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  • 執筆者の写真松田学

新型コロナと日本の道~国債の呪縛から脱した財政対策と新たな成長戦略の方向を~

非常事態宣言まちがいなし、いつどんな中身で?知る由もない私にも何か情報は?との問い合わせが…。早くやるべきだとの声も強まっていますが、実際に都市封鎖(ロックダウン)をしている欧米と日本では、少し状況は異なるようです。むしろ、いま集中すべき対策は院内感染が拡大している医療機関。日本でもトリアージ(患者の選別)が…?


今週、政府は経済対策を決定しますが、期待された給付金は対象が限定される?ならばやはり消費税減税をという議論にならないか…?日頃からの備えがあれば、もっとできたことがあったのでは?と思います。当面の危機対策とともに大事なのは、今回の事態を奇貨として、次なる日本を組み立てる政策。疫病も含め、およそ大災害のあとに何をするかで、その国の将来が決まってきたのが歴史の教訓だそうです。では、何をすべきなのか。


●ロックダウンは本当に日本の選択肢になるのか

日本の新型コロナの累積感染者数は少なく、欧米とは1桁違います。死亡率も、軽症者を調べず、他国よりも検査対象者の分母が小さいことも併せ考えれば、相当低い水準に抑えられているといえるでしょう。「日本社会は欧米に比べて明るい」という指摘もありますが、韓国もソウルの生活は平常と変わらず、なんと4月15日には総選挙も…。どうも、理由はわからないようですが、死亡率が低いのは東アジアでは共通の傾向(中国は都市封鎖をした湖北省以外)のようで、欧米とは大きな差があります。


少なくとも、日本の現状でロックダウンを議論する国はあまりないようです。


本来、望ましいのは集団免疫の達成です。これは、地域の住民の多くが病原体に感染しても軽症か無症状のままで免疫を持つことで、その地域に再び病原体が侵入しても、彼らが盾となって大流行を防ぐという戦略です。感染の拡大そのものを抑止するのではなく、人類が多くのウィルスと共存してきたのと同じ状態の達成をめざすという考え方です。


英国が一時、それに踏みきろうとしたところ、あまりに急激な感染拡大を前に引っ込めました。集団免疫政策を維持しているのは欧州ではスウェーデンやオランダのようです。


テレビでもお馴染みの医師、上昌広氏が配信した記事によれば、英国も実際には集団免疫戦略を捨てたのではなく、大規模な抗体検査を準備中。抗体を保有していれば防御力があるという前提で、簡易抗体検査キットの検証を進めているようです。この話を聞いて、日本でも抗体検査の希望者が増加中とのこと。


抗体陽性者は職場で経済活動ができますし、医療現場では感染リスクが低いため、重要な戦力になります。抗体検査は日本の医療を守るためにも必要でしょう。


●大事なのは医療機関を守ること

日本の対策の最大の問題は、院内感染対策を軽視してきたこと、これが上氏の主張です。すでに日本の多くの病院や介護施設で集団感染が確認されているようですが、院内感染が広がった理由は、通常の風邪と新型コロナが区別できないなかで、多くの発熱患者が病院を受診すること。病院ではマスクや防護服も不足状態だそうです。


世界の感染件数が100万人を突破し、医療従事者を守るためのマスクを確保する動きが世界中で加速しています。新聞の報道では、感染者が急増する米国が、既に契約を結んだ他国よりも高い価格を払って買い占めるケースまで…。貴重な防具の在庫を巡る競争が…。


これまで感染者を次々と入院させてきた日本でも、ベッド数や医療人材、呼吸器など医療機器の不足が深刻になっています。医療崩壊こそ、日本が武漢やイタリアのようになる原因になるかもしれません。「予防衣もなく、ゴミ袋をかぶって診察している」、「この上、コロナの患者が増えたら診ろと言われても無理」…上氏の記事で紹介されている声です。


院内感染対策をしっかりやっておけば、日本は大急ぎで経済的ダメージが決定的となるロックダウンをする必要はない、上先生はこう主張しています。私が特に大事だと思うのは、ロックダウンでは集団免疫が獲得されないため、ワクチンが開発されない限り、一時的に流行が抑制されても、外部からの再流入におびえ続けなければならないことです。


