上明言はできずとも、「その思いで財政運営に取り組んでいく」と前向き?の答弁でした。噛み合った国会論戦ができたと思います。
●マーケットに対抗できる積極財政のために政府通貨の発行で国債残高の削減を
質疑の最後に私が取り上げたのは、大量に増発される国債の消化の問題と日銀の金融政策についてでした。積極財政に対してマーケットは予想通り、長期金利の上昇と円安で反応しています。金利上昇は景気刺激効果を減殺しますし、円安は政府の物価高対策に反して物価上昇につながるものです。そうした事態を避けるべくマーケットからの信任を確保するためには、日銀による国債購入の増大が欠かせないはずです。
かつてアベノミクスの際には政府と日銀との政策協定(アコード)に基づいて、黒田総裁が率いる日銀が国債の「爆買い」を続けたことで金利は異常な低水準に抑えられてきましたし、コロナ対策100兆円の積極財政の際も日銀は国債を無限に購入すると宣言していました。結果として国債残高1,100兆円の半分を日銀が保有するに至りました。
ところが、金融の「正常化」を目指す植田現総裁のもとで昨年7月、日銀は毎月の国債購入量を削減するという政策転換をしています。他方で、国債にも自己資本比率規制を課す「バーゼルⅢ」の本格実施で、日本の銀行はかつてのように多額の国債を購入・保有することができなくなりつつあります。
つまり、長期金利の上昇を防ぐためには日銀が国債購入量を再び増やすことを想定しなければならないはずです。この点を質したところ、金融政策は日銀に任せているという答弁にとどまりましたが、前述のように市場からの信任を、政府が直接コントロールできない債務残高の対GDP比の低下をもって確保するだけでは「責任ある」にはなりません。
だからこそ、政府が通貨発行権を活用して発行するデジタル円をもって日銀保有の国債を償還し、このデジタル円を銀行を通じてユーザーが両替で取得することで、それ自体はインフレを招くことなく政府債務を削減することになる「松田プラン」が必要であること、そして今後、更に議論を進めていきたい旨を申し上げて片山大臣への質疑を閉じました。
すでに日銀は日銀発行のデジタル円の導入に向けて、そのインフラについても実証研究を進めています。中央銀行発行のデジタル通貨はCBDCと呼ばれ、中国ではデジタル人民元をブロックチェーン上で既に導入しており、欧州では欧州中央銀行(ECB)が2029年のデジタルユーロとしてCBDCの導入を決めています。
松田プランは日銀が準備しているこのCBDCを日銀発行ではなく、政府が発行することにするだけで実現可能になります。つまり、机上の空論や夢物語ではなく、やろうと思えばやれる状態に近づいている現実的なプランでもあります。
この故・安倍元総理も支持していたとされる松田プラン、山口敬之氏によれば、片山大臣は本プランを熟知しているとのこと。(高市総理も知っている可能性があるそうです。)常任委員長である関係上、私自身は国政全般を議論する予算委員会の質疑に立てないのが残念ですが、次の通常国会に向けて、財政金融委員会などの場を通じて、今度は財政の議論を松田プランへと限りなく近づけて参りたいと考えています。
なお、この松田プランをわかりやすく解説した対談本が刊行されます。漫画家の倉田真由美さんとの対談の形で、経済一般についても幅広く触れています。ぜひ、ご購読いただければ幸いです。
松田学×倉田真由美「超積極財政こうすればできる」(方丈社)



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