●アベノミクスの次なる新たな成長戦略とは

いずれにしても、自粛状態がもたらす経済社会の崩壊の危機から国民を救うのが、各国が次々と打ち出している経済対策。日本では今週中にも決まります。それは、当面の緊急対策として家計にも企業にも金融市場にも、即効的に流動性を供給し、まずは自粛状況の国民に安心のメッセージを届けて「巣篭もり支援」に万全を期す内容とすべきでしょう。


ただ、大事なことは、今回の事態を奇貨として、次の日本に向けた構想を打ち出すこと。これあってこそのコロナ終息後の「V字回復」でしょう。その時点で安倍総理が掲げて解散総選挙に打って出るとの噂もある経済対策第二弾のテーマかもしれません。


そのメニューには、私が主張してきたような徹底的なデジタルトランスフォーメーション(経済社会の電子化)が、当然含まれるべきです。遠隔検査、遠隔診療、テレワークなどによる働き方改革、医療や介護へのAIやブロックチェーンなどの最先端ITの導入、さらには今回のような感染症対策も念頭に置いた健康関連の諸制度のデジタル化による相互連携システムの構築、そのためのマイナンバー制度のバージョンアップなどがそうです。


今回の事態で世界に蔓延しつつあるグローバリズムの見直しが、これまで過度にグローバル経済に依存してきた日本経済の収縮につながらない対策も不可欠です。これから世界的に、国民国家への回帰が進むでしょう。日本経済を内需が牽引する国民経済主導型の経済へと回帰させなければなりません。マスクや人工呼吸器まで中国依存だったことで課題が明らかになったように、市場経済一辺倒の経済運営から、国家の存立目的である安全保障(様々な意味での)の観点からの政府介入を再構築することも迫られていると思います。


今回示されたのは、インバウンドに期待する政策の過ちでした。トランプの「製造業を取り戻す」とは、国内に生産を回帰させること。グローバリズムに反して壁をつくって回帰させています。米国はグローバリズムの時代に海外に投資して返ってきたお金で国内のサービス業を発展させ、製造業は外に出て行きました。それがリーマンショック後、うまくいかなくなっていたということも、トランプ大統領が誕生した背景にあります。


日本も、インバウンドが一定以上の比率になるとリスクが大きくなることが明らかになりました。インバウンドが行き過ぎると、京都のように、日本人観光客が離れてしまいます。銀座も中国人でうるさいからと、日本人の顧客は日本橋に移っていましたが、今回、中国人が減り、銀座は厳しい売り上げ減に直面。外国人はコントロールしながら増やしていくべきものです。インバウンドの減少よりも国内消費の減少のほうが影響は大。


政権発足当初から「日本を世界一ビジネスをしやすい国に」を掲げ、国家戦略特区などで外資を呼び込むことに重点が置かれてきたのがアベノミクス3本の矢の「第三の矢」でした。これを少し方向転換し、国として国産比率を高めるべきものは何かをも見極めつつ、日本も国内生産を増やすことこそを新たな成長戦略とすべきでしょう。


●筋違いのはずの消費税減税が正当化される?

今回の経済対策に話を戻しますと、その柱となる給付金は一世帯当たり30万円という数字が報じられていますが、対象が低所得者や収入が大きく減少した世帯に限られるようです。米国では、5,000億ドル(55兆円)もの巨額の支出で富裕層以外の国民に広く給付するようですが、こちらは総額3兆円程度?と桁が1つ少なく、対象限定のため実際の給付まで時間もかかりそう…。ただ、金持ちは別として、中所得以上も含めた国民のほぼ全員が、長い「巣篭もり」で失うものが多いのが今回の事態ではないでしょうか。


これでは、国民全体が裨益を感じる消費税の減税でもなければ、今回の経済対策の恩恵を実感する国民は少数派となってしまいます。2枚の「アベノマスク」でごまかされた…そんな声が起きて、安倍政権が国民からの支持を失わないか心配になります。


前回の本欄でも述べたように、本来、消費税の減税は今回とるべき対策の性格に照らして筋違いです。今の制度では、消費税率の引下げを決めて法律を国会で通し、実際に消費の現場で価格が下がるまでには、それなりの時間を要します。


仮に小売店で値段が下がるのが6月末だとしましょう。自粛措置からの出口が例えばGW明けだとすれば、それまで巣篭もりで控えていた消費活動を、さぁ再開というときに、ちょっと待てよ、7月になれば消費税率が下がる…、ならば、それまで待とう、と、買い控えが起こり、せっかく回復するはずの消費の足をかえって引っ張る要因になります。


もし、消費税率が下がった6月末でもまだ、自粛状態が続いていたとすれば、消費税率引下げは消費を促進する政策ですから、家の中で巣籠もりせよと言っている一方で、外出してお金を使うことを奨励してしまうという矛盾が出てしまいます。事業者のほうも経理の対応や値札の貼り換えで余計な仕事で社員や店員は出勤を強いられます。


それよりも、安心の給付金をどの家庭にも配り、それを自粛期間中は貯金しておいていただき、自粛が終わったら大いに消費に回して景気のV字回復を図るというのが、今回の事態に即した本筋というもの。よく「問題の裏返しには答えはない」と言う通りです。「景気が悪いのは消費増税が大きな原因」→「だから、景気を良くするためには消費減税だ」というほど単純ではないのが、今回の深刻な事態ではないでしょうか。


しかし、あくまで、この論の前提は、ほとんどの世帯が給付金をもらうことです。給付金を渋るなら、この自粛期間中でも誰もが買わねばならない生活必需品は、その多くが軽減税率8%の食料品ですから、すでに区分経理されている軽減税率対象品目について例外なく非課税にすることが選択肢になってきます。それぐらいのことをしないと政治的にもたないのではないでしょうか。理想をいえば、新年度入りの4月1日に間髪を入れず実施できたほうがよかったのですが、少なくとも自粛期間内に実施しないと意味がありません。


タイムリーな政策効果を発現できるために、本来、消費税減税のために必要だったのは、金融政策のようなファインチューニングの政策手段として機動的に使えるような消費税インフラの整備だったと思います。例えば、マイナンバー制と結び付けたポイント支給であれば、所得階層に応じた金額での支給もきめ細かく、瞬時にできたはず…。


●危機対策を国債の呪縛から解放する「松田プラン」を

もう一つ、日本が米国のような思い切った規模での財政支出に踏みきれないのは、財政規律の問題があるからでしょう。米国では今回の対策で財政赤字が1兆ドル弱から2.4兆ドルに膨らみます。それでも、この第二次大戦以降最大の危機を乗り切ることを優先。日本の経済対策の場合、「史上最大」を謳っても、財政への配慮から真水以外の融資や保証枠などの「ふくらし粉」が大きな部分を占めるのが通例でした。


しかし、今回は同じ資金繰り対策といっても、融資では無理との声が高まっています。無利子無担保でも、自粛期間の出口以後なら返済できるかといえば、実際には返済の重圧で苦労することになる中小零細企業が多数にのぼるでしょう。それでは「V字回復」も足を引っ張られる…。民間の債務を拡大する発想は極力回避すべきでしょう。家計も企業も必要なのは「リアルマネー」。米国では、中小企業への公的融資3,500億ドルは、その企業が雇用を維持すれば返済不要にするとのこと。リアルマネーの発想が随所にみられます。


今回は下手をすると経済全体がメルトダウンしてしまう戦後初の未曽有の危機。財源の問題がリアルマネーの制約にならないよう、赤字国債を相当程度増発する例外的な覚悟が要ります。普通であれば、国債増発の何がいけないかと言うと、短期的には金利の上昇であり、長期的には将来世代の負担の問題ですが、心配は要りません。


増発される国債は日銀が買って、今までの異次元緩和政策と同様、日銀のバランスシート(資産の部では日銀保有国債、これに対応する負債の部では日銀当座預金という帳簿上の負債)の中に不胎化するだけのことです。インフレの心配はありません。これまで、普通国債の発行残高の半分以上も日銀バランスシートの中にため込んでも、2%のインフレ目標すら達成が覚束ないのですから。


将来、その出口となるのが「松田プラン」です。日銀保有国債はマイナンバーと結びついた便利な「デジタル円」へと転換されていきます。これは、今回のような危機に、給付金をきめ細かく瞬時に国民に配布する上でも不可欠なインフラになることでしょう。


「松田プラン」といってもすぐにお分かりにならないと思いますので、詳細は、このメルマガの「2.活動報告/セミナー情報」の(2)でリンクを貼った私の寄稿による「mymo」掲載記事をご参照ください。いま必要なのは、最先端の情報技術をフルに活用して危機を乗り越えられる仕組みを、未来に向けて備えておくことだと思います。

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